好きな男性のために髪を20�僖�ット。「アノ有名女優に似てる！」と褒められるが…【好きって言わせたい！ vol.11】
同じ会社、同じ部署。そこで働く、27歳・同い年の美女ふたり。
世渡り上手のあざとい女子と、真面目過ぎて融通が利かない女子。
彼女たちは見た目から性格、そして行動まで、何もかもが“正反対”なのだ。
そんなふたりが恋に落ちたのは、同じ会社のイケメン次期社長！？
美女ふたりからアプローチを受ける御曹司は、一体どちらの女性を選ぶのか。
◆これまでのあらすじ
フード系インスタグラマーnatsukoと、英琉の関係が怪しい…。そう訝しんで警戒する紗良だったが、彼女が既婚者だと知るとホッと胸をなで下ろす。
▶前回：御曹司のインスタを発見したあざとい女子。こっそり監視を続けると、ある美女とかなり親密で…
Vol.11 相互フォローが運の尽き…七瀬の焦りとは？
― あと少しで、一ノ瀬さんは異動…するんだよね。
英琉が広報部にやって来たのは、2月。4月末にここでの研修を終えたら、他部署へ異動することは前から決まっていた。部長の話によると、次は秘書課へ行くらしい。
私は、約3ヶ月も英琉と一緒にいたのに、ちっとも距離を近づけることができずに焦っていた。
だが、焦っていたのは、私だけではなかったようだ。朝から、紗良の弾むような高い声が聞こえてきた。
「え〜っ、そうなんですかあ！一ノ瀬さんの投稿、見たかったのに〜残念っ！」
― うそ…、村上さんも？インスタの相互フォローをしたくないって、一ノ瀬さん…プライベートには一切踏み込まれたくないタイプなのかな。
私は、偶然聞こえてきた紗良と英琉の会話に、少し前の自分の姿を重ねていた。きっと、英琉にやんわりと距離を置かれてしまった彼女は、ショックを受けているに違いない。
だから私は、紗良に声をかけずにはいられなかったのだ。
「えっと、実は…私もね、一ノ瀬さんにインスタの話をしたことがあるんだけど、フォローさせてもらえなかったんだ」
「ふ〜ん！ていうかあ、長谷川さんはわかるけど、何で私はダメなのお？」
― うわ…！村上さんって、こういうところがあるんだった。忘れてた。
「さあ、何でだろうね」
彼女から八つ当たりの標的にされた私は、少しでも同情したことを悔いて、冷たく答えてしまう。だけど、紗良が口にした「長谷川さんはわかるけど」という言葉は、核心をついていると思った。
私が、英琉の恋愛対象になるわけがないという意味だろう。
― それなら、私だって…！
こう決意を固めると、私は週末に“あること”を実行したのだった。
英琉の恋愛対象になりたい…七瀬の決意とは？
土曜日の午後。
「今日は、ノリコさんにお任せします！」
青山にある行きつけのヘアサロンでこう伝えると、担当の美容師にひどく驚かれた。
「本当にっ！？いいの？長谷川さん、初めてお店に来た時からずーっと同じヘアスタイルだったじゃない！」
「お願いします！えっと、大学時代からだから、もう7〜8年？何か、どうしたらいいのかわからなくて…。でも、もう少し明るい感じの印象に変えたいなって」
「そっかー、イメチェンね！任せてっ」
すると、黒髪で胸の下まであったストレートヘアは、艶感と透明感のあるアッシュブラウンにカラーリングされ、長さは20cmほどバッサリと切られた。それが、新たに作られたシースルーバングと絶妙なバランスなのだ。
さらにノリコは「イメチェンの記念に！」と、ヘアセットの後にメイクまで直してくれた。
髪を明るく染めたことで年齢より若く見えるのではないかと思ったけれど、鏡に映る自分は、落ち着きがあって、どこか洗練された印象に仕上がっていた。
「あの…ノリコさん。このヘアメイクだと、どんな服が合いますか？」
「黒のワンピースなら、長谷川さんも抵抗なく着られるんじゃない？あ、でもいつもみたいなカッコイイ系じゃなくて、ちょっとふんわりしてる感じね」
それでもまだ、私が自信なさげにしていると、彼女はこう付け足した。
「あ、ねえ、女優の広瀬アリスさんを参考にしてみたら？長谷川さん、顔立ちがよく似てるし…これこれ！キレイだよねーって、27歳？年齢も一緒じゃない！」
彼女は、スマホで検索した画像を見せてきた。
― こんな素敵な人に似ているだなんて、お世辞だろうけど…。でも、この裾がレースになっているワンピースなら着られるかも。
それから私は、いつもとは違うブランドで洋服とコスメを買った。ワンピースは、試着していると気分が高揚してきて、黒だけでなく、ベージュやカーキのものまで数着購入した。口紅は、いつもより鮮やかに発色するお気に入りの1本を見つけた。
― 一ノ瀬さん、今の私を見たらどう思うかな。
そんな不安と期待の入り交じった気持ちで、月曜日の朝を迎えた。
「あれ？長谷川さん、ちょっと雰囲気変わった？」
出社するなり、同僚たちが集まって来て、私は少し恥ずかしくなった。その中には、英琉の姿もあったからだ。
「長谷川さん、おはようございます」
「…おはようございます」
しかし、彼はいつもどおりにこやかに挨拶を済ませると、私の容姿の変化には一切触れず、黙々と仕事を始めた。
― 気づいてくれなかった…？それとも、どうでもよかったのかな。
英琉から、期待していたような反応がなかったことに落胆していると、すかさず紗良がやって来た。
「あ〜♡長谷川さんっ！可愛くなってる〜！今夜はデートでもするのっ？」
彼女の声は、英琉にも聞こえるボリュームだった。だが、ここでも彼は顔さえ上げず、無反応だ。
私は、ダブルで傷つく羽目になった。
しかも、この日の午後は、紗良と英琉、私の3人で最後の打ち合わせがあった。
何となく憂鬱な気持ちで会議室に向かうと、紗良は強気でこう切り出した。
「先週、一ノ瀬さんにインスタの話をしたじゃないですかあ？私、実は…」
紗良のカミングアウトに、英琉は…？
「私、実は一ノ瀬さんじゃないかなあ〜っていうアカウントを見つけて、こっそり見てたんですっ！ごめんなさいっ！」
「えっ！…そうだったんですか。いや、僕の方こそ非公開にしているだなんて、嘘をついてすみませんでした。だけど、昔からのごく親しい人としかつながっていなくて、つい…。それに僕のインスタなんて、全然面白くないですから」
いきなりこんな会話を仕掛けたら、気まずくなるのではという私の心配をよそに、場は一気に砕けた雰囲気になった。それどころか、英琉からこんな申し出まであったのだ。
「今さらですが、この3人でSNS担当をしたのも何かのご縁かと。僕からお2人をフォローさせてもらってもいいですか？」
「もちろんですっ♡私もフォローしますねっ！」
― …何この展開。一ノ瀬さんも、いきなりどういう心境の変化？正直、ついていけないんだけど。
「長谷川さん？」
「は、はい！あ、私も…じゃあ…」
こうして、それぞれに英琉との新たなつながりができたのはいいのだが、私はどこか冷めた気持ちでいたのだった。
◆
英琉のInstagramをフォローした日の夜。
何げなく、彼の投稿を眺めていると、そこにはすでに紗良からの『いいね』や、『パン・オ・ショコラ、美味しそうですねっ♡私も今日、買って帰ろ〜っと』といったコメントが残されていた。
― さすが、村上さんだよね。行動が早いなー。
さらに、その翌日。
図らずも、紗良ともInstagramをフォローし合うことになった私は、とても後悔していた。
ふとInstagramを開くと、紗良のストーリーズが更新されていたのだ。
そこに映っていたのは、見覚えのあるCHANELの三つ折り財布を持つ手元と、英琉の後ろ姿だった。『コンビニ商品のリサーチ♡』という言葉が添えられているが、アピールしたいのはそこではなさそうだ。
こんな調子で、連日のように紗良が英琉との一コマをInstagramに投稿するようになると、はじめはモヤモヤしていたが、いつからかスーッと何も感じなくなっていった。
― 何か、もういいかも…。そもそも、一ノ瀬さんみたいな人が、私のことを相手にするわけがなかったんだ。
英琉と2人で猫カフェに行った時は、距離が近づいたと思った。けれどそのあと、私から彼を誘おうとしたらサッと引かれてしまった。
イメチェンをしてみても、何の反応もない。このInstagramを介してのゴチャゴチャも、どこか子どもじみていてバカらしく思える。
私はもともと恋愛に積極的ではないうえに、不器用だ。今みたいに自分の気持ちがよくわからなくなった状態で、こんなふうに紗良の猛攻を受け続けると、頭が混乱してフェードアウトしてしまいたくなる。
それと不思議なことに、英琉の恋愛対象になるためのイメチェンをしたあの日から、どこか吹っ切れたような清々しさもあるのだ。
私はInstagramをログアウトすると、スマホの画面を下に向けて机の上に置いた。
「ポンちゃーん！私はやっぱり、ポンちゃんのことしか愛せないよー！」
こうして、私が飼い猫のお腹に顔をうずめて愛でているうちに、英琉が広報部で過ごす最後の日がやってきたのだった。
▶前回：御曹司のインスタを発見したあざとい女子。こっそり監視を続けると、ある美女とかなり親密で…
▶1話目はこちら：容姿と性格が真逆の美女ふたり。そこに御曹司が配属されて…？
▶NEXT：4月21日 木曜更新予定
広報部での3ヶ月の研修期間を終えた英琉が、紗良と七瀬に思ったこととは…？
