リーグ最多の56試合に登板し、守護神として33セーブを挙げるロッテの益田直也【写真:球団提供】

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「THE ANSWER the Best Stories of 2021」、開幕2連敗から立ち直ったきっかけとは

 東京五輪の開催で盛り上がった2021年のスポーツ界。「THE ANSWER」は多くのアスリートや関係者らを取材し、記事を配信したが、その中から特に反響を集めた人気コンテンツを厳選。「THE ANSWER the Best Stories of 2021」と題し、改めて掲載する。今回は9月のプロ野球・ロッテの益田直也投手インタビュー。守護神としてチームの躍進を支えた右腕も、開幕直後は初登板から2連敗。立ち直る一因となった仲間のサポート、さらにリリーフ一筋で投げ続けるメンタリティとタフネスさに迫った。(文中の成績は9月17日の掲載当時のもの、取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 今季111試合中56試合に登板し、リーグ最多の33セーブに防御率1.69。9月に至っては13試合中9試合に投げ、1点も失っていない。8日のオリックス戦で通算150セーブも達成。9月51年ぶりの首位はこの男抜きに考えられないが、今季はどん底からのスタートだった。

「(当時は)よくない球種が自分の中で1つあって、しっくりきていなかった。マイナス思考じゃないですけど、少しそういう部分が働いていたかもしれません」

 開幕カードだった3月27、28日のソフトバンク戦で2試合続けてサヨナラ打を浴び、チームも3連敗となった。どんなに経験豊富な選手でも、打たれれば気持ちは沈む。シーズン初登板から2戦続けてなら、なおさらだった。

「みんなが僕に話しかけにくい雰囲気だとは、感じていました。あの時、話しかけてくれたのはマーティンと田村でしたね」

 試合後、千葉に戻るためチームは福岡空港に移動。益田は誰かと話すのを避け「めっちゃ遠いところに1人で居た」。そこに田原大樹通訳を伴い、レオネス・マーティン外野手が歩み寄って声をかけてくれた。

「お前が寂しそうだから、俺はずっとここにいる。大丈夫だ」

 そこに田村龍弘捕手も加わり、話をしたことで少し前向きになれた。4月以降は徐々に本来の投球を取り戻し、気付けばチームの快進撃を支えていた。公私ともに仲が良いというマーティンについては「あいつがダメな時は、僕が近くにいるようにしていますし、外国人選手とそういう関係になることはあまりなかったんですけど、いい関係です」と語った。

現役2位の582試合登板「やりがいもあるけれど、大変」

 プロ10年間で、年間50登板以上を9度記録している鉄腕。登板は全てリリーフで、通算582試合は宮西尚生(日本ハム:771試合)に次ぐ現役2位の数字だ。NPB屈指の守護神に成長した31歳に、長きにわたる活躍をもたらしたメンタリティについて聞いてみた。

 この世に100%抑えられる投手はいない。マウンドに立った数が多い分、益田も痛い目を見てきた。失敗した時、自分の気持ちをどうコントロールしているのだろうか。

「僕は失敗した時、どうして失敗したかをまず見ます。ここに投げて打たれたらしょうがない、後悔ないという時はありますし、そういう時はあまり落ち込まないです。でも、投げミスとかでやられたときは、やっぱり『ダメだな』って思います。精神的に、何かをして切り替えるというのは正直ないですね。次の試合で抑えないと残像も残りますし、消えないです」

 自分の立場を「10回投げて、1回失敗しても許されるような所ではない」と表現する。最終回のマウンドに背番号52が立てば、それはロッテが勝利目前のシチュエーションであることが多い。周囲もどこか「抑えて当然」に近い見方をしてしまいがちだ。

「試合の流れ、みんなの頑張りを1回で無くしてしまう可能性がある。そこにやりがいはもちろんあるけれど、中継ぎは抑えて当たり前という見方もあるので、そこは大変かなと思います」

 どんなに場数を踏んだとしても、凹む時は凹むし、次の登板で悪いイメージを払しょくするしかない。任された投手にしか分からない重圧とも戦いながら、心がけていることが1つある。

「やられたから、ちょっと失敗したからと言って、やっていることを変えないこと。失敗しちゃうと自分がやっていることが間違っているように感じてしまうけれど、ブレずに143試合やることが大事ですね」

シーズン中の練習サイクルは6〜7年不変「何連投しようと…」

 新人王に輝いた2012年は72試合に登板するなど、投げに投げてきた益田のタフネスさも特筆すべき凄さ。オフには午前9時から午後3時にかけて行う練習のうち、およそ3分の2を走り込みや体幹トレーニングに費やすなど、1年を戦い抜ける体を作り上げてきた。

 シーズン中も、パフォーマンスをキープするためのこだわりがある。

「僕は体がどんなにキツくても楽でも、火曜日から日曜日までのサイクルが決まっているので。何連投しようが、どこかが痛かろうが、必ずやるようにしています」

 試合がない月曜日以外で、曜日ごとに自分で練習メニューを設定。その日の体調に関係なく、毎週欠かすことなく全く同じメニューを6〜7年こなし続けている。疲れのある時でも量を減らさないのにも訳がある。

「一回しんどいときに、楽をしたんですよ。するとパフォーマンスも落ちて。体の変化もあったし、休んで調子が上がった訳でもなかった。これじゃダメだと思って」

 重要な1イニングを投げ続けるため、見えないところでたゆまぬ努力をしてきた。ロッテは最短18日にも、球団では51年ぶりのマジックが点灯する。入団からチームに貢献し続けてきた益田にとっても、初めての経験だ。

「ピッチャーは、やっぱりこういう優勝争いの時は新しい選手が出てこないとダメだと思います。期待されている人がよくない試合が何試合かあると思うんですけど、そこをカバーできる新しい選手が出てきたら、それは本当に上に残れるチームになるのではないかと。

 ベテランが経験の多さでカバーしてくれたりすることはあると思うんですが、僕個人としては、誰かがどこか痛くて出られない時などに、若い選手が活躍することが大事だと思います」

 今季の目標は当然優勝。プロ人生で目指したい数字は、あの岩瀬仁紀さん(元中日)の大記録、通算1002登板だ。「そこに向けて頑張りたい。宮西さんは1年目から目標にしていたので、そういう人たちに追いつけ、追い越せでやりたいと思います」。

 通算150セーブを達成した試合後、ヒーローインタビューで益田は言った。「ファンの皆さん、僕たちと優勝しましょう」。SNS上では疲れを気遣う声も目立つ。それでも今日も、変わらぬ練習をこなして次の登板に備えているだろう。マウンド上で、歓喜するナインと抱き合う日を思い描きながら。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)