HRレビュー 編集部 / 株式会社ビズリーチ

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就活「後ろ倒し」は失敗

率直にいうと、2016年度新卒採用(以下、16採用)は、日本経団連の「指針」により採用活動(=就職活動)の時期が大幅に「後ろ倒し」になったことで、学生も企業も負荷が増え、混乱が生じ、一言でいえば「失敗」であったと思います。「採用活動後ろ倒し」の目的である「学業に専念する十分な時間を確保する」についてはもっともな内容だと思いますが、それが達成されたとは言いがたく、多くの関係者が改善を望んでいます。

論語にも「過(あやま)ちて改めざる、是を過ちという」(過ちは誰でも犯すが、本当の過ちは、過ちと知っていながら悔い改めないことである)とあります。起こったことをきちんと反省し、変えるべきことはできるだけ早く変えることが重要であると思いますので、この場を借りて振り返りを述べてみたいと思います。

結局、学生は勉強していない

そもそも、学生は「後ろ倒し」によって勉強するようになったのでしょうか。私が新卒採用のコンサルティングをしてきたなかで、直接学生の皆さんから聞いた限りでは、「後ろ倒し」によりできたはずの余剰時間は、学業には注ぎ込まれていないようです。むしろ「後ろ倒し」によって倍増した、企業でのインターンシップや(何人もの大学生から2桁以上の企業のインターンシップに参加したという話を聞きました)、相変わらずの課外活動に費やされたりしているようです。

大学生が勉強しないのは就活のせいではなく、もっとほかに原因があるのではないでしょうか。企業は学業を阻害しない採用活動をすべしという「指針」に文句はありませんが、正直、就活は学業問題の主要因ではないことが今回でわかったのではないかと思います。

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学生間の「就活格差」が助長された

「後ろ倒し」によって浮き彫りになった、より本質的な問題として、学生間の「就活格差」増大が挙げられます。端的にいえば「成績上位校」「理系」「体育会」「エンジニア」等、企業が欲しがる属性の学生とそうでない学生の間の格差です。15年度までは、企業の採用活動は「就職ナビ」が作ったオープンなマーケットで行われるようになってきており、水面下での採用活動は減ってきていました。その結果、「どんな企業でも受けたければ受けられる」世の中が実現しつつありました。しかし16採用では、「指針」の影響を受けない外資やメガベンチャーに対抗するため、日系大手はリクルーター制やインターンシップ等による事前の「水面下」採用活動に注力しました。

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水面下での採用活動はインフォーマルかつ手間がかかるために、社員の学生時代の後輩等、コネクションがある学生を中心に展開され、その結果、事前の「水面下」採用活動の対象になる学生と、まったくアプローチされない学生との間で「就活格差」が生じたように思います。アプローチされない学生からすれば、志望企業の採用枠が知らぬ間に埋まっていくわけです。募集情報のオープン化によって「どんな企業でも受けたければ受けられる」世の中になった副作用として、大企業の競争倍率が100倍以上になるなどの「非効率性」は以前から指摘されていました。それはそれで解決しなければならない問題ではありますが、それが先祖返りして水面下の採用活動などでクローズ化することによって実現するというのは本末転倒だと思います。

売り手市場なのに就職できない可能性が増えた

16採用は景気の上昇もあり、いわゆる「売り手市場」です。つまり、学生は楽に就職できるはずでした。ところが、そう簡単にいかない状況になっています。というのも、15年度まではまず大手企業、続いて中小企業という順番で採用活動が行われており、学生は大手が終わった後に中小を受けるということができました。ところが16年度は、大手の採用が(表面的には)8月まで終わらないため、それまで学生は大手の説明会など、採用イベントに張り付き、中小にはあまり目を向けませんでした。その結果、8月に大手の採用活動がようやく終わって、まさに今、中小への就活をしているという人が多いのです。

15年度以前なら大手が終わった5月〜12月(8カ月)の間に中小への就活が可能でしたが、16年度以後は9月〜12月(4カ月)と半分の期間で就活せざるをえず、活動期間が短期化したことで「求人はあるのにマッチングしない」という可能性も出てきています(人材ビジネス業界を挙げてマッチングサポートしているため、杞憂に終わるかもしれませんが)。少なくとも中小と学生は迷惑を被ったといえるでしょう。

時期制限ではなく、より本質的な解決策を

以上、まだ16採用の途中ではあるのですが、現時点で見えてきたことを整理してみました。要は「採用活動後ろ倒し」、言い換えれば「採用活動の時期制限」は効果がないどころかさまざまな悪影響があったといえるということです。では、どうすればよいでしょうか。単純に時期を元に戻せばよいかというとそういうことでもないでしょう。結局、採用活動の時期制限に法的拘束力でもない限り、大手は水面下で活動するだけだということがわかりました。いっそのこと「学業を阻害しない」という目的だけを残して、時期条項は撤廃してしまってはどうかと思います。ただし、もちろんそれだけで新卒採用の問題点がすべて解決されるわけではありませんので、より本質的な解決策が必要です。

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著者プロフィール: 曽和 利光 氏

リクルート、ライフネット生命、オープンハウスと、業界も成長フェーズも異なる3社の人事を経験。現在は人事業務のコンサルティング、アウトソーシングを請け負う株式会社人材研究所の代表を務める。

編集:雨宮秀樹(HRレビュー編集部)

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