学生向けの会社説明では、パワーポイントを使わないほうが良い。/川口 雅裕
「プレゼンテーションでは、パワーポイントを使うものだ」というふうに思っている人が多いのだろうが、学生向けの合同会社説明会などをのぞいてみると、全ての会社がパワーポイントとプロジェクターを使って、説明をしている。あれは、どうみても逆効果であるので、やめたほうがよい。
パワーポイントは、1枚に入る情報量に限りがあるので、どうしても枚数が多くなる。約20〜30分の会社の説明に、20〜30枚を要している。1枚1分程度のスピードで、業界・事業分野・商品・商品の特徴・事例・人材・組織・会社概要・研修・採用方法などが、次々と説明されていく。これらがストーリーになっていればいいのだが、そうではないので、聞いている方は脈絡のない情報を詰め込まれるだけになってしまう。
そもそも、パワーポイントは論理的に理解しづらい。1枚にまとまっていれば、情報の関係性は分かりやすいが、ページが異なるとそれがいっぺんに分かりにくくなる。ペラペラと流暢なプレゼンをされても、ペラペラとページを行ったり来たりめくり直したくなるのは、そのせいだ。また1枚あるいは、せいぜい2〜3枚にまとまっていると、何となく絵として記憶に残る。聞いたことはすぐに忘れるが、見たことは覚えているというのが人の記憶というものであり、その点でも、枚数が多くなってしまうパワーポイントによるプレゼンは得策でない。結果として、学生に会社の印象が残らないことになってしまう。
新卒採用において、会社説明会は学生へ第一印象を与える場として重要である。そして、強い好印象を与える最大の要因となるのは、採用担当者だ。採用担当者の表情、仕草、話しぶりなどの一挙手一投足に学生の関心が集まり、その後、選考に進むかどうか、入社動機が高まるかどうかも、それが大きく左右する。企業も、学生にとって魅力的だろうと思われる人を採用担当者に選んでいるはずだ。なのに、パワーポイントで作った資料をプロジェクターを使って説明する。部屋を暗くして、顔もはっきり見えない。学生の目線は当然、正面を向き、採用担当者には向けられない。なんともったいないことかと思う。
見た目の格好良さを重視して、どうしてもパワーポイントを使いたいなら、枚数をできるだけ少なくする努力をすべきだ。そうすれば、魅力的な採用担当者の表情が見えないような、暗い環境の中で説明する時間も短くできる。だいたい、会社に関する情報を漏れなく説明する必要など全くない。細かなモレも許されないような商売での顧客と学生とは違うからだ。大筋で理解してもらえれば、枝葉のこと、細かなことは省いても何の問題もない。採用担当者を前面に出すには学生との対話が行われるのがよいのであって、それには、最初からもれなく全部しゃべるより、脇を空けておいて質問を誘発するほうがよいに決まっている。最近の学生は質問してこないという人がいるが、それは、漏れがないよう全ての情報を30分もかけて、それも暗い場所でしゃべった末に「何か質問は?」と、急に振るからでもある。