「20秒間の手洗い」の効果が物理学的に解明される
数学モデルで粒子のふるまいをシミュレーションする研究により、手洗いを20秒間行うことで皮膚から効果的にウイルスが除去されることが改めて示されました。これにより、ウイルスや病原菌の存在が知られる前に手洗いの重要性を発見した19世紀の医師・センメルヴェイス・イグナーツの主張が、物理学的に裏付けられたことになります。
Will we ever wash our hands of lubrication theory?: Physics of Fluids: Vol 33, No 8
Wash your hands for 20 seconds: Physics shows why
https://phys.org/news/2021-08-seconds-physics.html
Here's why you need to wash your hands for 20 seconds, according to physics | Live Science
https://www.livescience.com/hand-washing-physics-to-remove-viruses.html
19世紀半ばに手洗いの効果が突き止められて以来、医療の現場では170年以上にわたり手洗いが励行されてきました。しかし、意外なことに「手洗いの効果を流体力学的に検証した論文」はこれまで1つも発表されていないとのこと。
そこで、イギリスのコンサルタント会社・Hammond Consulting Limitedの科学者であるポール・ハモンド氏は、数学モデルを用いて手洗いをしている最中におけるウイルスや細菌の粒子の動きをシミュレーションする研究を行いました。ハモンド氏のモデルでは、肌は粗い表面を持つ物体として定義され、それが流体の薄い膜を隔ててこすれ合うことを想定することで、手洗いの様子が再現されているとのこと。
シミュレーションの結果、手の表面に吸着した粒子を液体中に移すには、ある程度のエネルギーが必要だということが分かりました。これは、手に付着した粒子を効果的に除去するためには、手をこすり合わせる動きを速くして洗い流す水の速さを増加させる必要があることを意味しているとのこと。
ハモンド氏は、この結果について「手の動きが遅すぎると、液体の流れにより生じる力が、粒子を手の表面に保持しておく力に負けてしまいますが、逆に手の動きが速ければ粒子を取り除くことができます。これは、シャツについたシミを速くこすればこするほど汚れが落ちやすいのと同じです」と説明しています。
今回の研究ではさらに、手の動きの速さなどの変数を合理的な数値に設定した場合、粒子を手の表面から一掃するのに必要な時間は20秒だというシミュレーション結果が得られました。これは、世界保健機関(WHO)が手指衛生のガイドラインの中で推奨している手洗い時間とほぼ同じだとのことです。
ハモンド氏は今回の研究を、「この研究では石けんがウイルス粒子を破壊する効果など、化学的ないし生物学的な作用が考慮されていないため、手洗いの効果のすべてが解明されたわけではありませんが、今後のさまざまな研究の重要な基礎となるでしょう」と位置づけました。