【変革を科学する#8】リバウンド状態に持ち上げて打破する/森川 大作
変化というものはリバウンドの前と後で世界観が変わります。たとえば、人は一旦美味しいものを口にすると、その味が基準となって美味しさの判断レベルが上がるとか、個人的に絶対100回は無理と思っていたのに、それよりもはるかに高い目標が当たり前だと言うことが分かると、100回はいけるかも感じるとか。ある種の劇的な変化の後では、同じものに対する感じ方が大きく異なるという心理的特性があるのです。これを利用して、煮詰まった状況を打破する方法を考えます。
一例としてハンバーガーの味を劇的に改善するという変革を考えてみましょう。既存のハンバーガーに何を加えたら味が変わるのか、あるいは何を取り除いたらいいのか、それをしたらいくらかかるから価格設定に無理が来るとか、ハンバーガーだからこれは必須でしょ・・・などと考えているうちは、なかなか思考が解き放たれません。そこで、思い切ってコスト度外視で高級食材を使ってもいいから、自分が食べたい最良のハンバーガーを新作する<としたら>どうなるかやってみようと試作します。これにより、まずは顧客にとって理想の最高状態とはどういうものかを知るというリバウンドを招きます。もしかしたら何千円もするハンバーガーが出来てしまうかもしれません。それでも、理想状態を共有し、一旦思考をリバウンドさせてから、現実的に落とすべきところを落としていくという過程により、発想の変革を行ないます。
別の例では、現在の顧客訪問頻度を5割増しにしようという営業会議。この話は今に出てきた話ではなく、過去に何度も議題に上ったことのあるいわば積年の課題。話し合うといつもの通り、人が足りないから各拠点に増員をということになる。増員は出来ないから、やっぱり5割増しなんか無理。今回も、可能な限り頻度向上に努めようという掛け声だけになってしまう。そこで、思い切って営業が仮に内勤をゼロにして、すべての時間を外回りに費やした<としたら>、どうなるか試算してみようと促します。当然そんな理想的なことは計算しても意味がないという声が返ってきそうですが、とにかくすべての時間を顧客訪問だけに費やせたらどうなるでしょうという理想状態を一旦計算します。その結果はリバウンド状態を招きます。すると、何人かが計算機を片手に徐々に計算し始めます。100件はいけるな、いや200件はいける・・・などという答えが返ってきます。あくまで理想のリバウンド状態ですから、そのままで実行に移すことは出来ません。でも、一旦リバウンド状態に持ち上げておいてから、現実的な計算を行い、引き算を始める。すると、人々の思考が一旦解放されているので、堂々巡りだった議論が少しずつ前に進み始める。
このリバウンド状態に一旦持ち上げるポイントは、<としたら>という理想状態を一旦仮定し、その状態を垣間見せることです。すると、やるべきことは何も変わっていないのに、リバウンド状態の後の世界観は、できるわけがないという心理状態から、できるかもしれないという心理状態に転移しているのです。
ハンバーガーと言えば、最近、アメリカ人の奥さんをもらった日本人の友人が、海外から帰国し日本で働き始めました。奥さんは愛情たっぷりの愛妻弁当を持たせてくれます。ある日のこと、ランチボックスを開けてみると、かわいらしい”おにぎり”が。がぶっとかぶりついた瞬間、中に入っていたものとは・・・。なんと、ゆで卵とトマトのスライスです!思わず吹き出してしまうと同時に感動の涙が・・・。アメリカ人にとってはランチボックスと言えば、サンドイッチ。そこに挟むといえば・・・。ご主人を思う奥様の愛らしいエピソードでした。それを聞いて、日本にもライスバーガーと言うのがあるなと思い出しました。ライスバーガーの中身は、ライスに合う和食。でも、リバウンド状態に持ち上げてみると、案外ライスバーガーの中身はそうではないかも。もしかしたら、欧米で売れるライスバーガーが開発できる?と思いました。リバウンド状態の後では、ライスに卵とトマトもいけるかも?と思えるのでは?