※この記事は2007年11月27日にBLOGOSで公開されたものです

 国内政治でも外交でも本質的問題と非本質的問題がある。非本質的問題を本質的問題の如く取り扱ってはならない。

 例えば、インド洋での海上自衛隊による給油活動の問題についても、テロ特措法を延長、もしくは新法を成立させて、給油活動を行うか否かといった問題は非本質的問題であると筆者は考える。別に日本が給油活動を停止しても、アメリカ軍の艦船は、有料で別の給油艦から給油すればいいだけの話で、対テロ作戦計画に影響を及ぼすわけではない。

 テロとの戦いに関しては、アフガニスタンの復興のために政府の文官や民間の専門家を派遣すればよいという提案もある。一見、まともな提案のように見えるが、実際にタリバーン勢力が息を吹き返しているアフガニスタンに日本人を派遣すれば、拉致や誘拐の対象になる。そのような事態を防ぐためには、自衛隊を派遣することが不可欠だ。日本から文官や民間人を派遣するが、命を賭してそれを守るのは外国軍だなどという、危険負担を外国政府に押しつけるような事業は、国際社会では貢献と認められない。そのような状況でインド洋に日の丸がついた「無料ガソリンスタンド」を設置するというのは、決して悪い案ではないと筆者は考える。特にタリバーン勢力が伸張し、アフガニスタンの麻薬ビジネスが深刻な問題を引き起こしているのみならず、オサマ・ビンラディンが再びビデオに顔を出して、国際テロリスト勢力が力を増しているときに、国内的見解の相異を理由に自衛隊がインド洋から撤退してしまったことを筆者は残念に思う。

 国会では、テロとの戦いについて、もっと本質的な議論を展開すべきだ。そもそも論に立ち返って、テロの定義から議論したらよい。なぜビンラディンやタリバーンが祖国から外敵を追い出す自由の戦士ではなくテロリストなのか。局外者として、イラク問題やアルカイダ問題にはかかわらない方が、日本がテロの標的になることを防ぐために得策ではないか。このような問題を徹底的に国会で議論し、国民に本質的問題が何であるかを理解してもらう努力を国会議員は怠ってはならない。

 自民党と民主党の間でテロとの戦いに日本が参加することは不可欠であるという共通認識は共有されているのだから、あとは小学校の学級会のように、素直な討論を党利党略から離れたところで行うべきである。
 それができないならば、まず衆議院を解散して総選挙を行うことだ。そして、そこで示される結果を民意とみなせばいいだけのことだ。大連立とは、戦争や大災害で、政争を行っていると国家が崩れるときにだけ使う緊急手段だ。衆参のねじれ解消程度の非本質的問題の解消のために「伝家の宝刀」を抜いてはならない。(2007年11月26日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。