武田鉄矢

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 『ごくせん』(日本テレビ系)の仲間由紀恵、『3年B組金八先生』(TBS系)の武田鉄矢、『GTO』(フジテレビ系)の反町隆史……、数あるドラマのジャンルの中でも人気ドラマとなる作品が多い学園もの。つい最近も菅田将暉が型破りな教師役を務めた『3年A組』(日本テレビ系)が大反響を得た。

 このようなドラマを見て、“ヤンクミみたいに熱い教師になりたい!”“金八先生みたいに生徒に向き合える教師になりたい!”など、自身の理想や教育理念を持って教師を志す人は多い。そんな教師は“聖職”とも呼ばれ、辞める人が少ない業界と思われていた。しかし─。

「ここ2〜3年、転職サイトにエントリーされる教師が多くなってきた印象ですね」

 そう話すのは、これまで複数の教師の転職を支援してきた転職アドバイザーの男性。教師はなぜ今、転職エージェントに駆け込むのだろうか。

「教師ということで、一般企業以上に、ある意味“理想”が必須条件の業界です。“こんな教育がしたい”“こんな教師になりたい”などと考えて教師になる人が多い。しかし、いざ教師になってみると、思っていたものと現実とのギャップが大きい。

 もちろん、ギャップは近年大きくなったものではありませんが、現在はモンスターペアレントの問題や、ダンスやプログラミングなど、授業のカリキュラムが増えるばかりで、やりくりに四苦八苦するという状態などに悩み、転職を考える人が多いですね。

 男女比はどちらかというと女性が多い。男性はギャップを感じても、“まぁ、しょうがないか。生きていかなきゃだし”と割り切る人が多い印象ですね」(前出・転職エージェント)

 都内の公立中学で非正規の教員として務め、自身も現在転職を考えているという女性は自嘲ぎみにこう語る。

「学校なんて公的なブラック企業ですからね。カリキュラムが増えるのは、国が決めたことなんで、どうしようもないと思ってますけど、部活なんか受け持ったら休みなんてほとんどなくなっちゃう。

 すべてトップダウンで、言われたら“やります”って言わなきゃいけない雰囲気で、上の立場の先生に頼まれたら断れず、それで残業が多くなるし……。そのくせ、ちょっと変わった授業とか新しいことをやろうとすると、古い先生たちが難色を示してきて、結果できなかったり……」

 一時期は、教員試験に受かっても、なかなか“枠”がなく、学校に勤められない人が多いことも問題となった。しかし、現在は、全国的には教員採用試験の倍率は低下傾向で、採用倍率が1・2倍の自治体も出てきている。

「以前に比べれば、教師にはなりやすくなったと思います。もちろん非正規も含めてですが。なりやすく入り口が広がれば、昔みたいに“教師以外考えられない”と強く思う人だけではなくなり、そのぶん出ていく人も増えていて、私の周りにも、なったはいいけど、やはり違うなって辞めて一般企業に再就職する人も少なくないですね」(前出・教員の女性)

辞める教師の転職先は

 辞める教師は、どういった転職先が多いのだろうか。

「時間のなさや理想とのギャップで辞める人は多いのですが、経験を活かせる職種ということで、やはり教育系がほとんどですね。しかし、そうなると塾講師や学習教材の編集など、職種が限られてしまう。若ければ業種を変えやすいですが、30歳を越えるとそれもなかなか難しい。

 教師はある意味“特殊技能”であり、応用やつぶしがききにくい。一般企業の視点で見ると、“未経験”に近いととらえられてしまう場合も多いのです。一般的なビジネスマナーなどを知らない人も多いです。教育系以外を志望する人は、“未経験OK”の職場に決まるケースが多い印象ですね」(前出・転職エージェント)

 職種が限られてしまうことに加え、もうひとつの問題が。

「平日は授業などがあって時間がとれない。休日も部活などで時間をとれない人も多いですね。しかし、時間をかけないと決まらない。

 また、教育の現場は、4月から始まって3月に終わるという“年度制”で動いていますから、転職時期が春のタイミングに限られる。職場を辞めるというのは誰もが持つ権利ですから、何月だろうが辞めていいわけですが、やはり生徒を受け持っていれば、“途中で投げ出すことはできない”と、4月のタイミングで転職という人がほとんどですね。

 本当に大変で嫌なら、投げ出しちゃっていいと思うんですけどね(苦笑)。そこでできなければ、1年後という人も多いです」(同・転職エージェント)

 スムーズに決まる転職先はなく、苦労して取得した免許も無に帰するような“未経験OK”の職場となれば必然的に……。

「年収は下がってしまう人が多いですね。イメージとして400万円台から300万円台になる人が多い。これは転職先だけの問題ではなくて、あまり金銭面を考えていない人が多いという側面もあります。公的な仕事に近い教師という立場にあったことで、“お金を稼ぐ”ということに少し後ろめたさを感じているような人もいます」

職歴ロンダリングも

 転職の難しさゆえに、“次の次”を見据える人も。

「やはり教育系がいちばん決まりやすいですから、たとえば1度、教材の編集の仕事に就いて、本の編集という経験やスキルを身につけて、その後に出版業界へスライドしていく。こうしたひとつ職歴を増やして、一般企業でも働ける経験があることを示す“職歴のロンダリング”を考える人もいます」(前出・転職エージェント)

 教師の転職事情についてネガティブな言葉ばかりが聞こえてきたが、教師という職歴はマイナス要素などではなく、むしろプラスにとらえられるケースも増えてきたとも。

 パーソルキャリアが運営する転職サービス『doda』の編集長の大浦征也さんは、

「学校教育の現場は、ものすごくマネージメント能力が問われる現場です。生徒という若い人から、先生も年齢層が幅広い。そして親御さんともコミュニケーションをとらなくてはならない。

 一般企業のビジネスマネージメントより明らかに難しいでしょう。学校教育を仕事にすることで、社会人にとって重要な能力を得られるという考え方はアメリカで進んでいて、日本ではまだごく一部ではありますが、そういった意識を持つ企業もあります」

 教師が持つ“能力”とは。

「いちばんわかりやすいのは、リーダーシップ、マネージメントの部分ですね。自分と価値観や常識が違う人たちを束ねるということ。どんな生徒たちがいて、どんな状態だったものをどうしたのか。イベントに対しての取り組み。プロジェクトマネジメントの要素ですね。

 また、そもそも“教える”という行為は非常に難しいこと。どうやってできない人をできるようにするのかは戦略性が問われます。生徒のスコアをどう上げさせるのかなど、求められるスキルのレベルは高いわけです。

 ただ、日常的に比較される世界にいらっしゃらないので、転職時にそれをアピールすることが慣れてないゆえに苦手な人は多いですね」(前出・大浦さん)

 坂本金八は、第7シリーズで次のように語っていた。

《「正」という字は「一つ」「止まる」と書きます。もし何かに迷ったら、始めの一に戻って止まって、そこからもう一度考え直して下さい》

 一つ止まって考え直し、転職する教師はこれからも増えていくだろうか─。