バイクエクササイズの専門スタジオ「FEELCYCLE」では、約50台のバイクがぎっしりと並ぶ(筆者撮影)

“暗闇フィットネス”が女性の間で密かにブームに

“暗闇フィットネス”が、健康や美容への意識が高い女性の間で密かにブームだ。文字どおり真っ暗な室内で、音楽にのって運動をする。エアロバイクなどの有酸素運動のほか、ダンスやボクササイズなどの種類がある。

エアロビクスがはやった時期もあるが、鏡の前でダンスをすることに気恥ずかしさを覚えた人は多いだろう。またスタイルのよいインストラクターや、周囲の人の目が気になって、自分の踊りや動きに集中できない、という人もいるだろう。自分の目も人の目も気にせず、思うまま体を動かせる暗闇フィットネスは、そんなシャイな人が多い日本人にぴったりなのだ。
日本における先駆者を自認するのが、バイクエクササイズの専門スタジオ「FEELCYCLE(フィールサイクル)」である。暗闇のなかでのバイクエクササイズというスタイルは、もともとはニューヨークが発祥で、ハリウッドスターやニューヨーカーの間でブームになったことから、全米に広まった。

日本では、2013年、フィールサイクルの運営会社であるFEEL CONNECTION(フィールコネクション)が導入。東京都内主要駅や大阪、名古屋などの主要都市を中心に展開を広げ、現在29店舗(4月末時点)。6月には高松店、渋谷店がオープンの予定だ。


フィールコネクションFEELCYCLE事業部長の武田宏信氏(編集部撮影)

「2013年当時から比べるとずいぶん美意識が変わり、昔は筋トレにネガティブな意識が強かったのですが、今はポジティブに捉えられるようになりました。また、フィットネスのバリエーションも広がっています。フィールサイクルも、導入当初はなかなか知ってもらえませんでしたが、数カ月から半年後でしょうか、“暗闇フィットネス”としてマスコミに取り上げられるようになってから、徐々に伸びてきました」(フィールコネクションFEELCYCLE事業部長の武田宏信氏)

会員数は非公開だが、20〜40代の女性を中心に広がり、体験レッスン参加者は11万人を越えた。利用者は幅広く、16歳から70歳代まで。男女比は現在3対7ぐらいだが、男性の割合が増えてきており、また、男性のほうがより「ハマる」傾向にあるという。


2016年に開催されたイベント「LUSTER」の様子(写真:フィールコネクション)

「FEELCYCLE LIVE LUSTER」と呼ばれるフェスイベントには、4000人の参加者が集まる。イベントのチケット料金は1万2800円。また会員の会費は月に1万2900円〜1万8000円(店舗によって異なる)となかなかの価格なのだが、多くの人が、価値を認めて集まっているということだ。

フィールサイクルの概要を簡単に説明すると、暗闇のなか、最先端の音楽にのってひたすらフィットネスバイクのペダルをこぐというもの。インストラクターがペダルの回転数や負荷、立ちこぎや、上半身の動きも含めた運動内容を指示する。バイクで主に使う足の筋肉は体のなかでも大きな部分を占めるため、動かすことで大きなカロリーを消費する。フィールサイクルでは、45分のレッスンで約800kcal消費をうたっている。また、レッスン内容によっては、さまざまな動きを組み合わせることでほかの筋肉も鍛えられ、体が引き締まるとされる。

人気の理由は「音楽へのこだわり」

そして「ただひたすらこぐだけ」というシンプルな運動を、魅力あるレッスンにしているのが、音楽へのこだわりだ。ヒップホップ、ソウル、ロック、レゲエといったクラブミュージックが中心。45分のレッスン中、バイクをこぐ速度をさまざまに変えて体を動かしていくため、音楽も都度動きにふさわしいものをいくつか組み合わせて構成している。

「アーティストを大事にしており、レッスンのなかでの音楽の構成についてもレーベルと話しながら行います。たとえば、アーティストの希望により、1つのアルバムだけを使ってレッスンを構成するということもあります」(武田氏)

アーティストやレーベルにとっても、アルバムなどの宣伝にもなるというメリットがある。いわゆるwin-winの関係で、海外有名DJが来日時、レッスンに参加してくれたこともあるそうだ。

「ZEDDという、洋楽好きなら知らない人はいないというほどのDJです。参加者にとっては、まさにサプライズで、まったく予想していなかったところに突然現れたので、驚きでもあり、非常にラッキーだったと思います」(武田氏)

音楽がフィールサイクルのブランド価値になっていることを示すのが、アップルの音楽配信サービスApple Musicへのキュレーターとしての参加だ。レッスンで提供しているプログラムのプレイリストを同サービスで公開しており、サービスを利用している人なら、誰もがダウンロードして聴くことができる。

「若い頃クラブに行っていた人が、クラブの代わりに通ってくださっている例もあります。このように洋楽好きな人はもちろんですが、まったく聴いたことがなかったけど、フィールサイクルを通じて好きになったという人もいます。今、若い世代はかえって洋楽を知らないので、価値を伝える意義もあると感じています」(武田氏)


インストラクターは音楽や照明も自身でプロデュースするという(写真:フィールコネクション)

そして実際のレッスンで、音楽とともにフィールサイクルの世界観をつくりあげているのが、リズムに合わせて煌めく照明や、インストラクターによるインストラクション(指示)だ。インストラクターは、参加者の気持ちを高揚させるようなかけ声をかけたり、スピードアップ、ダウンといった速度の指示、上半身を動かすときの指示を行う。

フィールサイクルで使われるフィットネスバイクは、「トルク」というハンドルのようなもので、自分でペダルの重さを調節できるようになっている。トルクを右に回すほど重くなり、こぐのに筋力を要するわけだ。「トルクを○回右に回して」といった指示も、随時インストラクターから出される。

インストラクターのトークは英語混じりで、クラブのDJをイメージさせる。実際、音楽や照明、エクササイズの構成はそれぞれのインストラクターが行っている。いわば自分の担当するレッスンにおいて、DJのような役割をしているのだ。

当然、インストラクターの個性が出るため、同じ45分でも、さまざまなバリエーションが生じることになる。

店舗によって雰囲気を変えている

また、バリエーションということで言えば、店舗によって内装が異なるという特徴もある。


内装がゴージャスな六本木店(写真:フィールコネクション)

「六本木店はシャンデリアが備えられるなど、ラグジュアリーな雰囲気で、エントランスも凝っているので『入店するところから世界観に浸ることができる』と人気です。また、自由が丘店は西海岸をイメージし、明るい雰囲気にしています」(武田氏)

会員は入会時に選んだ所属店舗に通うことが前提で、他店舗を利用する場合は1203円(ウェブ経由のクレジットカード決済の場合は1000円)を支払う必要がある。

では、今、流行に敏感な多くの女性を惹きつけているというフィールサイクル、どのような体験なのだろうか。実際にレッスンを受けてみた。


銀座店の受付。受付業務もインストラクターが兼務する(筆者撮影)

ビルの地下にある店舗に入店すると、エントランスは照明が暗くムーディ。「運動」という健康的なイメージとは相反する。受付にいる男性はインストラクターでもあるそうで、お客であろう女性と親しそうに会話をしている。インストラクター自身が受付も務めることで、会員とコミュニケーションを深める意味もあるかもしれない。

専用のシューズを身に着け、レッスンスタジオへ。前方中央のインストラクタースペースに向かい、約50台のフィットネスバイクが隙間なく並ぶ。フィールサイクルならではの、圧倒される光景だ。


バイクのペダルに装着する専用シューズを使用する(筆者撮影)

インストラクターによると、まず正しい姿勢をとることが重要という。腰骨の高さにサドルをセットし、サドルに座ってから専用シューズで、足のつま先部分をペダルに固定する。正しいフォームでこぐためだ。これにより太もも裏のハムストリングスや内転筋が鍛えられ、ほどよく筋肉をつけることができる。

床にしたたり落ちるほどの汗をかく

体験レッスンで受けたのは、一番強度の低い、ボディバーンレベル1のクラスだ。とはいっても、45分休まず動き続けるので、床にしたたり落ちるほどの汗をかく。

なじみのない音楽ではあるが、音楽に合わせて体を動かすのはやはり心地いい。スポットライトのあたったインストラクター席に近いバイクを使ったため、真っ暗闇ではなく、少し明るめ。また、ビカビカと照明に照らされるので、「人に見られていない」という安心感はあまりない。

レッスンが佳境に入ると、なんといっているのか、インストラクターのかける英語の呼びかけに答え、周囲のバイクから「イエーイ」と声が上がる。正直なところ、とてもそこまで自意識を捨てることはできなかった。

ただ、ダンスを組み合わせた運動のような複雑な動きがない分、頭をからっぽにして、音楽に合わせ体を動かすことに集中できる。さらに周囲が暗闇であれば、集中力を高めてもくれるだろう。初心者でも、体を動かす気持ちよさを味わうことができた。あとで下半身を中心に強い筋肉痛が生じたため、とりあえず筋肉を使ってもいるのだろう。

ただし、やはり効果的にシェイプアップするためには、体を慣らす必要がありそうだ。

「数回通えば、フィットネスバイクにも慣れ、スムーズにレッスンに参加できるようになります。たとえば最初は肩に余計な力が入りがちなので、肩の力を抜いてリラックスしていただくよう、インストラクターから指示しています」(武田氏)

ちなみに、1回限定の初回トライアルレッスン料金は3611円(ウェブ経由のクレジットカード決済の場合は3000円)。

「ただ、フォームを意識しすぎると音楽が楽しめなくなってしまいます。自分を解放して、思い切りストレス発散できるから楽しい。楽しいから続く、続くから効果が出る、という側面が大きいと思います」(武田氏)

「ディズニーランド」のような非日常感

暗闇、そして人の肉体的な感覚に訴えかける音楽。これらでつくりあげる「世界観」が、フィールサイクルのもっとも大きな特徴と言えるだろう。世界観にうまく没頭することができれば、日常や自分を忘れて、楽しみながらシェイプアップもできる。

「店舗の内装から音楽、照明、インストラクターの存在まで含め、スペシャルなエンターテイメント空間をご提供したいと考えています。たとえるなら、おこがましいのですが、『ディズニーランド』のような異世界です」(武田氏)

フィールサイクルの世界観を、もっと大規模にしたものが、前述の「ラスター(LUSTER)」イベントだ。ラスターとは「キラキラした輝き」を意味する言葉で、フィールサイクルの宝石をかたどったロゴにも、その意味が込められている。本格的なライブ会場に360台のバイクを設置し、会場にふさわしい音響や照明に合わせ、映像も合わせて行われる。近々では第3回目となるラスターが、6月15日〜17日に開催される予定だ。一般からの申し込みも可能だが、会員で定員が埋まってしまう場合も多いとのことなので、興味があれば早めに申し込むとよいだろう。