※この記事は2019年01月06日にBLOGOSで公開されたものです

ポーランドのマンションで火災が発生し、10代の少女ら5人が死亡したという。(*1)

ポーランドという日本から遠く、かつ「火災で死亡」という、残念ながら世界中でよくある事件に対して僕が興味を持ったのが、この事故が「脱出ゲームの施設だったから」である。

このマンションの部屋では、脱出ゲームのアトラクションが提供されており、死亡した5人は誕生日のお祝いとして、この施設を訪れていたということである。(*1)

「脱出ゲーム」とは、主人公が何らかの理由で部屋に閉じ込められ、アイテムを見つけたりパズルをときながら最終的に部屋を脱出することを目指すゲームのことである。

ネットを中心に、ちょっとした時間で遊べるベームとして親しまれ、かつてはFlashゲームとして、今はスマホゲームとして根強い人気を誇っている。

そうした人気を現実世界に持ち出したのが「リアル脱出ゲーム」である。

日本でもリアル脱出ゲームは盛んに行われている。

かつてはテーマパーク等の特設アトラクションとして楽しまれたが、最近では大型展示会場を利用しての、脱出ゲーム単独での興行や、東京メトロのような企業とタイアップして、街巡りを楽しませるようなイベントまで幅広く行われている。

さらに、リアル脱出ゲームが商業的に成功している結果、常設の脱出ゲーム会場も増えてきている。ポーランドのマンションもそうした常設会場の1つであったのだろうと思われる。

こうした説明を聞いて、すでに理解できる人もいるだろうが、脱出ゲームと言っても「閉じ込められた場所から脱出する」ゲームばかりではない。

広い場所や街中を散策しながらの脱出ゲームもあり、いわば「謎を解くことを楽しむ、都市型オリエンテーリング」的なゲームを総称する名称として「脱出ゲーム」という名前は認識されているのである。

だが、脱出ゲームというジャンルを知らない人にとってはそうではない。

今回の事故で脱出ゲームという名前を初めて聞いた人は「脱出ゲームだから、マンションに閉じ込められた。閉じ込められたから火災から逃げられなかった」という、短絡的な発想をするかもしれない。

たしかに、日本でも閉じ込める型のアトラクションはあるが、当然、消防法の規制に沿っているははずである。

テレビなどでも知られる東大ナゾトレの著者のひとりでもある松丸亮吾氏も、この事件を受けて「日本の脱出ゲームは消防法があるので、完全な密室では可動できなかったと思う」との旨、ツイートをしている。(*2)

今回の火災でポーランドの施設がどのような状態だったのかはわからないが、日本の脱出ゲームの会場は法的に安全な状態を確保しているはずである。そうでなければ営業の許可が出ない。

レストランで火災が発生して死者が出たからと言って「世界中すべてのレストランは危ない!」と叫ぶくらいにナンセンスなことはない。今回の事件においても、ポーランドの施設で死者が出たからと言って、日本の脱出ゲーム施設に対して「同じ脱出ゲームであるから危険だ」と考えることはナンセンスであると言えよう。

だが、そのようなことを考えず、ただ「若者がハマるもの、けしからんものに違いない」と決めつけて叩く人たちは確実に存在する。

それはいわば、アニメやゲーム、サブカルチャーといったものに懸念を示すことを商売にしてきた人たちだ。

我々団塊ジュニア世代が子供だった頃に、マンガやアニメやゲーム、これらを叩いてた人たちは、今もなおそれを叩くことに「需要がある」として、決め打ちをしてくるのである。

今回も「脱出ゲーム」と「ゲーム」という単語がつくからと、叩くためのネタにする人は確実に出てくる。

それは今で言えば、どんな問題があろうとも、とりあえず中国や韓国の悪口を言ったり、Appleを叩いていれば、真っ当な識者だと思われて、PVが増えるようなものである。それが一昔前は、アニメやゲームだったのである。

脱出ゲームは、大手企業とのコラボレーションも多く、比較的そうしたバッシングには強そうに思える。

だが、ゲームが人々の生活に欠かせないものになって以来、様々な角度から批判され、常にバッシングの対象になってきたという歴史を軽視するべきではない。

このニュースの扱われ方には、しばらく注視する必要があると、安直なアニメ・ゲームバッシングを知っている身からの警告である。

*1:「脱出ゲーム」で火事 少女ら5人死亡 誕生日で…(テレビ朝日)https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000144559.html
*2:日本の「脱出ゲーム」は消防法が厳しくて、火事が起きたときの有事を想定して排煙の機構を整備しないといけないから、完全な密室では確か稼動できなかったと思うんだけど、エンタメを作る立場として安全は何よりも最優先にしないとだよなぁ… 悲しい事件だ(松丸亮吾 Twitter)https://twitter.com/ryogomatsumaru/status/1081457173836644352