うちの父ちゃん、メル・ギブソン「ブラッド・ファーザー」に見るバイオレンス親子愛

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今年は「おっさんが若い女のために逃げ回ったり戦ったりして体を張る映画」が大豊作。メル・ギブソン主演最新作『ブラッド・ファーザー』もそれに連なる一本だ。


歩く世界遺産、娘を守って大暴れ


最近はオレ流全開の監督業の印象も強いメル・ギブソン。6月24日には沖縄戦を題材にした監督作品『ハクソー・リッジ』の公開も控えているが、彼もすっかりおっさんとおじいさんの中間である。そんなメル・ギブソンが、バイクにまたがって荒野に帰ってきた!

ジョン・リンク(メル・ギブソン)は長い刑期を終えて出所してきた元犯罪者。アル中向けのグループセラビーに通いつつ、トレーラーハウスでタトゥーパーラーを開きながら荒れた生活を送っている。彼には一人娘のリディアがいたが、家庭は崩壊し数年前から娘は行方不明になっていた。

そんな彼の元に、いきなりリディアから電話がかかってくる! メキシコ系ギャングと付き合っていたリディアは罠にはめられ、当のギャングに向けて発砲。そのまま逃走していたのだ。いきなりの娘との再会に戸惑いつつ、アウトローの持つ人脈とスキルをフルに活かして娘を守ることを決意するリンク。かくして、荒野に血風吹きすさぶ死闘が始まる!

というわけで、ストーリーだけ聞くとローガン』かな……という感じではあるのだけど、とにかくメル・ギブソンの顔の力が凄すぎて、ガタガタ言う気には到底ならない。縦横に深いシワが刻まれ、長年の風雨にさらされてカピカピな彼の顔面はまるで縄文杉。歩く世界遺産である。

対するメキシコ系ギャングのボンボンを演じているのがディエゴ・ルナ。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で反乱軍の工作員を演じていた人だけど、これがまたツルッとしたイケメン。しかもチャラい上に外道という平松伸二の漫画みたいな奴で、やっぱりこういう映画の悪役はこうでなくてはいけない。チャラいナンパ野郎が材木みたいなおっさんにぶちのめされるのが嫌いな人間はいないのである(断言)。

メルギブネタの連打に君は耐えられるか


しかし驚いたのは、メル・ギブソンがらみのメタネタの量である。まず冒頭、いきなりメル・ギブソンがアル中向けのグループセラピーに通っているところでゲラゲラ笑ってしまった(メル・ギブソンは2006年に運転中の飲酒運転とスピード違反で逮捕され、またその時に完全にアウトなユダヤ人差別発言をしたことでいろんな人からハチャメチャに怒られた)。

だが、この映画のメルギブネタはそんなものではすまない。住んでるトレーラーハウスがギャングに襲撃されて蜂の巣になるのは『リーサル・ウェポン2』だし、水平二連のショットガンを振り回して悪いバイカーの集団と戦うのは言わずと知れた『マッドマックス』だ。しかも今回メル・ギブソンが乗っているのはインターセプターではなくハーレー。ほとんどマックス・ロカタンスキーとT-800の合体超人である。勝てるわけがない。

よくもまあこんなメタネタまみれの映画に出たなメル・ギブソン……と思うけど、彼本人の毀誉褒貶が激しすぎるキャリアがこの映画になんとも言えない深みをもたらしているのは否定できない。というか、そもそも「めちゃくちゃな前科のあるアル中のアウトロー」という役柄自体、メル・ギブソンを当て込んで設定したのではなかろうか。そのくらい『ブラッド・ファーザー』における彼は役柄にはまっているのだ。

という映画なのでメル・ギブソンに思い入れがあれば「うわ! メルギブがアル中!」と喜ぶことができるけど、不器用なアウトローの父親が娘のために頑張る話としても普通に秀逸。メル・ギブソン演じるリンクは綺麗事を言わず、情報蒐集もムショにいる仲間のギャングに頼み武器弾薬も必要があれば強奪するような男だけど、とにかく一貫して娘を守るのを目的に行動するので見ていて爽快感がある。『96時間』とか『コマンドー』みたいな作品に連なる内容と言えなくもない。

そんなわけで、メル・ギブソンのオタクでもそうじゃなくても楽しめる一作である。メル・ギブソンの大暴れを久しぶりに堪能できる作品なので、往年のアクション映画ファンにも強くおすすめしたい。
(しげる)