チームビルディングシリーズ:安全な場3 「コミュニケーションの87%は見えていること」/斉藤 秀樹
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◆「安全な場」創りには表現(言葉、表情、行動、態度、姿勢)力が必要
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管理職の皆さん。あなたが居ることでチームの雰囲気は明るくなっていますか?
それとも重苦しくなっていますか?
そのことがチームのパフォーマンスにどれほどの影響を与えているか自覚していますか?
コミュニケーションの改善というとどうしても言葉(内容)や言葉使い、
話し方、会話頻度などが注目されます。
確かにそれらも重要な要素の一つではあります。ただ、私たちが明確に
認識しなければならないことはコミュニケーションにとって
「見えている印象」が最も大きな影響を持つことです。
下記は人間が外界の情報収集に占める五感の割合を表したものです。
視覚 87%
聴覚 7%
触覚 3%
嗅覚 2%
味覚 1%
【人間の五感の割合】
ここからも読み取れるように視覚情報が圧倒的です。
それにも拘わらず、表情や態度など「どう見えているか」に無頓着な方が
大半です。これではコミュニケーションのトラブルが減るはずがありません。
例えば、本人にそんな気がなくても「不機嫌そうに見える上司」は
「俺は不機嫌だ。近寄るな!」というメッセージを発しているのです。
長年付き合いがあり気心が知れた同僚なら、そんな状態でも話しかけられる
でしょう。しかし、新人や関係性の浅い部下なら、容易に近づくことが
できなくなるのは当然です。
これは冗談ではなく、机に鏡を置いて定期的に自分の表情をチェックして
みてください。客観的にどう見えるのか。気づくことも多いと思います。
このように私たちは自覚のないままに「不安な場(安全な場の反対)」を
創ることに貢献しているのです。もちろん、リーダーだけではなく、
メンバーも同様です。
この表現という表情、行動、態度、姿勢、言葉のすべてを基本からしっかり
立て直さなければ、どんなにコミュニケーションスキルを学んでも現実は
変わりません。
そこで、お勧めしている取組が「ハートビーイング」です。
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◆ハートビーイング
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ハートビーイングとは、私達チームにとっての「好ましい表現
(以降、ポジティブ)」「好ましくない表現(以降、ネガティブ)」として
鮮明化した上で、全員が「好ましい表現」を心がけ実践する取組です。
この取り組みが定着すればチームの雰囲気は明るく活気あるものに変化していきます。
1)まず、個々のメンバー(リーダーも含む)に「ポジティブ」と
「ネガティブ」をできる限りたくさん書き出してもらいます。
ポジティブとは例えば「使いたい言葉」「言われたい言葉」
「最近、言われてモチベーションが上がった言葉」「してあげたいこと」
「されて嬉しいこと」などを列記していきます。
ネガティブはその逆の表現です。
2)次に大きな模造紙などを用意します。
そこに大きなハートマークをできれば太い赤マジックで書き込みます。
それができたら皆が書き出した表現を転記します。
転記はハートの中に「ポジティブ」ハートの外に「ネガティブ」を
書き写していきます。
これで完成です。とても簡単ですね。重要なのはここからです。
できたハートを見てください。そして自分に問いかけて欲しいのです。
・自分が1日を通じてハートの内側(ハートの内側の表現)なのは
何パーセントか
・自分はハートの内側の表現を積極的に行っているか
・過去に何らかのトラブルがあったときハートの内側に居たか、
それとも外側に居たか
・自分はハートの内側で居たいか、それとも外側で居たいか
この問いかけをしっかり受け止めて、可能な限りハートの内側で居ることを
決意してほしいのです。
特にリーダーのチームに与える影響は自身が考えるよりも、とても大きいものです。
ですから、本気で決意してほしいのです。
そして、このハートを全員が見えるところに貼り出し、毎朝、全員がハートの
中で活動することを約束して仕事を始めます。
もっと積極的に取り組んでいただけるなら、ハートの中の言葉や表現を
1つ選んで、今日特に積極的に取り組むこととして宣言しても良いですね。
例えば「私は今日、ありがとうを100回言います!」
「私は頬の筋肉が痛くなるくらい笑顔を心がけます!」と。
このように形から入ることもとても重要です。
「笑顔」や「ありがとう」が溢れるチーム。
考えただけで嬉しくなりませんか。
そしてこの取り組みの先にはもっと大きなご利益があるのです。
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◆「ハートビーイング」の持つ本当の意味
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この取り組みの背景となっている心理学の重要な2つの原則について
お話しします。
【原則1】
人間は基本的欲求が「満たされる」ことでモチベーションは高まり、
「阻害」されることでモチベーションは低下する。
【原則2】
人間は基本的欲求をより満たしてくれる人に「好意」(信頼関係の源泉)を
持つようになり、「貢献欲求」が高まる。
人間のモチベーションはとても複雑な要因によって変化すると考えられて
います。しかし私たちが活用する内的心理学の考え方はとてもシンプルな
ものです。
この2つの原則を理解し、実践すればすべての人間関係とチームの状態は
劇的に良くなっていきます。
では、この2つの原則を理解するために内的心理学の中心となる
「基本的欲求」について簡単にお話していきます。
基本的欲求は「身体的欲求」と「心理的欲求」に大別されます。
「身体的欲求」は食物や空気、水の摂取によって満たされる生存に必須となる
身体的な欲求を指しています。
「身体的欲求」は満たさなければ生命を維持することはできません。
この欲求を満たすことは、生物の行動動機(モチベーションの源泉)として
最も基本的なものです。
そして、もう一つの「心理的欲求」が今回のテーマになるものです。
「心理的欲求」は
「ありのままの自分として必要とされることで満たされる『愛所属』」
「自分の行動や成果、自己価値が認められることで満たされる『力、価値』」
「自分の意思によって自由に選択できることで満たされる『自由』」
「楽しみや好奇心、成長実感などを得ることで満たされる『楽しみ』
の4つの欲求から構成されています。
そして、これらの心理的欲求は身体的欲求と同じように、満たさなければ
生きていけないほど強いものなのです。
極論ですが私たちはこの欲求を満たすために行動(を選択)していると
言っても過言ではないのです。
ここでもう一度原則を確認しましょう。
原則1
「人間は基本的欲求が「満たされる」ことでモチベーションは高まり、
「阻害」されることでモチベーションは低下する」
でした。
この原則から、モチベーションが高くなるチームには「必要とされる」
「認められる」「意志と自由が尊重される」「楽しく、成長できる」があり、
逆にモチベーションが低くなるチームには「自分が必要とされている実感が
無い」「求められている実感がない」「自由裁量がなく、命令に従うばかり」
「笑顔が無く、成長実感もない」と言うことができます。
さて、皆さんの職場やチームはどうでしょうか。
そして「安全な場」の非難否定がないという要件に加えて、この4つの欲求が
満たせることで「安全な場」がより大きな力を発揮していきます。
さて、リーダーの皆さんにとってはもう一つの原則がとても重要な意味を
もっています。
原則2
「人間は基本的欲求をより満たしてくれる人に「好意」(信頼関係の源泉)を
持つようになり、貢献欲求が高まる」
基本的欲求とは原則1同様です。
つまり、「必要としてくれる人」「認めてくれる人」
「意志と自由が尊重する人」「楽しく、一緒に成長できる人」に私たちは
好意を持ちます。
更に、好意が深まり信頼関係となることで、その人に貢献したい、
その人の役に立ちたいという気持ちが生まれるということを意味しています。
(続きは次回、第4話でお話ししていきます。楽しみにお待ちください)