「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「結婚」「婚姻」の「婚」。織姫と彦星が一年に一度の逢瀬を許される七夕の節句にも、ひもといてみたい漢字です。



「婚」という字は「女へん」の横に「氏」、その下に「日」と書きます。

これは、深く眠ることを意味する「昏睡」の「昏」という漢字で、人が眠りにつこうとする、日の暮れた時分を表します。

「黄色」の「黄」に「昏」を組み合わせた熟語は「黄昏(たそがれ)」。

古語でいうところの「誰そ彼(たそかれ)」が語源で、日が暮れてきて人の見分けがつきにくく、「そこに居るあなたは誰ですか」とたずねる頃合いのことを表します。

「昏」という字は、日が暮れてあたりが暗い様子を示す漢字。

そこに、両手を重ねてひざまづく女性の姿を象形文字にした「女へん」を添えて、「結婚する」「縁組」という意味をもつ「婚」という漢字ができました。

では、なぜ結婚の「婚」に夜を意味する漢字が使われているのか。

それは、いにしえの人々の間で行われた婚姻の風習の多くが、夜の闇にまぎれて行われていたからだと言われます。

夫が妻の家へ押しかける「よばい」に「婿入り婚」。

親の承諾を得ぬまま夫が妻を奪いに出向く「嫁かつぎ」。

そのほか嫁を「奪う」「盗む」といった言い方もあります。

言葉のみから受ける野蛮な印象がのちに誤解を生むのですが、民俗学者の柳田国男は、これらの風習は必ずしも不法な拘束を伴うものではなかったといいます。

先の見えない闇の中だからこそ、自らの直感を頼みに相手の本質を見抜き、本能的な愛を育ててゆくことができる。

仲人の交渉や家の許しを請わないこうした方法こそ、本人たちの合意のみで結ばれるという、自由な婚姻の形だったのかもしれません。

ではここで、もう一度「婚」という字を感じてみてください。

織姫と彦星が一年に一度の逢瀬を許される七夕の節句。

働き者だった二人が結婚後に仕事をおろそかにするようになったため、織姫の父でもある天の帝の怒りに触れ、夫婦は引き離されてしまいます。

十六光年ともいわれる遠距離を移動するのは彦星。

妻のもとへ夫が通う「妻問い婚」が、銀河の彼方で行われています。

そして地上には、それぞれが充実した一週間を過ごし、久しぶりに時間をあわせて夕暮れの食卓を囲む夫婦がいます。

互いの人生を尊重しつつ、あなたから私へ、私からあなたへ、おつかれさま。

そんな乾杯のひとときに、契りを交わしたあの日よりも、深く静かな喜びがこみあげてくる二人でいられますように。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『女へんの漢字』(藤堂明保/著 角川文庫)

『婚姻の話』(柳田国男/著 岩波文庫)

7月14日(土)の放送では「苔」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。



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<番組概要>

番組名:感じて、漢字の世界

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/