「さすがに我慢できない…」体調不良の彼を気遣い、家までやって来た30歳女の“許しがたい行為”とは
ハイスペ男に”選ばれる女”は、一体何が違うのか？
「俺は結婚に向いていないし、結婚しなくても十分幸せだ…」
と、思っていたバツイチ男が“ある女”と再婚した。
彼の結婚の決め手は何だったのか――。
6人の女性の中から、彼に選ばれたのは誰？
◆これまでのあらすじ
2016年にバツイチとなった桜井和真はその後、3年の間に3人の女性と出会った。
2016年に海外旅行を共にした玉城玲奈、2017年に付き合った行野澪とは疎遠になっていたが、2018年に出会った椎名由起子から逆プロポーズされたことで、もう一度それぞれの女性と向き合おうと決める。
▶前回：Case4：2019年の黒木彩（30歳）
Case4（回答編）：2019年の桜井和真（32歳）
『突然でドン引きするかもしれませんが、私は桜井さんのことが好きです。結婚を前提に付き合いたいです。2人きりで会ってくれませんか？』
椎名由起子から衝撃のLINEを受け取ったあと。和真は返信するまで、1週間もかかってしまった。
『結婚を前提にお付き合いできるか、即答はできませんが…。2人きりで会いましょう』
その後、白金台の『こばやし』で初めて2人きりで酒を酌み交わしたとき、彼女はこう言った。
「1週間も返信がなかったので、もう永遠に連絡はこないものだと思ってました」
和真は、心の底から申し訳ない気持ちになった。その席では「過去2年で出会った2人の女性たちと再会することにした」と告げたので、さらに申し訳なくなる。
「由起子さんとの結婚を意識したら、中途半端に終わっていた2人との関係に、決着をつけておきたいと思ったんです」
彼女は、曖昧な笑顔で「わかりました」と頷いた。
3年前に離婚したときは二度と結婚しないと思っていたが、由起子からのLINEで再婚の可能性を感じている。その驚きを伝えたかったが、言うのは憚られた。
それから半年間ほど、和真は3人の女性と同時進行でデートしていくことになる。そして2019年になり、外資系航空会社でCAをしている黒木彩ともデートする関係になった。
4人とデートを続けた和真だったが…？
3年ぶりの玲奈とのデート
「彩さんに初デートで聞かれたんだ。『隠し事しないなら教えてください。今、何人ぐらいカノジョがいるの？』って」
「なんて答えたの？」
「カノジョとは呼べませんが、3人の女性と定期的に会っています」
すると玲奈は、大きな声を出して笑った。
「バカだね〜」
2016年頃の玲奈は「男女が2人きりで食事することはデートだ」と、その定義にこだわっていた。
しかし3年の月日を経て再会してみると「これは男女2人きりで会っているけど、デートじゃないから」と断言するようになった。
というのも、玲奈には彼氏ができていたのだ。
彼氏以外の男とデートするのは浮気になるという。だから彼女は、和真と2人きりで会うことを絶対にデートとは呼ばない。
2人も今では、すっかり仲のいい異性の友達だ。そんな玲奈に、こんなことを言われてしまった。
「じゃあ私たち、もう会うのはやめよう」
「どうして？」
「その彩さんって人にも、プロポーズしてきた由起子さんにも、なんか申し訳ないから。私と会ってる時間があったら、どちらかに時間を割いてあげて」
2年ぶりの澪とのデート
「もう和真さんと会うのは、やめようかと思っているんです」
玲奈とデートをした数日後、澪からも同じようなことを言われた。
彼女とは、元恋人同士の関係だ。付き合っていくうちに「話が通じないな…」と思うことが増えて、自然消滅のような形で終わっていた。
「和真さんから『また会おう』って連絡をもらって、最初はすごく嬉しくて。新しい未来が開いた気もしていたんですけど…。なんていうか、もう脈がない気がして」
彼女は和真と会うのをやめたい理由を、ぽつぽつと語り始める。
「和真さんとやり直せないなら、私、他に好きな人を作ろうと思います」
決意を秘めた目で語った澪に、和真は何も言うことができなかった。
プロポーズしてきた由起子とのデート
「変なこと言って、すみませんでした…」
2〜3週に1度のペースで会っていた由起子に突然謝罪されたのは、彼女のバースデー祝いも兼ねた10回目のデートのときだった。
「結婚を前提になんて付き合ってほしい、なんて勇み足でした。また昔みたいにワイワイ喋りながら飲める関係に戻りたいです」
心変わりの理由は想像に難くない。
10回デートしても、なかなか告白の返事ができなかったのだ。それに彼女は呆れてしまったのだろう。
和真はそう思った。
3人の女性との関係が終わって
「この前、話した3人の女性のことですが、あのあと全員から『もう会うのはやめましょう』って言われました。…さすがに俺、身勝手すぎましたもんね」
彩と2度目のデートをした際、和真はそうぶっちゃけた。
「でしょうね」
「恋愛をどうやってしていいか、本当にわからなくなりました」
これは嘘偽りのない本音だった。
― 結婚だけでなく恋愛に関しても、俺は向いてないんだ。
和真は自分自身に呆れ返る。それでもどういうわけか、彩は「次のデートはいつにします？」と聞き続けてくれたのだ。
もう少し踏み込んだ関係になってもいいのかもしれない。そう思った和真は、4回目のデートで、彩と休日を一緒に過ごしてみることにしたのだった。
そうして迎えた4回目のデートで、まさかのハプニングが…
和真の自宅にて
しかし4回目のデートは、実現しなかった。
前日の夜、まるで遠足前の小学生が風邪をひくかのように、和真は体調を崩してしまったのだ。仕事が忙しく、睡眠時間を削ったせいだろう。
『ごめんなさい。風邪をひいてしまいました…。なので明日はリスケでもいいですか？』
すると、彩からすぐに返信がきた。
『大丈夫ですか？1人暮らしで大変だと思うので、何かお手伝いできることがあったら教えてください！ デートは治ったらまた計画を立てましょう！』
ありがたい申し出に甘えて、彼女に家まで来てもらうことにした。和真は慌ててマスクを用意する。会うのが一瞬だとしても、うつしてしまうと大変だからだ。
いつもと違い部屋はずいぶん散らかっていたが、片づける気力も体力もない。
― 彩さんはすぐに帰るだろうから、気にしなくていいか。
しかし到着した彼女は、すぐに帰ろうとしなかった。和真の部屋にあがると、まっすぐキッチンへ向かったのだ。どうやら料理をするつもりらしい。
「うつるかもしれないから、早く帰ったほうがいいですよ」と言いたかったが、そんな元気もなかった。
和真が半ば諦めてソファにうずくまっていると、彩はおかゆを作って運んでくる。でも食べるにはマスクを外すしかなく、さすがにこう告げた。
「ここにいると彩さんにもうつっちゃうので」
「うん。もう帰る。ちゃんと寝てね」
和真は差し入れの代金とタクシー代を手渡すと、彼女を玄関まで見送ったのだった。
◆
1週間後、あらためて彩が和真の自宅へやってきた。看病してくれたときのお礼として、彼女に手料理を振る舞うことになったのだ。
しかし和真には、どうしても彩に伝えておかなくてはならないことがあった。
「彩さんに聞いてほしい話があるんです。…今後の、俺たちの関係についてです」
「…はい」
いつもはくだけた話し方の彼女が、急にかしこまった。
「先週、風邪をひいたときに差し入れを買ってきてくれたことは本当に感謝しています。でも、ちょっと困りました」
「困るって、何を？」
「おかゆを作ってくれたことです」
「えっ…？」
「お気持ちは本当に嬉しかったのですが、実は…。あのとき自分でおかゆを作って食べた直後だったんです」
和真はそう言ったが、それは嘘だった。
本当は勝手にキッチンに立たれ、料理されたことに困惑していたのだ。
しかも彩がおかゆを盛った木目の皿は、喫煙者の男友達が来たとき、テラスで煙草を吸わせるために使う灰皿だった。
もちろん使うたびに丁寧に洗っているが、灰皿以外の使用はあのときが初めてだったのだ。
とはいえ、それらすべてを正直に告げることはツラい。彩の好意を無下にはできないから。
だから遠回しな表現をした。
「彩さんのお気持ちは本当に嬉しかったんです。ただおかゆを作っていただくことは、お願いしたわけではないので困ったというか…」
すると彼女の表情はみるみる変わり、憮然としていく。頬も紅潮しているように見えた。アルコールのせいではなさそうだ。
「俺たちが今後デートを重ねて仲良くなっていく中で、話し合いが大事だと思ってるんです。
これまで話し合いがうまくできずに別れてきたので、彩さんとはそうなりたくなくて…。だから些細なことですが、お伝えしました」
「わかりました」
紅潮していた彩の顔が急激に冷めていくのがわかる。すっかり他人行儀の話し方になっていた。
「前に、和真さんは身勝手ですねって言ったの、覚えてます？」
「覚えてます」
「それ今ここでもう一度、言いたいです。身勝手ですね。…それに、女性に対するリスペクトがない人なんですね。失望しました」
そう言い切ると彼女は身支度を整え、即座に帰っていった。
慌てた和真は、灰皿におかゆを盛られた件を告げ、事の重大さを伝えて理解を得ようかと思ったが遅かった。
1人残されたリビング。
テーブルには彩が手土産で持ってきたケーキの小皿が、寂しげに置かれていた。
― やっぱり俺は、恋愛にも結婚にも向いてないんだ。
あらためて和真は確信した。自分みたいな人間が、再び誰かと一緒になるなんて考えてはいけないと。
重い腰をあげて、台無しになった手料理の片づけを始めようとした、そのとき。1通のLINEが届いた。送信相手の名前を見て、和真は驚く。
『佑子です。お久しぶり。もしかしてブロックしてるかな？』
それは3年前に別れた元妻からだった。
▶前回：4回目のデートで、狙っていた彼から家に呼ばれてしまった。ノコノコと男の部屋に向かった女だったが…
▶1話目はこちら：結婚願望のないハイスペ男が“結婚”を決意。絶対手に入れたかった女とは
▶Next：4月24日 日曜更新予定
元妻が3年ぶりにLINEをしてきた、その真意とは？
