「みんなには内緒だよ」と、食事会中に男がテーブルの下で見せてきたモノは…【女たちのSNS事件簿 vol.10】
いまや私たちの日常に溶け込んでいるSNS。
InstagramやYouTube、Twitterなど、とても便利で面白いツールだが…。
そこには、とんでもない“ヤバイ世界”が潜んでいる可能性も。
SNSの沼にハマった女たちに待ち受ける衝撃の事件と、その結末は…？
◆これまでのあらすじ
ハイスぺ男子との結婚を夢見る結月（28）は、婚活に行き詰まっていた。そんなとき、ひょんなことからClubhouseを再開。ハイスペ男子たちとの出会いの場とし利用できるかもと、積極的に使い始める。が、賢いビジネスマンたちの会話に入っていくことができず…。
SNSを駆使してハイスペ婚を狙う女〜結月（30）の場合〜【後編】
「実は…うちの親会社、年末に人材派遣会社のベリーグッドスタッフィングとの合併を進めているみたいで…」
とあるClubhouseのルームに参加し、ビジネストークを求められた私は悩んだ末に、私のデスク近くで上司と同僚がしていた合併話を打ち明けることにした。
すると、『え！？』『まじか！』などと、ルーム内は一気にザワついた。
大手企業同士の合併とあって、ビジネスマンたちにとってかなり気になるトピックだったようだ。
そんな中、ひとりの女性参加者がポツリと呟く。
『…そんな話して、大丈夫なんですか？』
私は一瞬、ドキッとする。もちろん、決して大丈夫な話ではないからだ。
慌てて、「絶対、他言無用でお願いしますよ！」と補足する。
すると、陽気な男性参加者が、ハハハと大きな笑い声をあげた。
『大丈夫、大丈夫。Clubhouseは録音禁止だから。それに、十数人の身内しか参加してないルームだし、誰も口外しないよ。
だからさ、みんなももっとぶっちゃけて話しようよ』
彼の言葉に、ルーム全体が賑やかになる。
そして、打って変わってまた違う男性が、社内の不倫話を暴露し始めた。
堅苦しい雰囲気から一転、私にとって居心地の良いルームへと変わっていく。
― 思い切って話してみてよかった…！
私は、ようやく輪の中に入ることができ、安堵したのだった。
この日のルームはその後、予想外の盛り上がりをみせた。
気づけば、時刻はあっという間に23時。
まだ話したりなかった私たちは、またClubhouse上で集まろうと約束をして、この日はお開きとなった。
これがきっかけとなり、このルームのメンバーとたびたび集まるようになり、たわいないトークを繰り広げる親しい間柄になっていった。
定期的にClubhouse上で集まるメンバーたちと、オフ会を開催することになり…
土曜日の18時前。
私は、表参道の『ラス』に来ていた。
食事の約束をしている相手は、いつもClubhouse上で集まっているメンバーたちだ。先日、主催者の男性から「土曜日にオフ会をしよう」という誘いがあり、私は二つ返事でOKした。
Clubhouseを本格的に始めてから、3ヶ月。
リアルで誰かと会うのはこれが初めてとあって、私は心を躍らせていた。
スタイルが強調されるニットのタイトワンピースに、フェラガモのパンプス、お気に入りのロエベのバッグを身に着け、私にとっての勝負コーデで気合を入れた。
私は約束の時間の15分前にはお店に到着し、一番乗りで席に着く。
その数分後から、続々とメンバーがやってきた。
この日は、男性4人と私を含めた女性2人が集まった。
「それにしても、結月さん。アイコンを見て美人だなぁと思ってたけど、実物のほうがさらに綺麗ですね」
「え…そうですか？ ありがとうございます」
不動産会社を経営する34歳・吉岡さんに話しかけられた私は、「美人」という言葉に照れてしまい思わず下を向く。
吉岡さんはSNSでの情報発信が得意で、様々なメディアからも取材を受けている気鋭の若手経営者らしい。
Clubhouse上でも、ルームの主催者として積極的に話を盛り上げてくれていた。
― 吉岡さん、爽やかでカッコいいし、ジェントルマンで素敵…。
私は、念のため彼の左手の薬指をちらっと確認する。そこに光るものはなく、ほっと胸をなでおろした。
隣に座る吉岡さんのほうに体を向けた私は、じっと彼の目を見つめた。
食事会は本当に楽しく、Clubhouse上での会話のテンポそのままに盛り上がった。
女性が2人だけと、男性陣からチヤホヤされるのも気分がよかった。
私以外のもう一人の女性参加者は、24歳と若くて可愛らしいふわふわ系女子といった感じ。だが、特段美人というわけでもなく、言葉少なで控えめ。
まだまだ若い子には負けないと、男性陣が気持ちよく食事と会話を楽しめるように気を配った。
そして、あっという間に20時を回り、食事会も終盤にさしかかった頃。
吉岡さんがふと、私の方へ体を向けた。
「結月さん、今日はたくさん周りに気を使ってくれてありがとう」
私は「とんでもないです」と首を横に振って、微笑んだ。
「あの…良かったらLINE交換しませんか？ みんなには内緒で」
私の耳元で彼が囁く。
彼はテーブルの下でこっそりLINEのQRコードを見せてきたので、私は声を出さずに小さく頷き、そっとLINEを登録した。
― これは…めちゃくちゃ脈あり！？
私は内心、彼と恋仲になれるのではと期待に胸を膨らませた。
6人での食事会を解散してすぐに、吉岡さんから『今日はありがとう。今度は2人で会いたいな』とLINEが入った。
彼は、『結月さんと出会えた運命に感謝してる』『次会える日が待ち遠しいな』といった、歯に衣着せぬ甘い言葉を並べる。
対する私も、『早く2人きりで、吉岡さんに会いたいです！』と応える。
恋人同士のようなLINEのやり取りを繰り返すたび、私は思わず顔がニヤけた。
― このままうまくいけば、ハイスぺ男子との結婚も夢じゃないよね！？
私はひとり舞い上がり、普段よりも念入りにスキンケアをしたり、エステを予約したりと、自分磨きに勤しんだ。
◆
オフ会から2週間後の月曜日。
週明けの仕事で気分がげんなりしている中、私は昨晩に突然スケジュールを入れられた「緊急ミーティング」のため、会議室に向かっていた。
何が緊急で、なぜ私が？と、いぶかしげに思いつつ会議室のドアを開ける。
するとそこには、小言ばかり言ってくるお局と業務中にソリティアばかりしているおじさん上司、そして、社長が待ち構えていた。
「これ、喋っているのは高橋さんですか？」
社長に名前を呼ばれることなどそうないのでドキッとしつつ、私は何だろうと社長のそばへ近寄る。
そこで聴かされたのが…。
『うちの親会社の役員に“田中さん”って人がいるんですけど、人事の女性と怪しい関係らしくて。本当に乱れてるな〜って思って』
― これ、Clubhouseの画面録画…？ どうして…！？
会社にまつわる暴露話をClubhouse上でしていたことがバレた女は…
「昨日、Clubhouse内で情報漏洩をしているうちの社員がいるらしいと、親会社と合併予定のベリーグッドスタッフィングから、通達があったんだ。
『いつもこんな調子で、ウソか本当か分からないような社内情報をペラペラ喋っている』と、クレームを入れた人物からこの動画を渡されたらしい」
私は、冷や汗が止まらない。
まさか、あの少人数のルームでのやり取りを、録音していた人がいたなんて…。
「どうやら、ベリーグッドスタッフィングの取引先の人がアプリ内にいて、君の話を聞いていたらしい。
合併話については録音されていなかったが、その情報を取引先が知っていた時点で大問題だ。
この声の主は、高橋さんで間違いないんだよね？」
社長は語気を強めて、私に再び問う。
私は小さく「はい…」と返事をした。
「単刀直入に言うと、秘密保持義務違反で、懲戒解雇の対象になる。
でも、高橋さんのためにもそれはしたくない。…僕の言いたいこと、わかってくれるね？」
社長はそう言って、視線をそらさずに私をじっと見つめる。
その視線に耐え切れずに目線をそらすと、ずっと見下していた上司たちから、冷ややかな眼差しを向けられていることに気づいた。
私はただ、うなだれることしかできなかった。
◆
1ヶ月後。私は、会社を自主退職した。
会社を辞めるまでの期間は、とにかくつらかった。
同僚たちから蔑むような目で見られている気がして、目線を合わせないように、ずっと下を向いて仕事をする日々…。
そんな苦悩からやっと解放されて、すがすがしい気持ちだ。
― まずは、転職先を探さないと…。
どうせなら、アパレルブランドや、インフルエンサーマーケティング会社、外資系広告代理店といった、おしゃれで華やかな企業がいい。そう思い、片っ端からエントリーシートを提出する。
しかし、結果はことごとく“お祈り”。
そもそも、前職のように残業がそこまで多くなく給与もそこそこ良い、福利厚生も手厚い会社自体、そう多くはない。
私は、どうしたものかと途方に暮れた。
― そういえば…最近、吉岡さんから連絡ないな。
転職サイトで求人を探すのに行き詰った私は、ふと吉岡さんに思いを馳せる。
あの事件のせいでバタバタしてしまったせいで、私から彼と会う約束を断ってしまっていた。
「改めて日程を決めましょう」と連絡をしたきり、もう1ヶ月以上、連絡を取っていない。
― そもそも、吉岡さんとうまくいけば、こんなに必死に就活する必要もない…？
嫌なことが続いているせいか、そんな甘えた考えが芽生える。
吉岡さんの近況が気になった私は、何気なくFacebookを開く。
前職の同僚たちの投稿を見るのを避けていたため、退職後は一切、Facebookを開いていなかった。だから、アプリ自体を立ち上げるのも久々だ。
開くと、前職関連の投稿が目に飛び込んできたがスルーし、すぐに吉岡さんのページに飛ぶ。
そして、彼がタグ付けされた一番上の投稿を見て、私は指をピタリと止めた。
「え……」
そこに映っていたのは、吉岡さんとあのオフ会にいた女性参加者だった。
写真とともに、「結婚を前提に付き合い始めて1年。彼は浮気っぽいところが玉に瑕ですが、どうせ気の迷いだろうし、私は寛大な心で許します（笑）ついに、来月籍を入れます！」と文章が添えられていた。
私は思わずスマホを床に落とし、手のひらで口元を覆った。
― え？ 結婚前提ってどういうこと？ オフ会のとき、すでにあの二人は付き合ってたってこと？
私はハッと我に返ってスマホを拾い上げ、彼女のFacebookページを開く。
彼女の「勤務先」として登録されていた会社名をネットで検索し、その会社の公式サイトを見ると、主要取引先に「株式会社ベリーグッドスタッフィング」の名前が記載されていた。
― まさか…私と吉岡さんのやり取りが彼女にバレて、逆恨みでClubhouseのことを…？
全ての点と点が繋がり、私は絶望した。
自室のソファにもたれかかり、天井を見上げる。
「ほんと、ばっかばかしい……」
ぽつり、つぶやく。
結婚前提の彼女がいるのに、私を食事に誘ってきた吉岡さんはどうかしてるし、それを「浮気性なところが玉に瑕」なんて一言で片づけて許してしまうこの女も、どこかおかしい。
そして何より…ハイスペ男子に取り入るために、軽い気持ちで会社の情報を漏らしてしまった自分が、一番の大バカ者だ。
「次は、身の丈に合った彼氏、そして仕事を探そう…」
長年の夢からようやく醒めた気がした私は、自分の頬をペチンと叩き、PCに向かう。
書き途中のエントリーシートを開き、しっかりと自分の言葉で、志望理由を書き連ねた。
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