新型コロナウイルス関連のコンテンツは、FacebookやYouTubeなどの動画をはじめ、あらゆるフォーマットで急増し、とくに3月、ウイルス関連の動画のオーディエンス数は大きく伸びた。ところがここに来て、そのオーディエンスの関心に衰えが見えはじめ、パブリッシャーたちは少しずつ、通常の番組編成に戻りつつある。

ボックスメディア(Vox Media)のニュースブランド「Vox(ボックス)」は、解説記事を専門に扱うパブリッシャーだが、彼らにとってこの動きは、「モノポリーの正しい遊び方」とか、「なぜ子どもは文字を逆から書くのか」など、その本業たる解説動画に戻ることを意味する。一方、グループナイン(Group Nine)のニュースブランド「NowThis(ナウディス)」の場合は、Zoom(ズーム)で結婚式の模様をストリーム配信する動画や、マインクラフト(Minecraft)内で大学の卒業式を開催する動画などを意味する。さらに、ハースト(Hearst)とコンプレックスネットワークス(Complex Networks)では、スタジオ番組のリモート版スピンオフを増やしている。

3月半ばに外出禁止令が出された直後の3週間半、ボックスメディアの動画視聴を席巻したのは、「感染症の大流行を収束させるのに、なぜ隔離が重要なのか」のような解説動画だった。ボックスが3月16日に投稿したこの動画は、YouTubeでの再生回数が650万回にのぼった。だがこの期間を過ぎると、ボックスのオーディエンスはもっと馴染みのある番組に方向転換しはじめた。たとえば、「イーター(Eater)」が4月4日に投稿した動画は、受賞歴のあるシェフがストリップモールと呼ばれる小規模なショッピングセンター内で営業するレストランを取り上げた作品だが、その再生回数は440万回に達した。

「オーディエンスがいつもの番組に戻ってきている。その分、[コロナ関連の]際物が占める比率は減る一方だ」と、ボックスメディアの関係者は言っている。

「母親の手料理」的なコンテンツ

ほかのメディア企業もこの変化を認識している。ハーストマガジンズ(Hearst Magazines)のバイスプレジデントで、動画の開発とコンテンツ戦略を統括するズーリ・ライス氏によると、いまやオーディエンスは、元気のないときに食べると元気がでるような、どこか懐かしい「母親の手料理」的なコンテンツを渇望しているという。たとえば、それはセレブのニュース動画であり、あるいは米誌「エル(ELLE)」の「歌の連想ゲーム(Song Association)」のような既存の番組のリモート版であったりする。

コンプレックスネットワークスは、既存の番組のスピンオフをリモートで制作してきたが、オーディエンスが馴染みの番組に引きつけられるあまり、スピンオフのシリーズがオリジナルを凌ぐような事例も出ている。たとえば、同社のバイスプレジデントで、ビジネスインテリジェンスを統括するアーロン・ブラクストン氏によると、「ライフ・アット・コンプレックス(Life at Complex)」の最新シーズンでは、エピソードごとの視聴時間が平均でざっと25万分のところ、スピンオフシリーズの「スニーカー・バトル・フロム・ホーム(Sneaker Battle from Home)」では、エピソードごとの視聴時間が平均で75万分近くにのぼった。

「ひと息ついて、誰もがみな、いつも見ていた番組やそのスピンオフを見たくなっているのだろう。いわゆるニューノーマルというやつかもしれない。こういう状況がこのさき2週間続くのだから(※原文記事は5月4日掲載)、なにかいつもと違うものを見ようというフェーズでは、もはやない」。そう指摘するのは、コンプレックスネットワークスでオペレーションとコンテンツを担当するジェネラルマネジャー兼エグゼクティブバイスプレジデントのジャスティン・キリオン氏だ。

メディア企業は、このような視聴傾向の変化に合わせて、番組編成を調整し、通常の番組内容へと舵を切りはじめている。

コロナ関連でも明るめの内容を

ボックスメディアの関係者によると、この3月、ボックスのコンテンツ制作における最優先事項は、「ソーシャルディスタンシングがウイルスの拡散を抑制するのはなぜか?」とか「新型コロナウイルスを単なるインフルエンザの一種と見る意見がいかに誤りであるか」などを詳しく説明するような、解説動画を量産することだった。だが5月になると、コロナ関連のコンテンツに加えて、ボックスが従来扱ってきたデザイン、音楽、歴史などをテーマとする動画を増やしたという。

グループナインメディアのニュースサイト、NowThisはいまもコロナ関連のニュースを報道しているが、やや明るめの内容を追加している。3月も終わるころ、NowThisは「In This Together(ともに乗り越える)」という新シリーズを開始した。このシリーズでは、医療従事者のためにフェイスマスクを手作りするおばあちゃんの記事など、より前向きな話題に焦点を当てている。「隔離プロセスの初期に急増したトピックについては、コロナニュース疲れとも言える現象が見えてきた」。グループナインで戦略的な知見および成長を担当するシニアバイスプレジデントのノア・カイル氏はそう語る。

定番的な番組への回帰にともない、視聴回数も平常の水準に戻りはじめている。チューブラーラボ(Tubular Labs)のデータを見るかぎり、外出制限がはじまった3月半ば、YouTube、Facebook、インスタグラムでの動画再生回数はピークに達し、4月に入ると、米国のオーディエンスの視聴は若干後退するものの、YouTubeとFacebookでは引き続き規制前の水準を維持している。

従来のテレビなどでも同様の傾向

4月に見られる視聴回数の減少傾向は、動画のプラットフォームに限った話ではない。従来のテレビやストリーミングサービスも、外出制限の開始以降、視聴率は毎週下落しつづけているという。

ニールセン(Nielsen)の調べによると、アメリカで外出禁止令が発令された直後の2週間、具体的には3月16日の週と3月23日の週だが、従来のテレビとストリーミングサービスの視聴時間は前週比で増えている。一方、4月以降のテレビの総視聴時間は毎週下落しているものの、コロナ以前の水準は維持している。4月20日の週では、テレビの視聴時間は全体で前週比3%減、ストリーミング動画の視聴時間は5%減だった。

視聴時間の減少の一因として、人々が在宅勤務やオンライン授業などに適応し、ロックダウン開始の当初ほど、テレビを見る時間がなくなったことが考えられる。「これらのデータから[視聴傾向について]推測するとすれば、そして[現下の不透明さを考えれば]推測すら難しいのだが、ひと月程度で元の状態に戻るのではないか。視聴傾向と外出制限はごく密接に連動しているように思われる」。チューブラーラボのロブ・ゲイブル最高経営責任者(CEO)はそう語る。

Appleの移動傾向データによると

Appleの移動傾向データは、この結論を裏付けているように見える。このデータを見るかぎり、人々がもっとも外出を控えたのは3月末で、この時期、チューブラーラボによると、ソーシャル動画の視聴回数もピークに達しているが、4月に入って以降、車や徒歩で外出する人は増加に転じている。

しかしながら、4月にソーシャル動画の視聴が増えた要因は、人々がコロナ関連のニュースに疲弊したこと、外出の機会が増えたことだけではないだろう。もうひとつの要因として、パブリッシャーによる動画の投稿数とも関係がありそうだ。

グループナインとハーストは、動画の投稿数を毎週のように増やしている。そして両社とも、米国における週当たりの動画再生回数は、YouTube、インスタグラム、Twitterについては高止まりだが、Facebookではいまもなお伸びつづけている。

対照的に、コンプレックスは外出制限中から一貫した動画投稿数を維持している。また、ボックスメディアを見ると、週当たりの動画投稿数は、外出制限以前と比べて減少している。両社とも、4月における米国での週当たりの動画再生回数は、3月中旬以降と比べて急減している。

「受けのよいフォーマットができれば」

Cut.comの動画の視聴状況は、外出制限の期間中に動画の投稿数を維持するだけでなく、定番のコンテンツを提供することの重要性をも表しているように見える。

Cut.comは社名を冠したYouTubeチャネルで大ヒットシリーズの「ラインナップ(Lineup)」を配信しているが、物理的な制作作業が中断され、新規のエピソードが制作できなくなっている。「ラインアップの1話当たりの再生回数は平均で1000万回にのぼる。同じチャネルの別の動画の視聴にもつながっており、30%から40%の視聴率を獲得している」。そう説明するのは、Cut.comの最高戦略責任者を務めるクリス・ルディ氏だ。同氏によると、YouTubeでのCPMは20%から40%下落したが、この下落分を物販事業が相殺し、収益全体としては、コロナ以前の業績予想を上回っているという。このシリーズがなければ、Cut.comチャネルの視聴率は20%から30%減となる。

対照的に、Cut.comのもうひとつの人気ブランド「ハイホー(HiHo)」は、リモートでの制作が可能だ。ルディ氏によると、視聴率は30%から40%も増えているという。ルディ氏の言葉を借りるなら、「オーディエンス受けのよい番組フォーマットを作ることができれば、安定した視聴率を獲得できる」。

TIM PETERSON(原文 / 訳:英じゅんこ)