「1,000万円払うから」妻に離婚を突きつけた夫。大金を支払ってでも離婚したいその理由とは…
ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。
それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。
あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―？
◆これまでのあらすじ
レス改善に向けてカウンセリングに通う傍ら、土曜の外泊を繰り返していた将暉。ついに春乃に離婚を切り出して…。
▶前回：デート後「友達と飲み直す」と出ていき、朝まで音信不通になった男。一体何をしていた…！？
Vol.14 離婚したい理由
結婚1周年の記念日である4月の土曜。私は、夫から“1,000万円渡すから、離婚してほしい”と、突然言われた。
「急に何言っているの？意味がわからないよ」
「何も聞かずに、離婚してくれ」
「そんな簡単に離婚なんてできるわけないでしょ。他に好きな人ができたの？」
「そ、そうじゃないよ」
「毎週土曜に外泊してるけど、どこに泊まってるの？」
「…離婚するのに関係ある？1,000万円渡すんだから、それでいいだろ？」
将暉は、苛立った様子で言い放つと、私から目を逸らした。
― お金さえ払えばそれで済むと思っているなんて、私のこと何だと思ってるのよ！
怒りが込み上げ、彼への気持ちが一気に冷める。
「最近のあなたの行動が怪しいから、興信所に素行調査をお願いしていたのよ。この封筒に真実が入っている。でも、私はまだ開けてないわ」
「そんなことしてたの？人として最低なんだけど」
「将暉の口から真実を説明してほしい」
逆ギレしていた将暉だったが、観念した様子で、語り始めた。
「わかったよ。……実は」
将暉が語った驚愕の真実に、春乃の反応は…
「半年くらい前に元カノから連絡が来るようになって、今年に入って頻繁に会うようになった。でも、怪しいことは何もない」
「どういう意味？」
将暉は、悪びれることなく続ける。
「麻美とは、麻美って春乃と知り合う直前まで1年付き合ってた元カノの名前なんだけど、付き合ってる時からレスだし。今だってそういうことはしていない。
でも、彼女から『レスは気にしないから、やり直したい』って言われて、心が動いたんだ。
強制的に通っているカウンセリングとかすごく嫌だったし。彼女は僕のありのままの僕を愛してくれているって感じたんだ」
「なら、最初から彼女と結婚すればよかったじゃない。そもそも何でそんな貴重な人と別れて、私と結婚したのよ？」
「30歳になった途端に、母さんから結婚するように急かされるようになって…。でも、麻美の仕事や学歴だと、母さんはきっと失望すると思って別れた。そんな時に出会ったのが、春乃だったんだ」
この期に及んで、サチ子が登場することにうんざりする。
「お母さんのために、私と結婚したってこと？」
「春乃を好きだと思った気持ちに嘘はない。だけど、今思えば、そういう打算があったことも否定できない…」
私は、自分に男を見る目がなかったことを悟った。
「今の話だと、将暉は、私といずれレスになるってわかってたってこと？」
「過去に付き合った人たちとは、だいたい半年くらいでそうなってたから、予感はあった。結婚前に話しておくべきだったね。
諸々ごめんってことで、1,000万円払うから、許してほしい！」
将暉は、涼しい顔で言い放つ。
彼の身勝手極まりない言い分を聞かされた私は、呆然とする。
「とりあえず話はわかったから、考えさせて」
なんとか言葉を絞り出した私に、彼は話し終えた安堵感か急に笑顔になる。
「よかった！じゃ、そういうことで」
将暉は、猛スピードで荷物をまとめて、逃げるように家を飛び出していった。
― 私、あんな人のために、ずっと悩んでたのかな……。馬鹿馬鹿しい。
1人家に残された私は、解放感に浸っていた。
散々ひどい態度を取られても、なかなか将暉への思いを断ち切ることができなかったが、今日の話を聞いて、完全に吹っ切ることができた。
『離婚して、前に進もう。これでいいのよ』
私は、自分に言い聞かせた。
その時、スマホにLINEが入ってきた。
送り主は、サチ子だ。
『パパと一緒に春乃さんのお誕生日のお祝いをしたいの。空いてる日を教えて』というメッセージに、クマがペコリとお辞儀をしているスタンプが添えられている。
将暉と重い話し合いをした後だったので、サチ子の相変わらずのテンションに思わず気が抜ける。
― 将暉ったら、サチ子に離婚のことを話していないの？プロポーズの時は、事前に伝えていたくせに。
なんと返事をすべきか迷ったものの、遅かれ早かれ話さなければならないと思った私は『大事なお話があります。詳細は、将暉さんに聞いてください』と返した。
その後、しばらくサチ子からは音沙汰がなかったので、将暉がうまく説明してくれたのだろう…と思っていた。
ところが……。
この後、離婚することを知ったサチ子は怒り狂って…
◆
1週間後。
『離婚することに同意します。今後について話し合いたいです』
私は、将暉にLINEを送った。
将暉は、私に離婚を告げて家を飛び出した以来、麻美の家に入り浸っているのか、池尻のマンションには帰宅していない。
この家は彼の父親名義なのだから、なるべく早く出ていかないと、と思い荷物の整理をしていると、未開封のままの素行調査の報告書が入った封筒が目に入った。
― 将暉の口から真実を聞けたし、もう見る必要はないかな。
将暉の元カノ麻美の写真が入っていても嫌だなと思い、ダンボールの奥底へとしまった。
「ただいま」
夕方、私が不動産サイトを見て、物件探しをしていると、珍しく将暉が帰宅した。
「おかえり。話し合いのために帰ってきてくれたの？今後のことなんだけど、新しい家を見つけるまでは、ここにいてもいいかな？」
「それはもちろんだよ。それより、ちょっとお願いがあるんだけど…」
私の顔色を伺っている将暉。
「お願いって何？まさか『麻美に会ってほしい』なんて言わないよね？」
私は、怯える。
しかし、将暉の言葉は、予想外のものだった。
「母さんに離婚することを話したら、絶対に認めないって怒り狂っちゃってて。一緒に説得してくれないかな？」
「えっ、自分の親でしょ？自分でなんとかしなよ」
あのサチ子のことだ。顔を合わせれば、どんな言葉を浴びせてくるかわからない。
「なんとかできないから、こうして頼みにきたんだよ。
母さんは『春乃と直接話さないと、納得できない』って言っててさ。明日にでも、一緒に実家に行ってくれないかな？頼むよ」
将暉が、両手を合わせてくる。
― 本当にどうしようもないんだから。でも、最後の妻の役割と思って……。
私は、自分を無理やり納得させる。
「わかった。しょうがないから一緒に行くよ」
「よかった。安心したわ」
そのとき、インターホンの音も鳴らずに、玄関の扉が開く音がした。
怪訝に思っていると、女がズカズカと上がり込んできた。
「まあくん、春乃さん、どういうことなの。ちゃんと説明してちょうだい」
突然目の前に現れたサチ子は、般若のような形相だ。
「お、お義母さま」
「か、母さん」
「離婚するなんて、どんな事情があっても、私は、絶対に許さないわよ！」
彼女のあまりの迫力に、私は一瞬圧倒されたが、すぐに冷静さを取り戻した。
離婚するんだから、もうサチ子なんて怖くないわ。
▶前回：デート後「友達と飲み直す」と出ていき、朝まで音信不通になった男。一体何をしていた…！？
▶1話目はこちら：プロポーズの直後、彼のスマホに1通のLINEが。慌てた男が口にした衝撃の告白
▶Next：4月25日 月曜更新予定
次週、離婚を許さないと言うサチ子に、春乃と将暉は…。
