真の顧客志向を体現する方法(3) 【連載サービスサイエンス:第8回】/松井 拓己
これまで見てきたように、サービス向上や顧客満足向上に苦戦している企業は、いろいろなお客様がいるにもかかわらず、それをすべて十把一絡げにして「お客様」の一言で済ませてしまっていることが多いようです。サービスはお客様と一緒に作るものです。お客様の定義が曖昧では、取り組みがうまくいかないのは当然と言えます。
とはいえ、様々なお客様を具体的にどう定義したらよういのでしょうか。本連載では前回までに、「重要な事前期待の違いに着目して、お客様のタイプを定義する」方法についてサービスサイエンスの理論を交えて説明しました。
その効果は極めて大きいのですが、特に法人向けサービスに関わる方の中には、自社ではどう活用したらよいのだろうかと悩んでしまう方がいるかもしれません。お客様が法人なので、具体的に誰を対象にしたら良いのか悩んでしまうのです。こんな時には「ステークホルダー」を整理することが効果的です。
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「お客様」のステークホルダーを整理する
法人向けサービスの場合、目の前のお客様が満足してくれたのに契約やリピートに至らなくて悔しい思いをした、という経験をしたことのある方は多いのではないでしょうか。こんなときサービスサイエンスでは、事前期待でお客様を定義する前に、ステークホルダーを整理します。そして、どのステークホルダーへの対応を磨き上げることに価値があるのかを明確にします。
顧客企業の中でも色んな人が関わってくるので、「お客様を定義しましょう」と言われても、単純にはできません。
法人営業の場合、ステークホルダーは、例えば次のように整理できそうです。
・打ち合わせでお会いする対応担当者
・対応担当者の上司であり、発注やリピートオーダーの可否を決める意思決定者
・実際に提供したサービスを企業内で利用することになるサービス利用者
さらには、顧客企業のお客様も大切なステークホルダーかもしれません。
このように、顧客企業の中には様々なステークホルダーが存在します。これらを「お客様」の一言でまとめてしまっては、効果的な議論や取り組みはできません。だからこそ法人営業においてはステークホルダーを整理して、重要なステークホルダーをはっきりさせる必要があるのです。
今まで気づいていなかった事前期待が見つかる
重要なステークホルダーが明確になれば、「事前期待でお客様を定義する」ための議論を比較的容易に進めることができます。また、ステークホルダーを整理すると、目の前のお客様しか意識できていなかったときには分からなかったお客様の事前期待が見えてくることがあります。
例えばお客様は、打ち合わせの後に意思決定者にその内容を報告しなければならないかもしれません。このお客様は、意思決定者にうまく報告できるか不安を感じているとしたら。お客様の「意思決定者への報告もサポートしてほしい」という事前期待が見えてきます。そうだと分かれば、報告の役に立つ資料を作成して渡したり、簡単なデモの機会を設けたりと、気の利くサービスを提供するチャンスはいくらでも見つけられそうです。このように、ステークホルダーを整理することで、今までよりはるかに実効力のある取り組みが可能になります。
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BtoCサービスでも大切な「ステークホルダー」
実はこれはBtoCサービスにも効果的です。例えば、家や車などの高価なモノを販売するとき、旅行や結婚式など複数の人たちに向けてサービスを提供するとき、介護や保育などサービスの利用者と購入者が異なるときなどがそれに当たります。
お客様を1人に特定できないタイプのサービスはたくさんあります。この手のサービスでは、法人向けサービス同様に、目の前のお客様が満足してくれたのに購買やリピートに至らず苦戦することがよくあります。そんなときは、ステークホルダーの整理を実施してみる価値があるかもしれません。
例えば、高額な商品やサービスの購入を考えているお客様が相談に来られたとします。ステークホルダーを整理してみると次のようになります。
・相談に来られたのはご主人様
・本当の意思決定者は、家にいる奥様
・その奥様が一番気にしているのはペットのこと
・費用を負担してくれるスポンサーはご両親
この場合、親身になって目の前のお客様(ご主人様)の相談に乗っても、家に帰って意思決定者である奥様にうまく説明できなければ意味がありません。また、お渡しした資料が、目の前のお客様だけでなく、奥様の関心事項にもマッチしていなければなりません。目の前のお客様がその気になるだけでなく、お会いしていない意思決定者である奥様にも「私も話を聞いてみたい」「サービスを受けてみたい」という気持ちになってもらうことが必要なのです。
もったいない失点をなくそう
ステークホルダーを意識することは、普段からできているようで、実はなかなかうまくできていないものです。ステークホルダーを意識していないばかりにもったいない失点をしてしまっているケースは多々あります。
・目の前のお客様への対応に必死になって、待っているお客様への配慮ができていない。
・自分の担当のお客様への対応に集中するあまり、他のスタッフが担当するお客様には挨拶すらしない。
これではお客様を失ってしまいます。サービスでは、ステークホルダーは誰なのかをはっきりさせて、もったいない失点をなくし、得点のチャンスを掴んでいかなければ、お客様に選ばれ続けることはできないのです。
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