白バイ隊員を賄賂で買収。タクシー運転手が驚いたワケありな客
メルマガ『ジャンクハンター吉田の疑問だらけの道路交通法』の著者で交通ジャーナリストの吉田武さんが、現役タクシー運転手・Kさんに裏話や面白エピソードを聞く新連載シリーズ。初回は、タクシー運転手だったという吉田さんの父親の驚愕エピソードから始まり、Kさんが体験した暴力団と白バイの危ないエピソードまで、他のメディアでは決して読めない話を暴露しています。
● 【関連記事】タクシーの闇。「カード手数料は運転手が負担」の謎を聞いてみた
ベテランタクシー運転手が味わってきた様々な交通事案 その1
以前タクシー関連のネタをメルマガで披露した際、それ以降現役タクシードライバーの方々からお便りを多く頂くようになりました。その中でも「私みたいな年寄りドライバーで良ければ、メルマガのネタに少しでもおチカラになりたく」と連絡して下さったベテランのタクシー運転手Kさんに興味を抱き、取材時は63歳だったKさんから都内を流すタクシーの交通事案をベテランの観点から様々なエピソードを含め色々語って頂きました。
吉田:実は59歳で肺ガンで亡くなった父もタクシーの運転手をやっていたんですよ。
Kさん:そうなんですか。では尚更興味ありそうなネタを提供したいですね(笑)。どれぐらいの年数お父様はタクシーに乗られていたんですか?
吉田:ロバート・デ・ニーロが主演した映画『タクシードライバー』を観てタクシーの運転手になったので……それからガンで入院するまで乗ってましたから1976年〜1994年までですね。
Kさん:映画からの影響とは……凄いです!
吉田:父は僕が産まれるまで浅草にてヤクザの組長やってまして、オトシマエつけて足洗ってから『タクシードライバー』の映画と出会うまで今風な表現で言うとニートだったんですよ(苦笑)。他の職業に中々就けなかったっていうのもあったと思いますけどねぇ。
Kさん:昭和の時代は元ヤクザだった方々が転職先にタクシー運転手を選ぶことが多かったですからね。分かります。
吉田:しかし6年ぐらいニート生活して、母が働いて稼ぐという貧しいヒモ生活に子ども時代から疑問を感じていたんですけどね(笑)。他の幼稚園の友だちの家には昼間にはお父さんがいない……という壁にぶち当たってしまい、うちの父は仕事していないのではなかろうか? との謎が浮かび上がるも怖い父にはさすがに聞けなくて(苦笑)。
Kさん:あははは。吉田さんはお話も面白いんですね。
吉田:今考えてみると……父は間違いなく思想がヤバかったと思います。『タクシードライバー』の主人公トラヴィスに影響受けすぎちゃっていたので、本当にお客さんを運ぶだけの仕事で満足していたのかどうか怪しい! Kさんはタクシーの運転手になろうと思った理由は何ですか?
Kさん:私はバブル時代までサラリーマンをやっていたのですが、90年代に入ってから会社が傾いてしまい……具体的に言いますと、92年に若くして役員を務めていた会社が倒れてしまったこともあり、家族も抱えた状態で路頭に迷ったことから、毎月35万円以上は確実と言われていた今のタクシー会社で運転手になったんですね。
吉田:ということは25、6年ほどやっている感じなんですか。完全にKさんはベテランのドライバーです。
Kさん:私なんかよりももっと長くやっている先輩もいらっしゃいますけどね。ただ、私は吉田さんがフェイスブックで路上のパーキングメーターを59分まで料金を支払わないで活用できる法律の穴を見つけて発表したことに感銘を受けまして「この人は全警察関係者を敵に回して勇気ある方なんだなぁ」と対岸の火事的に見ていた最中に、同僚たちへ59分までパーキングメーターは無料で止められる話をしたら、公園のトイレに行っている間に駐禁切られたりした面々が結構いたことも分かり、会社内でパーキングメーター活用法が浸透しました。というわけで私にとっては吉田さんは英雄なんです。その勇気ある行動や行為は免許を所有して運転する者全てが讃えてますよ。
吉田:そんな褒められてもなんも出ないですからね(笑)。それよりもトイレ行っている間にも緑のオッサンたちは駐禁ステッカーをタクシーへも容赦なく貼り付けていくんですか?
Kさん:同僚たちからの情報を集めて総合すると、駐車監視員は暴力団系の車両以外には容赦なく駐車違反扱いにしてますよ。
吉田:常に路上を主戦場にしているタクシーの運転手ならではの、そういうネタが欲しいんです!
Kさん:確かにタクシーを配車されたと同時に、その日は道路と一体化して生活しているような形ですから、パトカーなんかよりも一番路上で起こっている出来事を目の当たりにしているのがタクシーだと思いますから、主戦場と言われて「なるほど」と納得してしまいました(笑)。タクシーに乗っていると休憩も車内で取らなきゃいけないですし、食事やトイレも含めてタクシーからなかなか離れることができないのだけが、唯一のストレスになっているかもしれません。
吉田:いや、Kさん。そんなことないと思いますよ。タチの悪いお客さんもたくさんいるわけじゃないですか。そういう方々もストレスになっていると思いますけどね(苦笑)。
Kさん:ああ、そうですね(笑)。タチの悪いお客さんは酔っ払い以外ですと……「警察に捕まったら反則金を支払ってやるから猛スピードで目的地まで到着してくれ」っていうお客さんが年に数人いらっしゃいます。
吉田:へー、そんなお客さんもいるんですね。
Kさん:一般道路では80kmぐらいの速度で走らされたり、高速道路では130km前後で走らされたりと恐怖でしかないですよ(苦笑)。
吉田:実際にお客さんの言いなりになってしまうKさんにも責任があるわけで、交通違反で捕まった場合には色々と問題が出てしまうんじゃないかと老婆心ながら心配になります。
Kさん:最初から飛ばしてしまうネタになってしまいますが、90年代末でしたか…いかにも暴力団風なお客さんが乗って来られまして、国道246沿いを速度100kmぐらいで日曜の午前中から走らさせられたんですね。その理由を伺うと、組長の再婚で披露宴へ参加しなくてはならないから信号無視してでも時間通りに間に合わせて欲しいと。
吉田:あちゃ〜。面倒なお客さんと遭遇しましたね。で、交通違反しまくってタクシーを走らせたってわけですか?
Kさん:ええ。日曜の午前中は車両も少ないし大丈夫だろうとの判断で。その暴力団風……いや、完全にヤクザな男性でしたが「スピード違反でも信号無視でも違反したカネは倍以上にして返してやるから安心しな!」とおっしゃるんです。
吉田:これまた強引で断れなさそうな台詞じゃないですか(笑)。
Kさん:そうなんですよぉ。そんなことまで言われてしまい、私としては選択肢がなくなっていき、乗車した瞬間から1万円のチップを渡してきたのもあったので……。
吉田:え? ちょっと待って下さい。そのヤクザなお客さんは運賃ではなくチップで1万円?
Kさん:はい。初っ端から1万円渡してきて「目的地にどんなやり方でもいいので早く到着させて欲しい」と。私としてはなんかワケありなんだろうなって思ったら組長の結婚式だったと(苦笑)。
吉田:組員としては確かに遅刻はできないので、どんなにお金を積んでも間に合わせて欲しかった気持ちも分かりますなぁ。
Kさん:三軒茶屋越えたあたりで白バイが追走してきて見事捕まったんです。
吉田:見事って……(苦笑)。
Kさん:こちらとしては白バイに捕まっている時間も大きなロスタイムなんですよ。その場所までに信号無視も3回ほどやってましたし、速度は確か……常時90km以上出ていたと思います。
吉田:信号無視までした意味が全くないという悲しさが溢れ出てますよ(笑)。
Kさん:それがですね、白バイ隊員は「信号無視もしたのを見たけども、お客さんのワケありで速度超過したとの判断でスピード違反だけでいいから」ってオマケしてくれたんです。
吉田:まぁ、お客さんを乗車させていたのを白バイ隊員もKさんを呼び止めた時点で確認してますからね。僕も父親から聞いてましたけど、お客さんを乗せている時に交通違反するとオマケしてくれることは多いそうですね。
Kさん:ええ、多いです。しかし、その代わりにお客さんを乗せてない時は容赦なく違反キップを切ってきますが……今回の件はまだ話の続きがあるんです。
吉田:246号線だと90年代末では最高速度50kmだったと思いますので、40kmオーバーなら赤キップで一発免停ですよね。それを29kmオーバーで青キップにしてもらったとか?
Kさん:全然違います。おそらく想像付かない結末だと思いますが、ヤクザなお客さんがタクシーから車外へ出て、白バイ隊員となにやら交渉し始めたんです。多分、結婚式に間に合わせないといけないからなどと説明していたと思うんですが、お客さんが指令して交通違反させたことを説明している感じもしました。
吉田:でも実際に運転していたKさんに責任の所在が最終的に行くわけで、お客さんが白バイ隊員へオマケしてくれるように交渉すること自体が大変珍しいですが……。
Kさん:お客さんは白バイ隊員とサシで路上で立ち話を3分ほどして戻ってきたんですが、なんのお咎めもなく白バイは走り去っていったんです。
吉田:ええええ!? ヤクザなお客さんは一体どんな裏ワザ使ったんですか?
Kさん:賄賂ですよ。白バイ隊員にお金を握らせたんですよ!
吉田:えええええ!? そんな簡単に賄賂で落とせるもんなんですか?
Kさん:お客さんいわく、現金で5万円を渡せば大抵大丈夫と言ってました。手馴れた感じで喋っていましたのでいつも賄賂で解決していたんじゃないでしょうかね。
吉田:凄いなぁ。ぶっちゃけ5万円がそのままその警察官の手に渡る……つまり臨時ボーナスが入るわけで、目の前に5万円見せられたら心が揺れ動きますよ。それと相手が白バイ隊員だからできるんでしょうね。
Kさん:それはどうしてですか?
吉田:パトカーだと相棒が一緒に乗っているから賄賂なんてことしたら2人分支払わねばならなかったり、2人いたらさすがに気まずいですからね。
Kさん:ああ、なるほど。お客さんも賄賂は基本白バイ乗っている警察官にしか行なってないような話をしていましたので吉田さんの推測は間違いないでしょうね。
吉田:大昔は駐禁なんかでも賄賂が通じていましたが、白バイ隊員を賄賂で回避したエピソードは初めて聞きました。僕的には良い話です(笑)。
Kさん:結局、お客さんは組長の結婚式に間に合いまして、さらなるボーナスで1万円貰ってしまい「交通違反のリスクを背負ってまで送り届けてくれたことに対する対価だ」と、合計2万円のチップ。お客さんとしては白バイ隊員へ賄賂で5万円、私へのチップで2万円、乗車運賃が8000円ぐらいでしたので8万円近く使ったことになりますね。相手が組長だからこそ必要経費だったっぽいですが、私にはヤクザな世界分かりません(苦笑)。
吉田:それよりもそのお客さんがもうちょっと朝早く起きて出かけていれば8万円近くの出費を抑えられたと思いますが(笑)。
<次回へ続く>
image by: Vassamon Anansukkasem / Shutterstock.com
MAG2 NEWS