2年連続でクラブW杯に出場しているパルメイラス。悲願の初制覇なるか。(C)Getty Images

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 2000年にクラブワールドカップが始まって以来、同じチームが連続して南米代表となるのはこれが初めてである。パルメイラス。昨年の大会は良いところを見せられなかった彼らは、今回は固い決意をもって決勝に臨むはずである。それにはある理由がある。

 パルメイラスはサンパウロ市のイタリア系の多い地区のチームで、元々は「パレストラ・イタリア」と呼ばれていた。しかし第二次世界大戦、同盟国側だったブラジルにとってイタリアは敵国となる。早急に名前の変更を迫られ、そんな時に目についたのが練習場の前に生えているヤシの木--パルマだった。以来チームはパルメイラスと呼ばれるようになる。

 パルメイラスはこれまでに3度の黄金期を迎えている。1950年代から70年代にかけては多くの勝利を重ね、まるでお手本のようなチームであるということから「アカデミア」と呼ばれた。

 90年代になるとイタリアの企業パルマラットがスポンサーとなり、イタリアのパルマ同様、多くの資金をパルメイラスに投資。多くのスター選手がプレーした。リバウド、ロベルト・カルロス、カフー、エジムンド、ジーニョ、ミューレル……。セレソンの中心となり、世界チャンピオンとなった選手ばかりだ。

 そして、第3の黄金期はまさに現在だ。経済難のクラブが多いブラジルでは珍しく潤沢な資金を持ち、3年間で2度もコパ・リベルタドーレスを制している。その強さの源となる資金は、思わぬところからもたらされた。レイラ・ペレイラ。銀行家、弁護士、ジャーナリストを兼ねるやり手のビジネスウーマンが、クラブにぽんとカネを出したのである。

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 現在57歳の彼女は、元々パルメイラスのファンでもなければ、サンパウロの人間でもない。600キロも離れたリオデジャネイロの出身だ。まずは、スポンサーとなり、チームの相談役を経て、昨年12月についに夢であった会長の座に就いた。女性がブラジルのビッグ20の会長になったのは、歴史上初めてだ。

 2015年にパルメイラスに関わってきて以来、彼女がチームに投資してきた金は4000万ドル(約46億円)にもなるという。おかげで14年には借金で火の車となり、給料も払えずほぼ倒産状態だったクラブは、南米でも最もリッチなチームの一つに変身を遂げた。
 
 ちなみにパルメイラスのユニホームにプリントされたスポンサー『Crefisa』は金融会社でありFAMは私立大学(Facolta delle Americhe)、どちらも彼女と彼女の夫が経営している。

 豊富な資金力は、ピッチで顕著に表われた。特にブラジルの指揮官の中でも最も高額の報酬で誘われたと言われるポルトガル人のアベウ・フェレイラが、2020年にルシェンブルゴに代わって監督に就任すると、勝利を重ねるようになった。

 20年にはカンピオナート・ブラジレイロ優勝、21年には準優勝、コパ・リベルタドーレスを連覇し、現在はブラジルだけでなく南米でもほぼ敵なしの状態だ。彼らに太刀打ちできるのは国内ではフラメンゴとアトレチコ・ミネイロ、アルゼンチンのボカぐらいだろう。

 そんなパルメイラスとクラブワールドカップには、ある”因縁”がある。ブラジルではよく物笑いの種ともなる因縁だ。

 サンパウロ州の4つの強豪、パルメイラス、サントス、サンパウロ、コリンチャンスには強いライバル意識がある。どのチームもライバルより一つでも多くのタイトルを手に入れようと躍起になっている。クラブワールドカップでは(前身のインターコンチネンタルカップも含めて)、サントスは62年、63年、2005年に、コリンチャンスは2012年、サンパウロは92年、93年、2005年にそれぞれ優勝している。だが、パルメイラスだけが優勝経験がないのだ。

 そこで、パルメイラスは1951年に行われたコパ・リオという国際的なクラブ間の大会を、クラブワールドカップの一角であったとして認めるよう、2001年にFIFAに申請した。この大会でパルメイラスはポルトガルのスポルティング、オーストリア・ウィーン、ウルグアイのナショナル、イタリアのユベントス、ユーゴスラビアのレッドスター、フランスのニースと戦い優勝している。

 そして2007年、FIFAから一通のファックスが届き、主張は認められたとパルメイラスは公表した。しかしブラジルや南米のチームにはそんな国際大会の事例が山ほどある。それを機に各チームからFIFAへ山ほどの申請が出され始めた。それに辟易したのか、FIFAは同じ年の12月、最初のクラブワールドカップの優勝チームは2000年のコリンチャンスであると正式表明した。
 
 しかし、パルメイラスのサポーターは自分たちの優勝は認められたと主張し続ける。そこでパルメイラスは世界チャンピオンなのか、そうでないのかが騒がれ始める。ブラジルではそれをからかうチャントまでが作られた。

「パルメイラス、世界で唯一、ファックスで優勝したチーム」

 昨年のクラブワールドカップに出場を果たしたパルメイラスは、“本物の優勝”を手に入れる絶好のチャンスだった。しかし、初戦の準決勝でメキシコのティグレスに不覚をとったばかりか、3・4位決定戦でもエジプトのアル・アハリにPK戦の末に敗れてしまう。まさかの2戦2敗。ライバルたちからの嘲笑はさらに酷くなり、この1年、彼らはずっと悔しい思いをしてきた。

 再びリベンジの時が来た。パルメイラスはコパ・リベルタドーレスを連覇し、昨年に続きクラブワールドカップの舞台に戻ってきた。準決勝の相手は前回敗れたエジプトのアル・アハリだったが、順当に2−0で勝利した。ただタイトルを手に入れるには、決勝で欧州王者のチェルシーを破らなければならない。

 チームを率いるのは昨年に引き続きアベウ・フェレイラだ。世界的には無名だった彼は、近年の活躍でその名を知られるようになり、多くのヨーロッパのチームからオファーを受けたが、パルメイラスに残った。残ることが、世界を制する最短ルートであることを、いや、もしかしたら唯一のチャンスであることを分かっていたからかもしれない。
 こうしてパルメイラスは万全の準備と自信をもって、再び世界の頂点を目指す。この決勝は、クラブの歴史の中でも最も重要な試合になるかもしれない。世紀の瞬間を見ようとコロナ禍にもかかわらず約1万2千人のパルメイエンセが開催地あるUAEの首都アブダビに飛んだ。

 アル・アハリに2−0で完勝したことはパルメイラスに自信を与えた。アフリカ王者の守備は堅固だったが、内容では明らかに上回った。ベテランのドゥドゥの決めた2点目のゴールは鮮やかで、強さを感じさせた。
 
 チェルシー戦のパルメイラスの予想フォーメーションは3−4−3で、メンバーこうなると見ている。
GK:ウェベルトン
DF:グスタボ・ゴメス、ルアン、ピケレス
MF:マルセロ・ホシャ、ダニーロ、ゼ・ラファエウ、グスタボ・スカルパ
FW:ラファエウ・ヴェイガ、ドゥドゥ、ホニ

 3バックのうち、ルアン以外の2人はパラグアイ人。G・ゴメスもピケレスも強靭なフィジカルが売りのファイターだ。中盤はゼ・ラファエウとスカルパのベテランが君臨。彼らはピッチ内の監督的存在でもあり、うまくゲームを組み立てるだろう。

 前線にはスピードと才能ある選手がそろっている。チームのスターであるドゥドゥは絶好調で攻撃をけん引するはずだ。ストライカーのR・ヴィエガは準決勝でもゴールを決めているし、ホニも若くてスピードがあり危険な存在だ。
 
 南米王者は強力な攻撃陣で、チェルシーの守備をかき回し、ミスを突こうと考えている。プレッシャーをかけ続ければ、堅守も打ち破れるだろう。テクニックの面ではチェルシーが上なのは疑いようもない。だが、フィジカルでは負けてはいない。準決勝を見ていてもそのことはよくわかった。

 パルメイラスは90分間アル・アハリを果敢に攻めていたが、チェルシーはアル・ヒラル戦の後半では明らかに疲れがみられた。それもどうだろう。パルメイラスはほぼ1か月休みをとったのち、1月にはサンパウロ州リーグの4試合しかやっていない。一方、チェルシーはシーズンの真っ最中だ。また、パルメイラスが準決勝から中3日なのに対し、チェルシーは中2日。これも有利に働くはずだ。

 そして、なんといってもパルメイラスの最大の武器は、高いモチベーションだ。この試合は誇りをかけた、世紀の一戦だ。どうしても負けられない。フェレイラ監督もそれを十分理解していて、うまく利用するだろう。もちろんチェルシーにとっても初の世界制覇が懸かった試合ではある。しかし、クラブワールドカップに懸けるヨーロッパのチームのモチベーションが、南米に比べればそこまで強くないことを、パルメイラスは知っている。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。