パリでは珍しく感情を露に指揮を執ったジダン。この一戦にかける指揮官の強い気持ちが前面に出ていた。(C)Getty Images

写真拡大 (全2枚)

 2016年1月にレアル・マドリーの監督に就任して以来、マネジャーとしての手腕がクローズアップされてきたジネディーヌ・ジダンが、チャンピオンズ・リーグのパリ・サンジェルマン戦の第2レグで、戦術家としても優秀であることを実証した。

 戦略面に加え、この試合で光ったのが「名を捨てて実をとった」采配だ。今シーズンを左右するもっとも重要なゲームで、しかも相手はかつての自分たちの跡を辿るように、スター選手をかき集め、欧州の盟主の座をめざすパリSG。だからこそ、指揮官が選手とクラブの上層部に対して発したメッセージは、力強く明瞭に響いた。

 
 とりわけ特筆に値するのが、コンディションが万全でないトニ・クロース、ルカ・モドリッチを無理して起用せず、ネームバリューのあるイスコとガレス・ベイルを押し退けて、マテオ・コバチッチ、ルーカス・バスケス、マルコ・アセンシオの3選手を抜擢した決断だ。他にもケイラー・ナバス、ダニエル・カルバハル、カゼミーロ、ラファエル・ヴァランヌと、ゴージャスさとは無縁の、チームではバイプレーヤー格の面々がスタメンの大半を占めた。

 ジダン監督は就任以来、ことあるごとにBBC(ベイル、カリム・ベンゼマ、クリスチアーノ・ロナウドの3トップ)を擁護するコメントを残してきた。したがって、この試合でも、政治的判断を元に、BBCを筆頭としたこれまで通りのスタメンを用意したとしても不思議はなかった。

 しかし今シーズンの低迷が、彼の中で変化の必要性を呼び覚ましたのかもしれない。すでにリーガの優勝争いから脱落した段階でのリアクションは遅きに失した感もなくはないが、少なくともまだチャンピオンズ・リーグについては優勝の可能性が残されている。

 マドリーの監督として正念場を迎えていたまさにこのパリSG戦で、ジダンは選手たちを守るために強権を発動させた。もとより選手時代の威光も重なり、クラブのレジェンドとしてのカリスマ性、求心力の高さには定評があった。今冬の移籍市場でケパ・アリサバラガ(アスレティック・ビルバオGK)の獲得を断固拒否するなど、現有戦力を信じて戦っていこうとする姿勢は、そんなジダンの決意の表われであったはずだ。

 それは確固とした信念に基づいた現状分析により、パリSGとの決戦に向けて粛々とローテーションを導入しながら、チームの再構築を進めていた事実からも伺える。
 
 コパ・デル・レイで大失態(ベスト8で格下のレガネスに敗退)を演じた控え組の中からL・バスケスを救い出す一方で、昨年8月のバルセロナとのスーペルコパで鮮烈な輝きを放って以来、長く沈黙していたアセンシオを再登用。さらにこれまで以上に頻繁に休養を与えつつ、C・ロナウドの復活を待った。

 12月のクラシコでリオネル・メッシのマンマークという大役を与えた采配が、惨敗を招く原因だと強い批判を浴びたコバチッチに、カゼミーロのパートナー役という異なる役割を与え、ふたたび大一番で先発起用している。

 
 クロース、モドリッチというふたりの中盤の要を失う緊急事態に直面しても、あるいは先週末のリーガ・エスパニョーラ27節のアラベス戦でBBCが約2年ぶりに揃い踏みを果たしても、ジダンの信念はブレることがなかった。

 ちなみにL・バスケスとアセンシオの今シーズンの出場試合数は、チームでも上位にランクされる(ともに39試合で1位)。出場時間になると事情は大きく異なるが(アセンシオが13位、L・バスケスが14位)、そんなふたりを大一番に抜擢したのは決して偶然ではないはずだ。

 たしかに、金満溺れのパリSGの不甲斐なさに助けられた部分はあった。しかしこの日、マドリーが一丸となって攻守一体の高い組織力を示し、相手を圧倒できたのは、ジダンの確固たる覚悟を持った采配が、チームに乗り移ったからに他ならない。

 温和な人柄で、「動かない監督」のイメージが定着していたジダンが、今回はベンチ前を大胆に動き回り、喜びや怒りといった感情を、身体全体で表現することでチームを活性化させた。

“勝負師ジダン”は我々にとっては新たな発見だ。これは彼の中で、これまでの「マネジャー」としての側面に加え、戦術家としての潜在能力が覚醒している証左かもしれない。選手にとってもクラブにとっても、指揮官のこの変化は頼もしい限りだろう。

 ジダンの采配は、カネではすべてを解決できないフットボールという競技の本質を体現するものでもあった。パリSGは今回の経験を心に刻み、今後の教訓としていく必要がある。

文●ホセ・サマノ(エル・パイス/レアル・マドリー番記者)
翻訳:下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。