東京には、江戸や明治、大正時代から続く老舗のお店がたくさんあります。長く続くには、やはりそれなりの理由がある……ということで、今回は大正6年に創業し、今も銀座の一角にある画材店のエピソードから、「成功するコツ」を学んでみたいと思います。


与謝野夫妻も愛した、銀座の小さな画材店「月光荘」



東京・銀座のメインストリートである中央通りと交差する「花椿通り」。
通り沿いのビルに、小さな画材店があるのをご存知でしょうか。
名前は「月光荘」。「月光荘画材店」として、大正6年に創業されたお店です。

このお店の創業者は、橋本兵藏という人。
富山の自然の中で育った兵藏は、虹を見るのが大好きな少年でした。
いつか虹を渡ってみたい、と先生に語っていた兵藏は、青年になり上京することになります。
住み込みで働いていた彼の向かいに住んでいた夫婦、それは与謝野鉄幹・晶子夫妻でした。

与謝野夫妻に大変可愛がられた兵藏。
2人と懇意にするうち、多くの文人や役者、そして画家たちと知り合うことになります。
そして彼の人柄か、その偉大な芸術家たちからも可愛がられ、こう助言されるのです。
「君は色に対しての憧れがあるし、いい感覚と感性があるから、ひとつ色彩に関係する仕事をしてみてはどうだろう」

兵藏は「この先生たちのお役に少しでも立ちたい」と画材商になる決意を固めました。
外国からの絵の具の輸入をはじめ、コツコツとお金を貯めていったのです。
そして大正6年。新宿に最初の画材店はオープンしました。
開店のお祝いに、与謝野晶子が詠んでくれた句がこちらです。

「大空の 月の中より君来しや ひるも光りぬ 夜も光りぬ」

あなたは月のように、昼も夜も周りを照らしている……。
この一句から付けられた名前が「月光荘」。
彼女たちがどれほど兵藏を愛していたかがわかります。

このときの恩を生涯忘れぬようにと、兵藏は自らを「月光荘おやじ」と名乗るように。
郵便物もすべて、「月光荘おやじ」「月光荘おじさん」で届くようになったのだそうです。

開店後、お店は文化人が集うサロンのような存在に。
画家たちの色のリクエストに応え、日本初の純国産のコバルトブルー絵の具や、「月光荘ピンク」と呼ばれる絵の具を発明しました。
東京大空襲により焼失しましたが、その後、銀座でまた一からスタート。
今でも老舗の画材店として特別な存在感を誇っています。

虹に憧れた少年が、色を届ける仕事に一生を捧げた物語。
そして、それを支えた多くの芸術家たち……。
銀座に行った際は、そんなストーリーを胸に、月光荘に寄ってみてはいかがでしょうか。

文/岡本清香

TOKYO FM「シンクロのシティ」にて毎日お送りしているコーナー「トウキョウハナコマチ」。江戸から現代まで、東京の土地の歴史にまつわる数々のエピソードをご紹介しています。今回の読み物は「与謝野夫妻も愛した、銀座の小さな画材店」として、10月11日に放送しました。

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