ノンアルコールビールは「当たり外れ」の面白さ/日沖 博道
この夏の暑さは尋常じゃなかった。仕事が終わって旨いビールを飲めることへの感謝が自ずとにじみ出る季節でもあった。しかし外から帰ってもまだ仕事が残っている、またはランチ時に喉を潤したい、こんな時に強い味方がある。そう、ノンアルコールビールだ。
小生は比較的最近になってノンアルコールビールを買うようになった人種である。昔、ノンアルコールビールが登場した頃に何度かトライしたが、そのマズさに辟易し、ずっと避けてきたからだ。
しかしこの夏の暑さは異常だった。クライアントとの約束で抱えた作業を自宅で片付けているうちに、どうしてもビールらしきものを飲みたいという気持ちが収まらず、近所のスーパーに買い出しに出かけたのだ。
すると棚にはあるわあるわ、20弱種類ものノンアルコールビールの缶が勢ぞろいしていた。ほぼ全部買い込んで、数日かけて片っ端から試してみることにした。その際のことを報告してみたい。
ただし個別銘柄の味の評価は省く。なぜなら味覚は個人・体調によって相当違うので、小生がマズイ!と思っても、それを美味しいと思う人もいるだろうから(この件については後ほどコメントしたい)。
まず驚いたのは、メーカーが異なるのに缶パッケージがそっくりなのがあること(しかも大手同士である)。「ドライ戦争」時に(知らない?かなり昔です)似たような現象があったが、先行メーカーが訴訟をちらつかせて類似パッケージを止めさせたことがあった。それ以来ではないか。
消費者にとっては紛らわしくて困る。事実、小生も後になって「あれ、どっちの銘柄のほうがよかったっけ?」と混乱してしまい、もう一度買いに走って比べ飲みしたくらいだ。
次に気づいたのは、多くのノンアルコールビール銘柄が似たような味わいだったこと。しかも大手メーカーの製品の多くに共通するので、もしかすると製法が近いのかも知れない。基本となるバージョン(というの?)はいずれもちょっとボケた味に、小生には感じられた。今回のように飲み比べてみると、確かに少しずつ風味は違うようだが、それでも微妙な違いに過ぎないし、飲み終わった後の印象ではその違いすら分からなくなってしまうくらいだった。
大手メーカーは基本バージョンに加えて、さらに風味の違うバージョンを出している。柑橘系などの風味を加えたものが多かった(つまりビールの味からは離れてしまう)が、むしろ基本バージョンよりも飲料としては美味しいと感じられた。しかしこれまた皮肉なことに、メーカー間の違いは一層少なくなってしまうのだ。
それに対し、独立系メーカーの商品や海外メーカーの輸入品は、パッケージはもちろん、味の違いもしっかりと感じられた。個人的には独立系メーカーの商品は好きになれなかったが、海外メーカーの輸入品には美味しく感じられたものがあった。
後者の缶パッケージの説明をよく見ると、「アルコール分0.9%」とかなっており、「これじゃノンアルコールじゃないよ」と思ったが、缶パッケージのどこにも「ノンアルコール」の文字はなく、スーパーが「ノンアルコールビール」のコーナーに並べていたのが、小生の誤解を招いただけだ。
結論から言うと、小生はこの輸入品を追加で、まとめて買い込んだ。どうしてもその後に車を運転するとか、クライアント先に出掛けるとかがなければ、小生の場合、微量のアルコールで仕事が滞ることはないと判断したからだ(強引な理屈?)。
この結論が意味するのは、純粋な意味での「ノンアルコールビール」で満足できる商品には、小生はまだ巡り合えていないということだ。まだ発展途上だと言わざるを得ない。
ここで感じるのは、「ノンアルコールビール」という商品の立ち位置の難しさだ。全くアルコールを加えない製法で、ビールのテイストに限りなく近くて美味しいものという3要素を満足しなければいけない訳だ。それを同時に実現するのは、巨大なR&Dリソースを持つ日本の大メーカーでも、いまだに技術的に難しいようだ。
伝聞ではあるが、今後の開発方向としては幾つかの選択肢があるようだ。あくまで1)ノンアルコールでありながらビールのテイストに限りなく近いものを追求するのか、むしろ2)ビールのテイストに拘らずに「食事と一緒に飲めるノンアルコール飲料」という路線を極めるのか、または3)微量ながらアルコールを含ませることでビールのテイストを実現しようと考えるのか、である。メーカーの方々のさらなる努力に期待したい。
最後にお伝えすると、小生が思いっ切り「マズイ」と思った銘柄が数種類。いずれも「ビールテイストのノンアルコール飲料」としての前に、飲み物としてマズイ!と思った次第だ。家族と一部友人(何と迷惑な!)にも試してもらったが、同意見だった。
しかし不思議なことに、ネット上の評価では満点に近いものが見つかった。コメントを読んでも(遠慮がちに「引いて」いる1〜2割を除いて)賛辞が並んでいたりする。仲間内のサクラ行為でなければ(?)、「個人の味覚や好みというのは随分違うもんだなぁ」と感心した次第だ。小生はあの銘柄は決して二度と買わないが…。