顧客満足向上が受注やリピートに繋がらないワケ(4) 【連載サービスサイエンス:第12回】/松井 拓己
「顧客満足で、経営に貢献する成果を出す」というテーマで進めてきました。これまでに、顧客満足の定義から始まり、CSとリピートの相関関係を少しロジカルにひも解いてみると、顧客満足向上で成果を出すための取り組みの盲点が浮かび上がってきました。そこで今回は、顧客満足度調査の結果を、サービスやCSの向上に活かすために、「やや満足」のお客様に「大満足」していただくための議論の仕方について触れてみたいと思います。
顧客満足度調査の結果を活用して、「やや満足のお客様に大満足していただくためにはどうしたら良いか?」について、いざ議論してみると極めて重要な情報がないことに気付きます。それは、「やや満足(4点)と答えたお客様は誰か?」という情報です。しかもここでは、ただ単にお客様の名前や企業名が分かっても意味がありません。ではどんな情報が必要なのかでしょうか?
お客様も平均してしまっている?
お客様は実に様々。しかし顧客満足度調査では、お客様を「顧客」ということばで十把一絡げにして分析してしまってはいないでしょうか。本当にそれで良いのでしょうか?
・初めての利用で不安を感じているお客様と、何度もリピートしていてサービスに慣れているお客様。
・急いでいて迅速に対応してほしいお客様と、時間に余裕があるのでじっくり相談したいお客様。
・できるだけ安価がいいお客様と、納得できれば高価でもいいお客様。
少し考えただけでも様々なお客様がいます。このお客様全てを「顧客」の一言でまとめて分析してしまうと、価値ある情報が埋もれてしまいます。それは、「やや満足(4点)と答えたお客様」が、どんな事前期待を持ったお客様なのかという情報です。お客様の満たされていない事前期待が掴めれば、お客様に大満足していただくために明日から何に努力するべきなのかは明快です。つまり、お客様を十把一絡げにしたり、自社の代表的なお客様像で議論や分析をするのはあまり得策とは言えます。お客様に関する情報として、名前やプロフィールだけでなく、事前期待に関する情報を掴んで、事前期待のタイプでお客様を分けて分析できると、極めて効果的な顧客満足度調査が進められそうです。
また、フリーコメントの分析は、色んなお客様を十把一絡げにして「どのコメントが多いか」の統計や相関を分析するよりも、どういう事前期待を持ったお客様なのかを意識して分析する方が効果的です。例えば、「サービス提供が遅かった」というコメントも、急いで利用したいお客様と、じっくり利用したいお客様とでは、そのコメントの重みや意味合いが変わってきます。同様に、「スタッフの対応が不親切だった」というコメントも、サービスの利用になれているお客様と、サービスの利用に不安があるお客様とでは、解釈や改善の仕方が変わってきそうです。
このように、顧客満足度調査は、結果やお客様を平均化してしまうところに盲点が生まれることが分かりました。やはり顧客満足の本質は「お客様の事前期待」にあります。お客様の事前期待を掴み、それに応えるにはどうしたら良いのか。その努力のポイントを明確にできるような顧客満足調査を進めることが重要なのです。
今回は4回にわたり、経営貢献に直結する成果を出すためのCS向上の取り組み方について整理してみました。今の時代、お客様から高い評価を得て、選ばれ続けることができなければ、この厳しいビジネス環境を勝ち抜いていくことはできません。そのためにも、本気になって顧客満足の向上に取り組み、強力に経営貢献に結び付けなければなりません。「顧客満足なんて絵に描いた餅」「CSが向上しても業績アップには繋がらない」「忙しいからCSは後回し」こんな状況から脱却して、会社や事業の成長の成長エンジンとして「顧客満足」に本気になって取り組むために、サービスサイエンスの考え方が少しでもお役に立てれば嬉しいです。