※この記事は2019年01月03日にBLOGOSで公開されたものです

平成の終焉まで、いよいよカウントダウン。オリンピックだ、万博だと浮かれてはいるものの、日本経済の先行きは相変わらず不透明だ。景気回復の長さがいざなぎ景気を超えたと言うが、その実感はまるでないし、アベノミクスも手詰まり気味だ。

新元号になる今年10月には、消費税増税も控えている。今後ますます厳しさを増すであろう新時代のビジネスシーンを、われわれはどうやって生き抜いていったらいいのだろうか?

実は、この難局を生き抜く知恵を、ほとんどお金をかけずに養う方法がある。BLOGOS読者の皆さんにコッソリ教えよう。それは……「将棋を指すこと」である。

将棋の戦術をビジネスに活かせ



藤井聡太ブームの影響で、最近脚光を浴びている将棋。ニコ生、AbemaTVでも、将棋のタイトル戦中継は、毎回高い視聴数を誇る優良コンテンツである。自分は指さないが、プロの対局を観戦するのが好きというファン(通称「観る将」)も生まれているほどだ。

将棋とは、20枚の駒を操り、自分の玉(王将)が詰まされる前に、相手の玉を詰ますゲームである。社員をうまく使って、決められた期間内に目標の成果を上げる会社経営者やプロジェクトリーダーと、やっていることは本質的に同じなのだ。

あなたが若手社員だったら、どうやって自分の長所を磨き、活躍の場を見つけていくか? その戦略を考えることは、駒の特性を活かして戦術を組み立てる将棋の思考法とまったく同じである。

実際、将棋を指すと、ロジカルに物事を考えることができるようになるし、人間的な幅も広がる。つまり、「将棋を指す」=「ビジネスに直接役立つ思考法・心構えが養える」わけだ。

将棋は負けたら悔しいが、それで財産を失くすわけではないし、損をすることなど何もない。しかも今はWebで知らない人と無料で指すことができる。ノーリスク・ハイリターン。こんなにコスパの高いゲームは他にないので、自信を持っておススメしたい。

そんな思いから、昨年秋に私が書き下ろした本が『仕事は将棋に置きかえればうまくいく』(扶桑社刊)だ。



将棋から応用できる、戦略・交渉・人材活用へのロジックを100個の項目に分け、将棋をまったく知らなくても、そのエッセンスが伝わるように書いてみた。

今回はこの本の中から特別に、平成の次の時代を生き抜くための、将棋に学ぶ“サバイバル術”をご紹介したい。

「駒の特性を把握する」→人材は適材適所で起用

将棋はまず、8種類ある駒の特性を把握することが大事だ。とくに「金」と「銀」の使い分けは大きなポイントで、両者の動ける範囲を確認しておこう。
  

  前方3ヵ所に動けるのは、金も銀も同じだが、注目してほしいのは、バックするときの動きだ。

金は真後ろ1ヵ所にしか下がれないので、いったん前に出てしまうと、後戻りが難しくなる。なので、自陣に置いて守備駒として使うのが得策である。

いっぽう銀は、後方2ヵ所、斜め後ろに動けて機動力に富んでいるので、こちらは攻め駒に使うといい。

会社にも金タイプ・銀タイプの社員がいるが、金タイプは社内で懸案を処理する役目が適任で、銀タイプは現場に出て、機敏に指揮をとるリードオフマンが向いている。

ときにどう見ても内勤向きの人が、人手不足なのか外回りの営業マンをやっている例を見掛けるが、金を攻め駒として使っているのと同じで、それでは成果は上がらない。

あなたがプロジェクトリーダーなら、将棋の駒のように、部下の性格と特性を把握し、適材適所に据えることだ。同じチームでも、メンバーが適職に就いているかどうかで、成果は大きく違ってくる。

「金は斜めに誘え」→お堅いクライアントは横丁に誘え



もしあなたの担当するクライアントが、金タイプの難攻不落な、お堅い人物だったらどうするか? 

そういう人を高級割烹のようなフォーマルな店に連れて行っても、行き慣れているので新鮮味は感じてもらえないだろう。

将棋には「金は斜めに誘え」という攻めの格言がある。金は斜め前に動くと、斜め後ろには戻れないので、元の位置に戻るのにどうしても2手かかる。つまり斜めにおびき出されると、金は弱いのだ。

金タイプのお堅い社員を落とすときにも、この「斜めに誘う」攻め方を応用してみよう。ここは思いきって、ガード下の横丁に誘い、焼き鳥やモツ煮で接待してみるといい。

「一度来てみたかったんだよ!ありがとう!」と言われたらしめたもの。勝利は目前だ。

飛車+銀の協力で敵陣を突破する「棒銀」→同僚との連携プレーで予想以上の成果を

飛車側の銀が敵陣を目指してどんどん進んでいき、攻撃の先導役を果たす戦法が「棒銀」だ。「ひふみん」こと加藤一二三九段も愛用した戦法で、銀が切り込み隊長となって働くことで、飛車は自ら動かなくとも威力を発揮できる。

これをビジネスに置きかえると、エース格の社員はあちこち動き回る必要はなく、その意図を汲んだ社員が代わりに動けばいいのだ。その社員が的確に動けば、エースは動かずして、2人で仕事をしているのと同じことになる。

仕事ができる人ほど、何でも1人でやろうとするが、周囲との連携プレーで事を進めると、うまくはまれば予想以上の成果を生むものだ。そういうチームを作れるかどうかが、真の「突破力」なのである。

ノーガードで中央制圧「ゴキゲン中飛車」→リスクテイクを恐れない姿勢が好結果を生む

将棋には「ゴキゲン中飛車」という戦法がある。「ゴキゲン流」こと近藤正和六段が創案した戦法で、中飛車は通常、角交換を避けるのがセオリーだが、「交換したければご自由に」とノーガードで飛車を中央に回す強気な戦術だ。

相手がひるんだら、すかさず中央を制圧。自分のペースに持ち込むのである。近藤六段は一時期、この戦法で勝ちまくり、ゴキゲン中飛車はプロ・アマ問わず大流行した。

ビジネスでも、何の成算もなくリスキーな道を選択するのは論外だが、事前に入念なリサーチをした上で「行けそうだ」となったら、多少のリスクは厭わず、ゴキゲン流で企画をどんどん前に進めるといい。「ここまで腹を決めてやってくるとは、タダものじゃないな」と相手に思わせれば、ビジネスを優位に進められることだろう。

このように、将棋の戦法や格言は、けっこうビジネスに役立つものが多い。また将棋を指すことは、物事を俯瞰して見る訓練にもなるし、瞬時の判断力も養える。

そして負ける痛みを知ることで、相手を思いやる心も自然と身に付くだろう。礼儀作法も学べるし、何度も言うが、ノーリスク・ハイリターン。ぜひあなたも、実際に将棋を指してみてほしい。新しい時代を生き抜くためのヒントが、きっと見つかるはずだ。



著者プロフィール

加藤剛司
構成作家・ライター 1967年 名古屋市生まれ。
ニッポン放送を中心に、ラジオ番組を多数手掛ける。中学生のとき将棋にはまり、独学で研究。上智大将棋部では4年間レギュラーを務めた。野球と歌謡曲をこよなく愛し、その方面の執筆も多数。