在京キー局各社は柱となる広告収入が大幅に減少している。写真はフジテレビ本社(撮影:今井康一)

「今回のスポット広告は異常。リーマンショック時の落ち込みを思い出す」

11月に開催された決算説明会後、あるテレビ局関係者は下を向きながらつぶやいた。

在京キー局各社の2019年4〜9月期の決算が出そろった。波紋を呼んだのは、柱の広告収入が大幅に減少し、フジ・メディア・ホールディングスを除く4社が2020年3月期通期業績の下方修正を打ち出したことだ。

9月のスポット広告は2桁の落ち込み

下方修正の理由は、広告収入の落ち込みがある。特定の番組で流すことが確定される「タイム広告」は堅調に推移しているが、番組の指定ができない「スポット広告」が大きく減少した。


今年上期(2019年4月〜9月)の東京地区のスポット広告(平均)は、前年同期比で5%落ち込んだ。9月の単月でみると、10.2%も減少。10月以降もこの傾向は続いており、広告収入減少の出口は見えていない。

テレビ朝日ホールディングスの早河洋会長は決算説明会で「ここまでの低迷ぶり、ある程度は予測していたが、ここまでの数字になるとは(思わなかった)。東京キー局みんな同じだと思う」と語った。

唯一、業績の下方修正がなかったフジ・メディアHDも、「(スポット市況の悪化によって)全体のパイの行く末が気になる。(スポット広告全体の)パイが縮小していっており、そことどう折り合いを付けていくのか。非常に難しい」(金光修社長)としている。

フジ・メディアHDが下方修正しないのは、第2四半期までは他社と比べて放送収入の落ち込みを防げたことと、放送以外の不動産事業などで補えるとみているからだ。しかし、第3四半期のスポット広告は大幅に落ち込んでいる模様で、2020年3月期通期の放送収入に限ってみるとフジ・メディアHDも厳しい。

スポット広告が減少している理由の1つは、今年はスポーツの世界大会が多かったことだ。ラグビーワールドカップを中心に、バレーボールや世界陸上などの世界大会が例年以上に集中した。

今までであればスポット広告に出稿していたクライアント(広告主)が、スポーツ中継に広告を出稿するためタイム広告に切り替えたことで、スポット広告が減少したという。

テレビ広告からネット広告

経済環境の悪化もスポット広告市況の悪化要因として挙げられている。あるテレビ局関係者は、「広告主が一様に出稿を様子見しているような感覚がある。米中摩擦など今後の見通しが見えないからではないか」と話す。


テレビ東京ホールディングスの小孫茂社長は「(今期は)日本企業の新商品が極端に少ない。企業が先行きの見通しが不透明なため、宣伝をする時期じゃないという判断もあるのではないか」と話す。

さらにネット広告へのシフトというテレビ広告の構造変化もある。日本テレビHDの酒巻和也取締役は「スポットCMが低調なのは、デジタル(ネット広告)と比べて使いにくいというクライアントの声が聞こえる」と話す。

広告全体に占めるテレビの割合は2018年に29.3%だったのに対し、インターネットは26.9%だった。「今年、ネット広告がテレビ広告を追い抜くことは確実」(広告代理店関係者)という予想も多く、広告の主体はテレビからネットへの移行が着実に進んでいるようだ。

テレビ広告に逆風が吹く中、各社の対応は分かれている。放送外の収入を大きく伸ばそうとしているのがテレビ東京HDだ。「放送だけをやっていくのは難しい。放送外の収益を伸ばしていく」(小孫茂社長)。

テレビ東京の放送外収入の比率はすでに30%を超えており、今後は40%以上を目指していくという。「NARUTO」や「BORUTO」などのアニメコンテンツが中国などを中心に人気を博しており、そうしたライツ関係の収入を伸ばしていく意向だ。

テレビ朝日HDもテレビ東京同様、テレビコンテンツを生かした収入拡大を目指す。2020年度までの中期経営計画では「360°展開」と銘打ち、AbemaTVなどのネット配信やイベント事業の強化などを掲げている。

フジは都市開発事業の利益が本業を逆転

しかし、テレビ東京には現在人気のコンテンツ以外に伸びている作品は見当たらず、どのようにして次なる大ヒットを生み出すかが課題で、競争が激しい領域のため見通しも楽観できない。

一方、放送外分野の収益を拡大しようとしているのがフジテレビを有するフジ・メディアHDだ。同社は11月の決算説明会で放送事業が柱だと強調しつつも、放送とは関わりの無い新規事業への拡大も示唆している。

2012年に完全子会社化したサンケイビルが大きく寄与し、2019年4〜9月期の営業利益は、都市開発・観光事業がメディア・コンテンツ事業を上回った。同社は9月30日時点で638億円の現預金を保有している。今後、新分野の投資戦略を打ち出すと明言しており、M&Aも含めた投資が活発になっていくと考えられる。

TBSホールディングスも「赤坂エンタテイメント・シティ構想」と題した東京・赤坂地域の再開発を三菱地所とともに計画している。投資規模など詳細は明らかではないが、劇場などエンターテインメント施設の運営を拡大していく。同時に2020年度までに500億円規模の戦略的投資をしていくとも公表しており、新規事業およびM&Aの推進にも積極的だ。

放送以外の新業態は本業と異なるため、失敗時のリスクが大きい。しかし、フジ・メディアHDのサンケイビルのように、リターンも大きい。

一方、6年連続年間視聴率三冠王を射程に収める日本テレビホールディングスは、本業である放送のスポット収入を伸ばす策に注力している。決算説明会では「どれくらい効果があるかはわからないが、新しいスポットの売り方にチャレンジしていく」(酒巻和也取締役)と明かした。

テレビ広告の価値をいかに高めるか

ネット広告と異なり、テレビ広告は雨が降っているから傘のCMを打つというように、状況に応じて機動的にCMの内容を入れ替えることが難しい。そういう利便性に劣っていたテレビ広告だが、出稿期間の短縮など、柔軟性を高めることによって使い勝手を改良していく。

日本テレビHDの酒巻和也取締役は「(テレビ広告が)右肩上がりに上がっていくことはないが、テレビの価値を高めることで減少を抑えていきたい」と語っており、ネット広告へのシフトを少しでも食い止めようとしている。ただ同時に、アクティブラーニング型の研修事業など新事業にも乗り出しており、放送と放送外事業を両にらみで強化していく。

すべての放送局が一様に「放送が中心事業」と訴えるが、その柱のスポット収入は落ち込みが激しい。その中でどのように生き残るのか。従来以上に、放送局の枠組みにとらわれない取り組みが求められている。