HKT48「HKT48劇場 10周年記念特別公演」(C)Mercury

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11月26日、27日の両日「西日本シティ銀行HKT48劇場」にてHKT48は『10周年記念特別公演』を敢行した。すべてのメンバーが大集結し、2日間で100曲を披露するという各日3時間超えのスペシャルな夜。どちらの公演にも取材で入っていたフリーライターの小島和宏氏から「もう公演から時間が経ってしまったし、詳細なレポートはいろいろなところにあがっているから、いつかどこかで書けばいいや、と思っていたけれど……やっぱり村重杏奈の卒業公演の前に記事になったほうがいいんじゃないか、と感じるようになって」と特別寄稿が届いた。あの2日間のアナザーストーリー。観客の目に見えないところで、HKT48の歴史はしっかりと伝承されていたーー。

【写真】HKT48「HKT48劇場 10周年記念特別公演」の様子【27点】

2021年11月26日。
そこに「でべそ」があった。

ちょうど10年前のこの日にオープンした旧HKT48劇場の象徴だった、ちょこんと突き出したステージが、時空を超えて新しい劇場に甦ったのだ。

新劇場がオープンしたときから、客席の前方がフラットになっているので(途中から見やすいひな壇になっている)、ひょっとしたら、ここに「でべそ」を置くことができるのではないか、と予想するファンも少なくなかった。だが、実際に設置してみると、かなりの数の客席が潰れてしまうので常設は難しい、ということもわかった。でも、本当にスペシャルなときにはこうやって復刻できることが証明されただけでも、今後の劇場に対する期待感は大きく膨らむというものだ。

そして、なによりもメンバーが「でべそ」の復活を喜んでいた。

今回は10周年記念公演ということで、この10年間にやってきた公演やコンサートの名シーンを辿るようなセットリストになっていた。

ひとつだけ難しかったのは、今年は1期生の森保まどか、そして宮脇咲良の卒業コンサートが相次いで開催されたため、そういった振り返り系のセットリストを組むと、どうしても既視感が出てしまう、ということ。結果、2日間で100曲を披露する、という前代未聞の試みが行なわれることに! 初日には現在、AKB48に所属する中西智代梨とSKE48に所属する谷真理佳がサプライズ登場したので、現役メンバーと合わせると総勢50名。2日間で50名が100曲を披露、というギネス級の特別公演はこうして実現した。

時系列で歴史を追っていくので、初日は旧劇場での思い出を再現するシーンが多くなる。だから「でべそ」の設置は必須だったし、そこに立った1期生と2期生の多くが「泣きそうになった」と振り返る(それより前に幕が開いた瞬間に、1期生の熊沢世莉奈が1曲目から泣いていたので、もう見ている方はグッときまくりだったのだが)。

10年前、旧劇場で見たのとまったく同じ景色がそこには広がっていた、とメンバーは語る。

客席側からはわからない10年目の真実。懐かしすぎて、涙腺が緩んだところで、コロナ対策のため、1席飛びでお客さんが座っている光景に気づき、一気に2021年に引き戻された、というメンバーも。美しい思い出と現在のリアル。復活した「でべそ」はそんな時空の交差点に立っていた。

ただただ楽しいだけではない。2日で100曲。しかも、見ていてびっくりしたのは、ふたつ前の楽曲に参加したメンバーが、気がつくと違う衣装に着替えて、またステージに立っている、ということ。1曲の合間に早着替えをして、またステージに戻ってくる。これは劇場だからこそできる突貫作業。本来であれば10周年は大きな会場で、と期待してしまうが、コロナ禍ではなかなか難しい話である。だが、これだけの人海戦術を駆使したセットリストを組めただけでも、劇場での特別公演という形でよかったんだな、と実感した。

当然、リハーサルは過酷なものとなったが、1期生と話をしていると「本当に大変だったのは若いメンバーですよ」と口を揃えた。10年間の歴史をたどるセットリスト。1期生はほとんどすべての楽曲をパフォーマンスしてきた経験があるから、もう一度、覚えなおしたり、確認したりすれば済むのだが、キャリアが浅いメンバーになればなるほど、新規に覚えなくてはいけない楽曲の数が増えてくる。たしかにこれは大変だ。

そんな作業を繰り返していくうちに、ステージではある異変が起きはじめていた、という。過去の楽曲を覚えようと必死になっている若いメンバーの姿を見て、当時のオリジナルメンバーたちが「ここはこうだよ」「こうしたほうが綺麗に見えるよ」と熱心にアドバイスしはじめた、というのだ。

まさに奥義伝承! 10周年を迎えても、まだ1期生と2期生がたくさん残っている環境だからこそ実現したことでもあり、過去の楽曲を一夜だけ復活させるのではなく「次の10年」に向けて、オリジナルに近い形で復刻し、旧劇場を知らない世代たちに受け継いでいく。そんな大事な儀式が公演の裏では行なわれていた。

初日は最初の5年間を振り返る構成となるので、必然的に最初からいた1期生が目立つこととなったが(それがまた10周年感を際立たせた)、2日目のオープニングは松岡はながはじめてセンターを務めた『最高かよ』からスタート。

松岡はなは「5年前に初披露したときの気持ちで歌ってください、とスタッフさんに言われました」と語る。たくさんの原点回帰がありとあらゆるところに組みこまれた2日間でもあり、2日目の後半になればなるほど、新しいメンバーが目立ってくるようになる。そして、アンコールでは新アルバムのリード曲である『突然Do love me!』が披露され(この段階では、まだアルバムがリリースされる前だった)、しっかりと未来も映し出された。

もう書ききれないほどの名シーンの連続だったし、いまとなってはもはや意味合いがまったくちがってくるステージ上での光景もあった。これから先、メンバーのインタビューなどで掘り下げていけたら、と思うし、そういう意味でもHKT48はまだまだ語れる存在だな、と再認識できた2日間でもあった。

 
ちなみに両日とも、最後の挨拶は1期生の松岡菜摘が担当したのだが「事前に考えていっても、どうせうまく話せないだろうなと思ったので、本当にその場で頭に浮かんだことをしゃべりました。だから、ほとんど素の感情ですよ」と聞いて驚いた。初日の挨拶では「HKT48はもっともっと上に行けるはず」と現状に悔しさを滲ませたが、素の感情ならではの激白だった、ということになる。

6期生オーディション、そして2022年4月にスタートするライブツアーもこの公演で発表され、HKT48は11年目の大きな一歩を踏み出した。

終演後、この日をもって撤去される「でべそ」を惜しむかのように、1期生はずーっと、そこから動こうとしなかった。気がつくと、後輩たちが1期生たちにサインをもとめて、でべその周りを囲む、という10周年ならではの光景がそこに広がっていた。

そして、その輪の中心にいた村重杏奈も12月27日をもってHKT48を卒業する。

変わる時代、変わる風景、変わる未来。

2021年はHKT48にとって、本当に忘れられない1年となった――。

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