【変革を科学する#11】変革の増幅ループ/森川 大作
ところが、ある一人の日本人が開発した「魔法のバケツ」のおかげで、かつてはごみで溢れていた町が数年でごみが消えつつあるという画期的な変革を成し遂げています。このバケツは、ジェイペック若松環境研究所の高倉弘二さんが開発したもので、大豆を発酵させるテンペ菌を使い、早ければわずか1日でゴミを分解し堆肥にしてしまいます。映像で見ましたが、たった一晩でバナナの皮なんか、姿形もなくなります。いくら分解すると言っても、驚異的なスピード!
結局2万世帯にこの「魔法のバケツ」は普及し、スラバヤ市ではゴミの量が20%も削減されたそうです。この種の技術革新そのものに驚かされますが、このストーリーの中で、感心したのがその変革普及のメカニズムです。
優れた技術がありますよ。試してみましょう!・・・すごい!わたしも、わたしも・・・。と単純に普及したのでは、町全体が数年でクリーンになる驚異的な変革スピードは実現できなかったでしょう。スラバヤ市には、変革を普及させる3つの仕掛けがあったように思います。
1. バケツは無料配布だが、市はごみ処理費用を考えれば3年でもとが取れると試算
2. 分解後の堆肥を市が有償で買い取る
3. 分解後の堆肥によりグリーン化が進む
です。そこには変革者、被変革者(参加者)、そして変革社会の3者に利益がもたらされる仕掛けがあったわけです。変革が通常のスピードを超えて普及するには、直線的な変革ではなく、ループを描きながら増幅するような変革の仕方をしなければなりません。これを「変革の増幅ループ」と呼んでいます。
よく、ループやサイクルを描くとき、ぐるっと繋げるために、最後のプロセスがいとも簡単に最初のプロセスに繋がっていく絵を見ることがあります。仕組みとしては立派ですが、持続可能な増幅のためには、変革者、被変革者、そして変革社会の3者に利益がもたらされる仕掛けがないと、すぐに火が消えるか、変革が遅々として進まないということになってしまいます。スラバヤ市の例は、変革の増幅ループを見事に実現した例だと思います。環境問題にせよ、企業の変革にせよ、この3者のどれかが途切れてしまっていないかどうか考えてみましょう。