部下に正しいことを伝えたつもりが、相手から「ロジックハラスメントだ」と非難されるケースがある。臨床心理士の高品孝之氏は「被害者のように振る舞うことで主張を正当化する人がいるが、こうした『ゲーム』のカモにされてはいけない」という。どうすればいいのか――。

※本稿は、高品孝之『イヤな人間関係から抜け出す本』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios

■テレビ番組でも話題になった

10月11日に放送されたトーク番組『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、正論を振りかざし、相手を追い詰めるロジカルハラスメント(以下、ロジハラ)が取り上げられ、話題になりました。その実態は、ちょっとした注意や質問に対して、「そんな正論を言わなくても……」「ロジハラで訴えます!」など、思いもがけないハラスメントになってしまっています。

セクハラやパワハラなど、不快な人間関係のトラブルに悩む人が多い中、最近話題となっているのがロジハラ。当事者にならないためにはどうすればよいのでしょうか?

■不快な人間関係は「ゲーム」だった

職場や学校、友人、ご近所、家族……。

人はたった1人で生きることはできず、何かしらの関係性を持って他人と接する必要があります。時には、イヤな人、相性が合わない人などと接しなくてはならないこともあるでしょう。イヤな人と関わらずに生きていくことに越したことはないですが、そう簡単なことではありません。

実は、不快な人間関係には、パターンがあります、これを心理学の1つの理論では、「ゲーム(ゲーム理論)」といいます。

ゲームというと、テレビゲームや、野球やサッカーといったスポーツの試合を思い浮かべると思いますが、人間関係もそれらと同じです。

ルールがあり、ルールに基づいて行われています。イヤな人間関係も実は無意識のうちにルールに基づいて構築されているため、「ゲーム」が生じ、敵対関係が生まれ、不快な関係性になってしまうのです。

では、ロジハラの舞台になるのはどういったゲームなのでしょうか?

実際にあった事例をもとに見ていきましょう。

■店長に怒って突然辞めたコンビニ店員

あるコンビニに店長の飯田さん(仮名)とアルバイトの高橋くん(仮名)がいました。高橋くんは、商品を店に並べることは得意で人より素早くキレイにこなします。しかし、どうしても「いらっしゃい」がうまく言えず、いつも「い」にアクセントがついてお客さんやアルバイト仲間に笑われてしまいます。

飯田さんは、高橋くんのことを気にかけ、「いらっしゃいませ」の言い方を指導しますが、どうもうまくいきません。飯田さんも「どうしてこんな簡単なことができないんだろうね?」と首をかしげるしかありません。

ある時、たまたま高橋くんが棚に並べた製品が1つだけ裏向きに置かれていました。飯田さんはそれを見つけ、高橋くんに「1つ裏向きに置かれていたよ。気をつけてね」と何気なく注意すると、高橋くんは怒った顔つきで「それなら僕は辞めます。僕はみんなが簡単にできることさえもできないので、この仕事は合っていないんです。店長の言う通り、能力がないんです」とアルバイトを辞めてしましました。

飯田さんは高橋くんの言動にあっけにとられ、言葉をかけることさえできませんでした。

イラスト提供=あさ出版

■正論を言ったつもりが悪者になってしまう

優しく正当なことを伝えただけなのに、高橋くんは怒ってアルバイトを辞めてしまいました。「ロジハラだ!」と口にさえ出しませんでしたが、正論(ロジック)を伝えたことによる人間関係のトラブルには違いありません。

これは、「ひどいものだ」ゲームといいます。ゲームの仕掛け人が、まるで自分が悲劇のヒーローやヒロインのように振る舞い、自分が周りからつらい目にあっていることを伝えるゲームです。

高橋くんは、周りの人からバカにされていると常に思い込んでおり、ある1つの出来事からプツンと堪忍袋の緒が切れてしまったのです。

このゲームの仕掛け人は、アルバイトの高橋くんです。彼は、商品を並べることで褒められたい、「いらっしゃいませ」が言えなくても大丈夫と慰めてほしいと思っていますが、言ってもいないことを言ったり、急に怒ったり、最終的にアルバイトを辞めたなど、あまりに常軌を逸した言動をするので、かえって相手や周りから顰蹙を買います。一見、高橋くんが傷ついているようにも見えますが、ゲームを支配しているのは彼なのです。

ゲームのカモにされた店長の飯田さんは、正しいことを優しく注意しただけなのに急にアルバイトが辞めてしまうといった痛手を負ってしまいました。

このように、優しく注意をしていても、正論(ロジカル)だけで相手に伝えると痛い目を見ることがあるのです。

■普段の言葉にネガティブなものが潜んでいるかも

どうすれば、「ひどいものだ」ゲームから抜け出すことができるのでしょうか?

高品孝之『イヤな人間関係から抜け出す本』(あさ出版)

飯田さんは、正論(ロジカル)を伝えていましたが、そのことが高橋くんの「簡単な事ができない」「みんなみたいにできない」「仕事が合っていない」など、否定的な気持ちを助長させてしまったのです。

そのため、飯田さんは高橋くんの「否定的な気持ちに反応しない」必要があったのです。できないことに対して「なんでできないのかな?」「大丈夫、できるようになるよ」などと反応せず、「いろいろと助かっているよ」「うちの大切な戦力だ!」など、ポジティブな言葉がけをしていたら高橋くんの自分を否定する気持ちが和らいでアルバイトを辞めることはなかったでしょう。

ちょっとした注意や指導がロジハラと捉えられる時、普段の言葉がけや対応の中にネガティブな言動がはびこっている可能性が高いのです。

正論を伝えることは大切ですが、相手との関係性をもう一度見直して見ることが大切です。相手との信頼関係ができているのであれば、正論を伝えても「ロジハラだ!」と騒ぎになることはないでしょう。

■ゲームの標的にされやすい人とは

生きていくうえで人間関係のトラブルはつきものです。完全に避けることはできません。大事なのは、人間関係のトラブルは起こりうるものと受け入れてしまうこと、そして、起きてしまったトラブルをいかに小さく穏やかに抑えるか、対応策を知っておくことです。

ゲームに巻き込まれ、ゲームから抜け出せない人は、主に「他人の面倒を見る人」「お人よしの人」「他人に気を遣う優しい人」などに多いです。そのため、相手のことを思って、「正しいこと」「正論」を伝えがちですが、ロジハラではそれがゲームの仕掛け人がつけ込むポイントになってしまいます。

人間関係のゲームから抜け出すためにも各ゲームのルールを知り、適切な対応が大切なのです。

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高品 孝之(たかしな・たかゆき)
臨床心理士、一級交流分析士、博士(教育学)
1960年、北海道生まれ。早稲田大学国文科卒業後、高校の教員になるも人間関係のトラブル解決の困難さを目の当たりにし、心理学を学びはじめる。北海道大学大学院教育研究科博士後期課程を修了後、30年間、高校の現場で心理学的手法を用いて、生徒と生徒、生徒と親、親と親など、さまざまな人間関係のトラブルを解決している。近著に『イヤな人間関係から抜け出す本』(あさ出版)がある。
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(臨床心理士、一級交流分析士、博士(教育学) 高品 孝之)