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自分や子どもの身体に起きた異変が「重大な病気じゃないか」と不安を覚える人は多いはず。自分の抱える不安に関するオンライン検索を強迫的に行う「サイバー心気症」を抱えている人は、検索しても自身の不安は解決せず、自分の不安をエスカレートさせてしまう傾向があるとScientific Americanが報じています。

Cyberchondriacs Just Know They Must Be Sick - Scientific American

https://www.scientificamerican.com/article/cyberchondriacs-just-know-they-must-be-sick/

コリーン・アベルさんは自分の子どもに授乳した次の日、右胸に赤い発疹ができているのを発見しました。原因に心当たりはなく、アベルさんは「子どもがつけた傷によって何らかの感染症になった」と推測したり、「南京虫のかみ傷かもしれない」と疑ったりしました。アベルさんが発疹についてGoogleで検索してみたところ、「炎症性の乳がん」という検索結果を発見し、アベルさんは衝撃を受けたそうです。乳がんよりも皮膚炎などの可能性がはるかに高いにもかかわらず、アベルさんは自分が乳がんであると思い込み、毎日3、4時間も乳がんに関する情報をインターネットで収集し続けるようになりました。



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アベルさんのような事例は「サイバー心気症」の典型であるといえます。サイバー心気症はGoogleなどの検索エンジンで自分の病状などの不安を検索し、検索結果から自分の不安をさらに増大させ、まるで依存しているかのように検索をし続けてしまうというものです。サイバー心気症はアメリカ精神医学において、診断によって認定できる病気ではなく、どれだけ多くの人が実際にサイバー心気症を患っているのかは不明です。

アメリカテキサス州のベイラー大学で心理学准教授を務めるトーマス・ファーガス氏はサイバー心気症のような「安心を追い求める心理」に関する専門家です。ファーガス氏はロンドンサウスバンク大学のマルカントニオ・スパーダ教授と共同で、サイバー心気症は「強迫性障害」と強い関連があるという研究を発表しました。強迫性障害を持つ人は自分で決めた儀式的な行動をとることで不安が軽減されると考えていますが、サイバー心気症をもつ人にとっては、オンラインで自分の不安について何時間も検索することが「儀式的行動」というわけです。



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オンライン上の健康に関する情報は矛盾していることが多々あり、「どの情報が正しいのか?」を判断することは不可能。そのため、「どの情報が正しいのか?」というよりも「どの情報を信じるのか?」という問題になります。胸部に発疹を見つけたアベルさんは「炎症性の乳がん」だと一度信じ込んだ後、乳がんが珍しい病気だという情報は無視するようになり、乳がんだと確信してしまう情報ばかりを集めるようになったとのこと。

アベルさんは延々と乳がんについて検索し続ける生活を2カ月過ごした後、ついに病院で診断を受けることを決心。診断結果は「カンジタ病」というカビの感染症で、治療によってすぐ治せるような良性のものでした。Google検索で自分の病気について検索していた時、カンジタ病を指し示す検索結果は一度も現れなかったとアベルさんは語っています。



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サイバー心気症の治療法は抗うつ薬や会話療法、「自分の不安を信じ込もうとする気持ち」に自分自身で疑問を持つような認知行動療法などが挙げられます。カンジタ病の治療を終えた後では、アベルさんはサイバー心気症の傾向があると自分で認識しているとのこと。アベルさんは自分の不安に対処する方法として、「不安は誰でも抱えていて、恥じることではありません。むしろ、不安だからこそ医者にかかるべきです」とコメントしています。