チュートリアル徳井の申告漏れは他人事ではない 追徴課税で1100万円納めた俺氏が教える税務調査の実態 - おおたけまさよし
※この記事は2019年11月04日にBLOGOSで公開されたものです
なんでも調べる放送作家のおおたけです。先日、お笑いコンビ・チュートリアルの徳井義実さんが設立した会社が税金の申告漏れと所得隠しを行ったと大きく報じられました。2018年までの7年間で計約1億2000万円の申告漏れ。このうち約2000万円は仮装隠蔽を伴う所得隠しと認定されています。
徳井さんはすでに重加算税などを含めた追徴税額約3700万円を支払い済み。修正申告と納税は終えています。
世間でも大きく注目されたこの騒動。私も個人的に大変気になり、ニュースや新聞をチェックしていました。なぜなら、私も税務調査を受けて追徴課税を納めた経験があるからです。
今回は税務署による税務調査がどのように行われるのか。実体験をもとに綴ります。
放送作家についてご存知ない方が大半だとおもいますので説明しますと、放送作家の給与は大半が歩合制。事務所所属の有無は関係なく、確定申告は本人の裁量に任されるケースがほとんど。会計士を雇う人もいれば、個人で申告する人も多いです。
私の場合は後者で、放送作家の仕事を始めてから常に個人で確定申告をしていました。しかし、数年経った頃から仕事の忙しさもあり計算がどんぶり勘定に。正確な金額で申告をしていませんでした。当然、これがのちのち自らを追い込むことになります。
税務署から突然の電話「過去3年分の経費を計算し直してください」
2016年4月、放送局で仕事をしていた時にスマートフォンが鳴りました。東京の市外局番から始まる見慣れない番号。スマホの向こうから聞こえてきたのは「○○税務署の者ですがお時間よろしいですか?」「仕事中なので少しなら」と答えたものの、頭の中はパニック。その時の私と税務署職員のやりとりです。
職員A「おおたけさんの申告について気になるところがありまして…」
おおたけ「と、いいますと?」
職員A「経費を確認したいのですが3年分の領収書を計算し直してもらえますか?」
おおたけ「いつまでですか?」
職員A「なるべく早くお願いします」
おおたけ「なるべく早くですか…」
職員A「失礼ですが、領収書は残してありますよね? ご自宅まで確認にいきましょうか?」
おおたけ「あっ、あります、あります。ちょっと一度確認して折り返していいですか?」
確定申告は基本的に自己申告。領収書は申告書を記入するために納税者が使用するもので提出することはありませんが、今回のように税務調査で必要となります。自宅に来て確認するケースもあるようですね。(領収書は5~7年の期間で保存する必要がある)
年間の売上から経費を引いた収入の金額で決まるのが所得税の税率。経費が多ければ、課税される所得金額が減るので税率が下がるというわけです。
話を戻して、税務署職員と私のやり取りです。「確認して折り返す」と言ったところで何を確認するのか自分でも分かっていませんでした。とりあえず落ち着くため、放送局のトイレの個室で検索。スマホの画面に出てきたのは「税金申告漏れで口座凍結」の文字。税務署は個人の銀行口座を凍結させることができると分かりました。4月のまだ肌寒い日でしたが、額と背中に流れるイヤな汗。覚悟を決めて、トイレの個室から税務署に電話をかけ直しました。
おおたけ「先ほどの件ですが、領収書は残してあります。ただ仕事もあるので短時間で3年分を計算するというのは難しいように思います。何か他に方法はないですか?」
職員A「うーん…」
おおたけ「3年分の経費を0円で申告した場合、税金の支払いはいくらになるでしょうか?」
職員A「そうですね。正確な金額ではありませんが1600万円ぐらいだと思います」
トイレの個室で頭を抱えました。1600万円あれば、地方なら家が買える金額です。もちろんすべては自業自得。1600万円と口座凍結の二択に言葉も出ません。受話器の向こう側にいる職員さんにも私の声にならない声が伝わったのか、次のような提案を受けました。
税務署から提案された打開策
職員A「わかりました。今年1月から4月分の領収書はありますか? 4ヶ月分の領収書を税務署に持ってきていただければ、職員で手分けして計算します。その金額をもとに過去3年分の経費を計算します」白馬の王子様の登場です。そもそも税務署の職員は敵ではなく味方。国民の義務である納税を怠ったことでピンチに立たされている私のような人間を、口座凍結などの処遇から救うため、こうして電話をかけてくれています。私の返事はもちろん「それでお願いします」。
翌日、4ヶ月分の領収書が入った封筒を片手に税務署へ。私の担当職員は、電話をかけてきた職員Aでした。彼と話している間に、別の職員2人が領収書の計算を開始。こうした機会は滅多にないので私は税務調査に関する疑問を職員Aに伺いました。
おおたけ「区民全員を調査しているわけではないと思うのですが、なぜ私だったのでしょうか?」
職員A「ご職業の欄に『ライター』と書いてありましたが、ライターにしては収入が多いなと思いまして…」
この発言から、職業によって収入の想定金額があるのではないかと推測しました。地域差もあるかもしれません。もし基準があるとすれば、東京都港区と他の区が同じとは考えにくいからです。あくまで推測ですが。
職員Aとそんな話をしていると、領収書の集計が終了。細かな金額は覚えていませんが、この年の1月~4月の経費をベースに過去3年分の経費を計算した結果、追徴課税の金額は1600万円から1100万円に。500万円の減額となりました。
500万の減額は大きいですが、残った1100万円も決して少ない金額ではありません。すべては自分で蒔いた種。1100万円の税金については一度に納税するわけではなく、都民税、区民税など納税していなかった分を個別に請求されます。時期もバラバラです。
税務調査で遡れるのは最長で7年
追徴課税は一段落となりましたが、今後も個人で確定申告をする勇気はありません。すぐに以前番組でご一緒した会計士さんに事情を話し、翌年以降の確定申告をお願いしました。事の顛末をすべて話すと会計士さんは優しい笑顔で「(税務調査で遡った期間が)3年で済んでよかったですよ。税務署が悪質だと判断した場合、最長で7年前まで遡ることがありますから」と言いました。徳井氏が今回7年間遡った税務調査を受けたというニュースを聞いて、私はこの時の会計士さんの言葉を思い出しました。7年間遡って税務調査が行われるということは、税務署が「非常に悪質である」と判断したことを意味しています。
もう1つ、会計士さんの言葉で印象的だったのが「会計士は納税者の味方」というもの。「税金の仕組みは複雑でよくわからない」と思考停止に陥り、プロに相談しないことが最悪のケースを引き起こします。
納税することは当たり前で、申告漏れ、所得隠し、脱税をすればいつかは見つかります。そして待っているのは口座の凍結です。
私が言えることではありませんが、納税は国民の義務。しっかりきっちり正しいルールで納めましょう。