LNG燃料フェリーに勝機はあるか 進水した新「さんふらわあ」 エネ価格高騰中だが
日本で初めてのLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」が進水しました。これまでの重油燃料の船と比べ、環境負荷は飛躍的に改善しますが、足元ではウクライナ情勢もありエネルギー価格が高騰。運賃はどうなるのでしょうか。
日本初のLNG燃料フェリー 足元ではエネ価高騰
日本初となるLNG(液化天然ガス)燃料の旅客フェリー「さんふらわあ くれない」が2022年3月3日(木)、山口県下関市の三菱重工業 下関造船所で進水しました。
進水したさんふらわあ くれない(中島洋平撮影)。
商船三井グループのフェリーさんふらわあが、大阪〜別府航路に投入する新造船です。従来の重油焚きからLNG焚きの船になることで、SOx(硫黄酸化物)をほぼ排出せず、NOx(窒素酸化物)も大幅低減。CO2(二酸化炭素)の排出量は従来と比べ約25%削減されます。貨物船で広がりつつあるLNG燃料船を、一般人が乗れるようになる点で、海運業界が推し進める脱炭素化の象徴的な事例のひとつになるかもしれません。
「従来の船と比べ、油のニオイもしないうえ、電気推進装置もあるので快適性や静粛性も増しています。欧州のフェリーでは10年くらい前からLNG焚きが非常に増えていて、人気を得ています」
商船三井の橋本 剛社長はこう話します。「今までは、ほぼ全てが油。供給インフラも油を中心に成り立っています。(LNG燃料フェリーを)何がなんでも成功例に仕上げ、日本の新しい輸送モードにしたい」と決意を新たにしていました。
「くれない」の運航に際しては、九州電力など他業種や地域と協力して、LNGの供給インフラを整備するといいます。ただやはり、「課題は経済性」とも。船の建造コストは以前より2〜3割高になるうえ、燃料の供給体制も道半ばです。
商船三井は、商船三井フェリーが運航する大洗(茨城)〜苫小牧(北海道)航路にもLNG燃料フェリーを投入すると表明したばかりですが、「LNGは発電燃料では幅広く使われているものの、船舶用はまだまだ」とのことで、今後のインフラ供給をどうしていくかが、ひとつの課題になっていることが伺えます。
折しも、ロシアやウクライナの情勢から、エネルギー価格が高騰しています。ロシアは世界有数のLNG生産国であり、供給や価格への影響がどうなるかは不透明なところがあります。もちろん、フェリーの運賃も燃料価格に大きく影響されますが、LNG燃料船の運賃はどうなるのでしょうか。
「LNG運賃」はつくりません!
フェリーさんふらわあの赤坂光次郎社長は、「さんふらわあ くれない」の運賃について、まだ具体的ではないものの、「LNGに特別な運賃区分を新設するつもりはない」と話します。
商船三井の橋本社長は、「長期的にみれば、LNGの方が安くて調達しやすい燃料になるのでは」と予測しました。
「(産出量が)中東に偏っている石油と比べると、LNGはアメリカやオーストラリアなど世界中で産出されています。もちろん石油は扱いやすく、貯蔵も簡単ですし、まだまだEV(電気自動車)化に対応できない国もたくさんあるでしょう。それゆえに、石油の方が価格は高めに推移するのでは」(橋本社長)
LNGの方が調達のハンドリングが難しい分、比較的安く手に入るようになるのでは、とのこと。加えて、「世界の趨勢を見ると、CO2排出に課金する制度ができるでしょう。経済性を考えるうえでも、CO2排出が少ないLNGがメリットになってくる」と話します。
会見する商船三井の橋本社長(中島洋平撮影)。
国内の他のフェリーが取り組めていないLNG化をいち早く実現した点については、「インフラが整わないから手が出せないわけで、ある程度将来を読んで、腹をくくって先駆けになっていこうと考えました」とのこと。
「仲間が必要な取り組みです。我々が出ていって、それに続く動きに期待しています」(橋本社長)
LNGが強みになるか?「物流2024年問題」
世界的には、企業が供給網全体のCO2排出量を減らすため、CO2排出量の少ない輸送手段を選ぶ動きもありますが、フェリーさんふらわあの荷主においては、「まだLNGで『陸送からフェリーにシフトしよう』とはなっていません」(赤坂社長)とのこと。
「我々のアピールも足りないと思っています。わかりやすい資料をつくって、トラック業者から荷主にアピールしていってもらうことを考えています」(赤坂社長)
新型コロナの影響を受け、フェリーさんふらわあでは旅客、貨物ともに以前より減少していますが、間近に控えた、ある大きな転機に期待をかけています。
トラックのフェリーへのシフトが今後さらに進む可能性がある(中島洋平撮影)。
それは、いわゆる「働き方改革」の一環で2024年度から始まる、物流ドライバーの残業規制です。トラックを運行できる時間が厳格に規制されるため、移動しながら休息時間を確保できるフェリーへ、陸送からのシフトが進むと考えられているのです。
そのなかで、環境負荷の少ないLNG燃料船が荷主へのアピールになるかが注目されます。