国の目標は「ニイマルサンマル」

「2030」

この数字は何をあらわしていると思いますか? きっと「西暦2030年」を指していると答える人がほとんどでしょう。実はこれ、「ニセンサンジュウ」ではなく「ニイマルサンマル」と読み、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という政府の目標をあらわしているのです。
 
安倍首相が「女性が輝く社会」を掲げていることは、ニュースでもよく報道されていますが、「女性管理職」について具体的な目標値が設定されていることはあまり知られていないでしょう。

「管理職につきたい」はわずか7%

実際に昨年9月に発表された電通総研の調査によると「2030」について知っていたという女性は44.5%と全体の半分以下。働く女性にとっては関心度の高い問題であるはずの「管理職登用」。にもかかわらず、ここまで認知度が低いのはなぜなのでしょうか?

実は同調査では、働いている女性のなかで「管理職」につきたいと思う女性がわずか7.4%しかいないということがわかりました。一方、「管理職にならなくてよい」(35.2%)と「管理職になりたくない」(57.4%)と答えた「非管理職志向」の女性は全体の92.6%にも及びます。

「働き続けたいが、管理職にはつきたくない」という本音

しかし女性に労働意欲がないのかといえばそうではありません。同じ調査では、現在も働いている女性のうち50.7%が「今後も働きたい」とし、また現在働いていない女性も28.1%が「今後働きたい」という意向を持っていることがわかりました。
 
これらのことから、政府の掲げる目標とは裏腹に、当の女性は「働き続けたいけれど、管理職は望んでいない」と考えていることが読み取れます。これでは誰のための「目標」なのかわかりません。

男性は6割が“出世”を希望

なぜ、女性は管理職になることを求めていないのでしょうか。
厚生労働省による平成24(2012)年の「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」をみると、男性の一般従業員の59.8%が「課長以上昇進希望あり」と回答。対する女性はわずか10.9%となっています。

そこで「昇進を望まない理由」を回答してもらったところ、「仕事と家庭の両立が困難になる」(男性17.4%・女性40%)、「まわりに同性の管理職がいない」(男性0.3%・女性24.0%)、「自分の雇用管理区分では昇進可能性がない」(男性6.2%・女性23.1%)との回答は男性よりも女性が圧倒的に高くなっています。ここに女性の方が男性よりも「昇進」を望まない理由があるのは明らかです。

管理職につける人の条件とは

そもそも、日本の企業はどんな基準で「管理職」にふさわしい人材を選んでいるのでしょう?

「平成25(2013)年度雇用機会均等基本調査」で、女性管理職が少ないまたはまったくいない企業に、その理由を聞いたところ、3番目に多かった「管理職につくための在籍日数を満たしていない」が19%。4番目が「勤続年数が短く、管理職になるまでに退職するため」で16.2%と続きます。

「平成24年賃金構造基本統計調査」によると平成24年の平均勤続年数は男性で13.2年、女性で8.9年。実際に女性の勤続年数は男性よりも短いことがわかります。勤続年数が短い理由のひとつには、「育児・出産のため」に多くの女性が退職してしまうことが挙げられます。先ほどの厚生労働省の調査では、出産・育児により仕事を退職した女性は全体の6割にのぼり、そのうちの26%が「(仕事と出産・育児の)両立が難しかったので辞めた」としています。「両立が難しかった」とする具体的な理由としては「勤務時間が合いそうになかった(合わなかった)」が65.4%を占めています。

女性が出世しない「不都合な理由」

また、経済や投資に詳しい作家の橘玲氏は「女性管理職の割合が上昇しない不都合な理由」と題した記事において以下のように書いています。

「経済学者の研究によれば、男女格差の要因として『週49時間以上働いているか』を加えると、日本企業の行動をきわめてうまく説明できます。さらに女性が長時間労働した場合、昇進率が大きく伸びることもわかっています。日本の会社は性差別というよりも、労働時間によって管理職への登用を決めているのです」(『週刊プレイボーイ』2014年9月22日発売号より引用)

家庭との両立を考えれば、女性が男性と同じように勤務時間外労働をできないのは当然のこと。「勤続年数」と「労働時間」。企業が「管理職」にふさわしいとする人材の要素のうち、この2 つを女性がクリアすることは現状では非常に難しいのです。

「2030」をすでに達成している欧米

平成25年の日本の「女性管理職割合」は6.6%。目標の30%までほど遠く、あまりにも現実味がない数字に思えてきます。しかしご存知のように、アメリカの「女性管理職割合」は43.1%、フランスでは39.4%であるように、実現している国々はあります。こうした国々の企業では女性管理職を育成するための教育に力を入れる、フレキシブルな労働時間や自宅勤務の選択を可能する、働く女性がおたがいに情報交換や相談をできる機会を設ける、などさまざまな取り組みが行われています。

まだ日本の企業ではそういった「女性管理職を増やすため」の土台ができあがっていないのです。この状況で、はたして女性が「管理職になりたい」と思えるのでしょうか? 

「管理職を望まない」と答えた女性のうちの30.3%が「女性の管理職を増やすには、男性の意識改革が必要だ」と回答しています。(前述の電通総研の調査による)「2030」を達成するのには、まず男性と企業の理解が何よりも必要なのです。

(安仲ばん)