企画の限界に挑戦する「水曜日のダウンタウン」ワクワクする企画とは何か? - 西原健太郎
※この記事は2018年12月29日にBLOGOSで公開されたものです
2018年も暮れようとしている今日この頃。みなさんいかがお過ごしでしょうか?私はというと、今年中にやらなければならない収録や、編集、完パケ納品、報告書作成、領収書の整理など、すべての作業をあと数日で終わらせるべく、一つ一つ着実にこなしていく日々を過ごしています。ところで、この時期になるとテレビ・ラジオでは様々な特番が放送されます。私もいくつか視聴しましたが、その中で企画がとても印象的で、久しぶりにワクワクした番組がありました。というわけで、今回は番組の企画について、思うところを書いてみようかと思います。
企画の限界に挑戦する「水曜日のダウンタウン」
今回私が視聴したのはTBSで年末に放送された『水曜日のダウンタウン』。この日はその中の企画『MONSTER HOUSE』のスペシャルでした。詳しい内容は皆さんの方が詳しいと思いますし、私は内容に賛否を唱えるつもりはありませんが、最後の局面で収録番組から突如生放送に切り替わるという演出があり、視聴者投票でオチを決めるという企画が行われました。企画のオチについては人によって様々な意見があると思いますが、それよりも私がワクワクしたのは、突如生放送に切り替わるという演出です。収録映像の中で、「企画の出演者が企画のオンエアを部屋のテレビで観る」というシーンがあったのですが、このシーンで「オンエアを観ないと出演者は全体像が掴めない」というフリを入れ、最終回である今回のオンエアを、生放送で企画の出演者に見せるという演出。そして突如生放送に切り替わり、最後の答えを出演者から生で発表する…。生放送でしかできない演出と企画。感想はSNSで即拡散され、ツイッターの世界トレンドでも上位を独占するという異常事態。オチの出来はともかく、この企画は近年稀に見るワクワクする企画だったと思います。
今、世の中で放送されているテレビ・ラジオ番組は、いつでもどこでも視聴できるという事が求められます。各社アーカイブサイトを立ち上げたり、ラジオ業界で生まれた『radiko』というネット配信サービスは、『タイムフリー』という、後で番組を聴く事ができる機能もついています。もちろん、TBSも再配信には力を入れているので、『水曜日のダウンタウン』も再配信サイトで見る事ができます。でも、この日の特番のワクワク感は、生で視聴していた人しか味わう事ができなかったと思います。
今、放送メディアのコンテンツは、常に『自主規制』と『世論による規制』から生まれます。放送業界では、どんなに面白いコンテンツも、世論がNOと言いそうなコンテンツは世に出すことは出来ません。かつてはOKだった表現も、現代の世論ではNGである事も多く、自主規制により表現の幅がどんどん狭くなっていっています。
その中で放送された、この日の『水曜日のダウンタウン』の企画は、放送メディアが作る限界に挑戦した企画だと言えます。そして、現場で働くテレビマン・ラジオマンの『企画に対する考え方』に一石を投じたと思います。
私自身にも言えるのですが、番組制作者は、今、ワクワクするコンテンツをどれだけ世の中に送り出せているでしょうか?誰もが楽しめるコンテンツを作る、バランス感覚を持ってコンテンツを作るという能力は、メディア業界で生きる人間には絶対必要なスキルですが、世論の批判を恐れるあまり、無難な番組を作り続けてはいないでしょうか?
もちろん、世の中に迷惑をかける企画や、人権的に問題がある企画は論外です。
放送メディアに比べて規制がゆるい『ネットメディア』でも、人に迷惑をかけたり、人権を無視した企画は批判され、炎上の対象になります。つまり、『面白い企画』・『ワクワクする企画』は、ネットメディアでも放送メディアでも平等に生み出す事が出来るのです。私を含め、放送メディアの番組を作る制作者は、「テレビ・ラジオはつまらなくなった」という声を、もっと真摯に受け止めないといけないですし、「規制があるから面白い企画が生まれない」というのは単なる言い訳なのだと思います。
今、テレビ・ラジオ業界では、先に挙げたインターネット配信や、番組内容を文字起こししたりと、どうにかして視聴してもらおう、興味を持ってもらおうとする動きが盛んです。興味を持ってもらう運動自体は良いことだと思います。でも、興味を持ってもらって、視聴してくれた番組のクオリティは、興味を持続させるに足り得るクオリティになっているのでしょうか?興味を持って貰うための運動は、放送メディアが無くなると困る・食べていけない人達による運動になっていないでしょうか?コンテンツのさらなる充実こそ、放送業界に今必要な事だと思います。
さて、2016年の年末からスタートしたこのコラムですが、今回で一区切りを迎えることになりまして、今回で最終回となります。私は「放送作家は裏方であるべき」というのが信条で、これまで「名も無き作家」である事に勤めてきました。でも月に一度、裏方としての意見を表現できるこのコラムは、書いている私自身も、自分の仕事について見つめ直す、良い機会になりました。表に出る機会を与えてくれた、BLOGOS編集部に感謝しています。
最後になりますが、これまでこのコラムをご覧いただきました皆様、ありがとうございました。私は再び名も無き作家に戻りますが、業界の片隅で、皆さんがワクワクする企画、コンテンツを世の中に生み出すべく、これからも精進してまいります。
2018年12月27日
西原健太郎