真の顧客志向を体現する方法(2) 【連載サービスサイエンス:第7回】/松井 拓己
前回に引き続き、「顧客志向」を建前論ではなく、本気になって実現することで、お客様から選ばれ続ける。そのための具体的な方法を、サービスサイエンスの理論を交えて紹介します。サービスはお客様と一緒に作るもの。だからこそ、お客様の事前期待を掴まなければ、サービスを提供することすらできません。この「事前期待」を掴んでそれに応えるための方法として、顧客の定義の仕方を変えることに着目してきました。今回はその具体的な内容に詳しく触れてみたいと思います。
事前期待の違いによってサービスは別物になる
これまでに、保険の加入相談サービスにおける3つの事前期待の違いに着目してきました。保険の内容、予算感、相談の進め方のそれぞれに対する事前期待には、お客様ごとに違いがありそうです。
(1)保険内容:「できるだけ安心な保険に入りたい」、それとも「そこそこ安心な保険でよい」。
(2)予算感:「納得できれば高くてもよい」のか、「できるだけ安い保険に入りたい」のか。
(3)相談の進め方:「保険は複雑で考えるのが面倒なので、スタッフからお勧めしてほしい」、または「保険は複雑なので、だまされたくないので自分で理解して決めたい」。
この中で、「できるだけ安心な保険」に入りたくて、「納得できれば高くてもよい」という事前期待を持つタイプのお客様がいます。このタイプのお客様は、納得していただければ高い保険に入ってくれるので、保険会社としては是非気の利いた対応をしたいものです。ではどうしたら良いでしょうか?前回挙げた事前期待を思い出してみると、相談の進め方についても事前期待に違いがありそうです。
「保険は複雑なので、自分で理解して決めたい」というお客様には、できるだけ丁寧な説明と小まめなQ&Aを繰り返すことで、とことん納得していただかなくてはなりません。
一方で、「保険は複雑で考えるのが面倒なので、スタッフにお勧めしてほしい」というお客様に対して、同じく丁寧な説明と小まめなQ&Aを始めると、「やっぱり保険って面倒くさい」と思われて、加入していただけない恐れがあります。そこでこの「お勧めしてほしい」という事前期待のお客様には、スタッフがお客様のご要望を的確に把握したうえで、ドンピシャな提案をしなければならないのです。
このように、保険の内容や予算感に対する事前期待が同じお客様であっても、相談の進め方に対する事前期待の違いによって、相談サービスの現場で取るべきアクションを180度変えなければならないことがすぐに分かります。「事前期待」でお客様を定義すると、具体的な努力のポイントが、誰でもピンとくるのです。
「事前期待」を掴まずして、サービスは提供できない
先ほども触れましたが、多くの企業では現在、いろいろなお客様を十把一絡げにして「お客様」としか定義できていなかったり、属性情報でしかお客様を定義できていないことがほとんどです。これでは現場はピンときません。「30代独身女性」のお客様に喜んでもらって保険加入者を増やそうと言われても、保険の相談窓口のスタッフは「いったい何をしたらよいものか・・・」と困ってしまいます。
そこで、「事前期待」でお客様を定義すれば、「できるだけ安心な保険がよくて、納得できれば高くてもよい。なおかつ、お勧めしてほしい。」というタイプのお客様に喜んで契約してもらうためには、具体的にどんな努力をすべきか、誰でもピンとくるのです。
このようにお客様の定義の仕方を変えることで、努力のポイントが今までよりはるかに明確になり、CS向上やサービス改革のために、明日から具体的に何に取り組めばよいかが一目瞭然になります。掛け声や建前なCS向上から脱却して、効果的で具体的なアクションに繋がるCS向上活動を進めるために、「我々のサービスが満たすべき事前期待は何か?」について、是非議論していただければ幸いです。