【佐藤優の眼光紙背】ロシアによる日本買収戦略 - 佐藤優
※この記事は2008年02月12日にBLOGOSで公開されたものです
2月8日、モスクワのクレムリンで行われた国家評議会において、プーチン・ロシア大統領が「2020年までのロシアの発展戦略に関する演説」を行った。この演説で、プーチンは、ロシアが1991年12月のソ連崩壊後の混乱を完全に脱却して、帝国主義国として国際舞台で活躍することを明確に宣言している。特にプーチンは、ロシアの株式市場が強化されたことについて、「1999年と比較して、(2007年の)株式市場は、驚異的なことであるが22倍に成長した。指標によれば、既に2006年に、ロシアは、メキシコ、インド、ブラジル、更にその他の順調に発展する諸国、例えば韓国を追い抜いた。1999年に600億米ドルだった株式市場は、2007年には1兆3300億ドルに発展した」と誇らしげに述べている。
10日、クドリン・ロシア外務省が額賀福志郎財務相に、<原油や天然ガスによる収入を運用する政府系ファンドが近く日本企業の株式への投資を始める方針を表明した。額賀財務相との会談の中で明らかにした。日本で存在感を増す中東産油国や新興国に続いて、ロシアの政府系ファンドも対日投資に踏み切る>(2月10日asahi.com)と述べたが、これは、プーチン演説を踏まえたものである。
<ロシアの政府系ファンドの資産規模は現在、1500億ドル(約16兆円)。これまでは米ドル、ユーロ、英ポンド建ての高格付け債券を投資先としていた。今月からファンドを2分割し、片方はほかの通貨建ての株式も含めて、積極運用に回すことにしたという>(同右)。欧米の民間投資ファンドと比較すれば、ロシアの政府系ファンドはかわいいものであるが、クドリンのこの発言を軽視してはならない。ロシアの政府系ファンドは、単に金儲けのために株式投資を行うのではない。ロシアの国家戦略を総合的に考えた上で行動する。北方領土問題をロシアに有利に解決する環境を作るために、北海道で領土よりもロシアとの経済的提携を優先する流れをつくることを当然考える。従って、北海道の漁業会社や地元ゼネコンの株式購入をロシアは真剣に検討する。更に、鉄道、航空、電力、ガスなど、戦略的に重要な企業の株式購入にロシアは強い関心をもつ。
ロシアには、経済安全保障(エコノミーチェスカヤ・ベスアパースノスチ)という概念がある。SVR(対外諜報庁、KGB[ソ連国家保安委員会]第一総局の後身)にも、経済安全保障局が設置され、外国投資家のロシア企業の株式購入がロシアの国益を毀損するような事態にならないように、裏から監視を行っていた。今度は、SVRが攻勢に出て、経済を通じ、日本を戦略的にロシアに従属させようとしている。ロシアの日本買収戦略を的確に把握することが日本の国益を擁護するために必要だ。(2008年2月12日脱稿)
プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧