仕事も家事も、無理が効かない50代。気持ちがスッと軽くなる考え方
『うまいこと老いる生き方』(すばる舎)という本が今、話題になっています。著者は、92歳の精神科医・中村恒子さんと、54歳の精神科医・奥田弘美さん。同書には、老いを意識し始める50代の女性に響く言葉がつまっています。今回は、奥田さんに仕事で悩む同年代の女性に向けて、心強いアドバイスをいただきました。
思うように仕事ができなくなる50代。気持ちを軽くするヒント
奥田さんは、精神科医として一般診療を行うほか、産業医としてビジネスパーソンの心身のケアも行っています。50代の働く女性が抱えがちな悩みとは、一体どういったものなのでしょうか? 気持ちを軽くするヒントとあわせて教えてもらいました。
●50代は「思うように仕事ができなくなるお年頃」だと受け入れる
「50代の女性は、ただでさえ体力が落ち、無理がきかなくなります。そこに、更年期がらみの体調不良や精神不安、さらには職場のストレスまで加わると、仕事をする女性とっては“トリプルパンチ”で不調がのしかかってくることに。
一般的に更年期症状とは45歳から55歳頃までに現れ、動悸、めまい、発汗、耳鳴り、イライラ、不眠など多彩な心身の不調が発生します。人間関係で悩んだり、仕事の量や質がその人のキャパを超えたりした結果、体調やメンタルに不調を感じるようになった、なんてことも。
『若い頃は新しい知識や技術をどんどん吸収できたのに、50代なるとそこまでの意欲も体力もわいてこない』という声もよく聞きます」(奥田さん・以下同)
つまり、以前と比べて思うように仕事ができなくなったとしても、それは自分のせいではなく、50代特有の生理現象が原因ということも。こう考えるだけで、気持ちは若干ラクになるかもしれません。
その上で、心身に不調をきたしているならば、適切な治療を受けることを奥田さんはすすめています。
「更年期の身体症状が見受けられる方は婦人科を、イライラや落ち込みが続くときは、場合によっては心療内科の受診もすすめています。
同時に、体調不良も出ている場合、それはもうがんばれないというサイン。回復するまでは、仕事でも家事でもできるだけ負荷を減らしていき、体と心を休める時間をつくっていただくようにアドバイスしています」
●「仕事はお金を稼ぐため」と割り切る
とはいえ、なかには負荷を減らすことに対して、どうしても抵抗を感じる人もいるでしょう。そんな人は、次のように発想の転換を。
「自営業やアーティストなどと違い、会社員のように雇われてお給料をもらうタイプの仕事をしている方は、自己実現や自分のキャリアのことばかりを考えてしまうと、つらくなってしまいます。
ここはひとつ、『仕事は食べていくためのもの』だと割り切りましょう。自分の体調が追いつかず、理想とするキャリアが目指せなくなったら、それはもう仕方ない。多少仕事のグレードが下がったとしても、食べていくための手段と考えれば、少しは気持ちがラクになるかもしれません」
今は休んでもいい時期なんだと現状を受け入れつつ、仕事は食べていくためのものと割り切って淡々とこなす。その分、プライベートをゆとりをもって楽しむなどして心身のリラックスを増やす。こうするだけで、心身が回復傾向になった人を多く見てきた、と奥田さんは話します。
●それでも仕事に納得がいかないなら転職活動を
一方、やる気もあるし体力も衰えていないのに、なぜか部下の方が役職につき、自分がそのサポートに回らせられたら…。仕事にやりがいを感じていた人ほど落ち込むかもしれません。
「特別に秀でたスキルを持っているといった一部の方を除いて、50代ともなれば“シニア社員”として、若い人のサポート役を頼まれるケースも珍しくありません。会社は、より若い人に投資をしたがりますから。
それに納得がいかないなら、自分のスキルを理想的に活用してくれる会社を求めて、転職先を探してみても良いでしょう。ただし本決定するまでは、現職は手放さないようにしてくださいね。もし理想の職場が見つからなければ、残りの約10年間、老後の“セカンドライフ”に向けて淡々とお金を稼いでいこう、と考えるのはどうでしょうか」
●周りから重宝される人間になる
とはいえ、割り切るあまり、投げやりになってしまうと、会社で重宝されず、居心地よく働くことができない…なんてことも。
「共著者の中村先生は80代まで現役の勤務医でしたが、『周りに長く重宝してもらいたいなら、自分は脇に退いて、中心になって働く30代、40代の仕事をサポートする』という態度を常に徹底されていました。具体的には、職場で頼まれれば、『こんな雑務を頼んでくるなんて!』などとガッカリせず、できるだけハイハイと言って快く引き受けるなど。
そして、50代からの武器は、なんといっても人生経験の豊富さ。第一線で戦う若い人が落ち込んだり、迷ったりしたときには話を聞いてあげて、彼らのがんばりを受け止めてあげる。求められることがあれば、おせっかいにならない程度にアドバイスをする。中村先生のように若手をサポートする立ち位置にシフトしていくと、シニア世代になっても職場や地域社会にうまく溶け込むことができてハッピーに過ごせると思います」
●10年先も楽しめるように、自分らしい生き方を模索する
さらに、奥田先生は、10年先を見据えて今から心穏やかに過ごすことをすすめます。
「古代インドの思想では、50代は『林住期』(りんじゅうき)といいます。人生を幾つかの時期に分けると、25歳から50歳くらいまでは社会の中心になってバリバリ働き、家庭では大黒柱となる家住期。そして50歳くらいからは、その役目を終えて徐々に世俗から離れて自分の人生に向き合い、自分らしい生き方を追求していく林住期に入ります。
日本の場合は、定年となる60歳くらいが林住期かもしれませんね。ただ、50代ともなれば多くの人が、働く先の人生も徐々に見えてくるはず。『本当の自分らしい生き方をする林住期の準備をしよう』と視点を変えていくと、ポジティブに過ごせるのではないでしょうか」
自分のこれからの生き方を考える時期でもある50代。職場の第一線で働く時期を過ぎたとしても、考え方次第で楽しく生きていけるのではないでしょうか。