コクヨで働き方改革プロジェクトアドバイザーを務める坂本崇博さんは、入社時は営業職で、業務効率化とは無縁の仕事をしていた。その後、会社の働き方改革を任されるようになった。なぜいまでは「働き方コンサルタント」と呼ばれるようになったのか――。

※本稿は、坂本崇博『意識が高くない僕たちのための ゼロからはじめる働き方改革』(PLANETS)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/MIND_AND_I
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MIND_AND_I

■アニメ好き会社員に立ちはだかった「残業」の壁

私の働き方が買われるようになったのは、きっと私が当時も今も変わらず「オタク」だったからです。

2001年に大学を卒業しコクヨに入社した私は、コクヨの中でも珍しい「購買システム(自社と取引先との購買取引プロセスを電子上で行うツール)」を取り扱う新規事業の営業職に配属になりました。そこで、当時の日本の会社に入った以上は避けられない課題に直面しました。すなわち「残業」です。

日中は外回りをしてお客様と打ち合わせをして、夕方からオフィスに戻って事務処理や会議を行う、必然的に帰宅時刻は19時、20時、22時と遅くなります。仕事はエキサイティングで楽しかったこともあって肉体的にも精神的にも負担はなかったのですが、一つ困ったことがありました。

それは「アニメが観られない」という問題でした。

もちろん、家に帰ってからや休みの日には録り貯めた深夜アニメやレンタルDVDを観て過ごしてはいましたが、それではとても追いつかないくらい、日本には観るべきアニメが存在し、日々製作されています。せめて1日4〜5時間はアニメ鑑賞の時間が欲しい。となると、会社を18時には出て、帰宅しておかなければいけませんでした。

■「会いに行く営業ではなく来てもらう営業になれないか」

そこで、私は私の働き方を変えることにしました。

お客様との商談議事録は、夕方オフィスに戻ってから打ち込むのではなく、商談しながらその場で作成し商談終了時には完成するように、商談先にPCを持ち込んで打ち合わせをするように変えました。そもそも商談打ち合わせの回数を最小限にするべく、あらかじめ議題を整理しメールや電話で済むことはわざわざ集まらずに進められるように、お客様の意識改革も含めて試行錯誤をしていきました。また、営業会議で使う資料をエクセルのマクロ機能を覚えて手早く作成できるようにしました。

今や当たり前になった「ウェブ会議」ですが、当時としてはまだまだ珍しいツールでした。これを積極的に活用して、お客様にとっても「即時かつリアルな打ち合わせができる」という価値を訴求しながら、移動時間を大幅に軽減していきました。

他にも、「会いに行く営業ではなく来てもらう営業になれないか」とセミナー型の集客営業スタイルで営業効率と付加価値を高めるため部内で検討を進めて実験してみたり、日報を記入する作業を電話秘書サービスに外注して、出先から電話で内容を伝えながら清書してもらう、など試してみたり、いろいろやりました。

■ゼロから始めて働き方コンサルタントへ

もちろん、軋轢やら失敗もさまざまありましたし、周囲を巻き込む上での苦労もありましたが、こうして「自分の働き方改革」を進めた結果、ノルマは達成しながらも残業を減らしてアニメ鑑賞時間を増やすという成果を生み出すことができました。そして、こうした働き方を認めていただいたとあるお客様から、「その働き方を、うちの社員にも広めたい」とお声がけいただいたのが、私が働き方コンサルタントになるきっかけでした。

当時、コクヨとしては、自社のオフィス家具の販売に関連する付加価値サービスとして、オフィスレイアウトの作成やその前段階での「どのような働き方をオフィスで行うべきか」といったワークスタイル調査・分析・コンサルテーションで、役務の対価として費用をいただくというビジネスを行っていました。

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しかし、働き方コンサルタントとして会議や資料づくりのノウハウだけを販売するということはしていなかったので、働き方コンサルタントになるにあたってまずはコンサルティング契約の勉強からはじめることになりました。

また、とくにこれといった明確なメニューもない中でしたので、逆にお客様のご要望に応じて幅広くサポートを提供することができました。お客様の社内の働き方の課題を調査分析するアンケート調査の開発や、業務効率を高める施策として仕事術セミナーやルールづくり、さらにはウェブ会議ツールなどの活用促進勉強会、さらには管理職向けの業務改革推進ノウハウセミナーなど、次第に提供できるメニューや商材が広がっていきました。

■社内でも働き方改革の専門部署が立ち上がる

そうこうしている中で、働き方のコンサルタントではなく「働き方改革を社内で推進する上でのアドバイザー」として、企業の人事部門などが立ち上げた「働き方改革プロジェクト」に対して、その進め方を助言するという立場でもお手伝いさせていただくようになりました。

従業員数が数千〜数万の大手企業において、どういった制度設計や推進活動をすれば一人ひとり、それぞれの部署が自分たちの働き方を見直し、より短時間で高い成果を出そうと工夫したり会社に提言してくれるようになるのかを考え、試し、ノウハウを蓄積し、ご提供するという役割です。

おかげさまで最近では、霞が関働き方改革推進チームのファシリテーター(議論の進行役)として全省庁での働き方改革の推進のお手伝いをさせていただくなど、働き方のコンサルタントから働き方改革推進のコンサルタントとしての活動のほうが多くなってきています。

10年前に1人で働き方コンサルタントを名乗り始めた当時からチームメンバーも増えました。2017年、コクヨの中に新しく働き方改革関連ビジネスを担う部門が設立されるとそこに参画して、年々数割の成長率で拡大していく組織の一翼を担わせてもらえるようになりました。ある意味、社内からも「買われた」と言えるかもしれません。

■オフィスの消灯、フリーアドレスなどで本当に変わるのか

日本中で働き方改革がブームになり、提供メニューも増えて組織も大きくなり、やれることがどんどん広がっていく中で、しかしながら私の中で変わらない信念のようなものがあります。それは、「働き方改革とは、自分で自分の働き方(仕方)を変えることから始まる」という考え方です。

近年、日本中が働き方改革を掲げ、「仕組み」を変えようと躍起になっています。オフィスの照明を消灯して早く帰そうとしたり、ITツールを導入して使わせようとしたり、オフィスを変えてフリーアドレスにしたり、フレックス制度や副業制度を導入したり。しかし、それでは本質的に働き方を改革することはできないと思います。

私が考える働き方改革とは、自分の仕事の仕方を自分自身で見直すことです。そして、もし自分だけでは変えることができないような大きなプロセスや習慣であっても、周囲に働きかけて変えようとすることです。いわば、「私のための私による『私の働き方改革』」です。

世間では働き方改革の大義名分として、組織の競争力強化とか法令順守、顧客満足向上、社会の進化、従業員のワークライフバランスなどの言葉が掲げられています。これらのスローガンはいずれも目線が国とか会社(組織)になっています。もちろん、これらのスローガンも大事なテーマです。しかし「私の働き方改革」において最も重視すべきは「私はどう変わりたいのか」「そう変わるためには何をすればいいか」だと思うのです。

そうした問いに向き合い、いろいろと変えてみることは自分自身にとってとても楽しいエンターテインメントであると私は信じています。いえ、信じているというより、過去の経験から自分で自分の働き方を改革することは「楽しいと知っている」のです。

■環境の変化に留まらず、自分の改革を楽しんで

私が上梓した『意識が高くない僕たちのための ゼロからはじめる働き方改革』(PLANETS)は全体を通じて、私が考える「本来の働き方改革」のあり方、進め方についての経験談や持論、そして働き方改革にかける想いをお伝えしたいと思っています。この本を手に取っていただいたみなさまにその想いが伝わり、自らの働き方改革を楽しんで進めていく、そのちょっとした後押しになれば幸甚です。

坂本崇博『意識が高くない僕たちのための ゼロからはじめる働き方改革』(PLANETS)

コロナ禍を経て、「私たちは働き方改革ができた」という声も聞こえてきます。確かにテレワークやIT化が進み、働く環境は大きく変わりました。しかし、本質的にはこれまでの残業削減のための消灯活動やフリーアドレス化と変わらず、働く場や仕組みが半ば強制的に変わったに過ぎないと感じています。

ただ、こうした強制的な仕組みの変化は、自分で自分の働き方を変える大きなチャンスでもあります。仕組みや環境の変化に留まらず、自分の働き方改革を楽しんでほしいと思います。少なくとも私は楽しんでいます。

そして、いつかはこの本が「漫画でわかる働き方改革」としてスピンオフが製作され、かわいらしい萌えデザインのキャラクターが主人公になったオリジナルストーリー漫画となり、ゆくゆくはアニメ化されてくれる未来(虚構)を夢見ています。

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坂本 崇博(さかもと・たかひろ)
働き方コンサルタント
1978年兵庫県西宮市生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、コクヨ株式会社に就職。“効率化”という観点から会議体の工夫、情報管理方法のアドバイスなどを自ら考案し、新規事業として立ち上げる。現在、コクヨ株式会社にて働き方改革プロジェクトのアドバイザーを務めながら、個人でも助言家として、土日を中心に地方自治体などで講演活動を行っている。
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(働き方コンサルタント 坂本 崇博)