変化できるビジネスパーソンしか生き残れない/日野 照子
【電卓の計算結果をそろばんで検算?】
江戸東京博物館でこんなものを見つけました。そろばん付電卓「ソロカル」というシャープの製品です。
1970年代後半から1980年代の前半にかけて販売されていました。加減算はそろばんで乗除算は電卓といった使い方や、電卓の計算結果が正しいかをそろばんで検算する、という使い方がされていたそうです。
「過渡的な存在」という説明文がついていますが、この「ソロカル」の存在をを笑えない人は、案外多くいるのではないでしょうか。
【事務の効率化の現場でも同じようなことが。。】
例えば「事務の効率化」プロジェクトでは、ある程度複雑な判断が必要な事務処理をシステムで自動化するというようなことがよくあります。この判断ロジックを組み込んだシステムを作ると、この「ソロカル」のような使い方を編み出すユーザさんが時々いました。
事務システムというものは、人間がその場その場で個人的に判断してきた一見ばらばらな事務処理を要素分解して構造化し、コンピュータが判断できるように徹底的にデータベースやアルゴリズムを考え、ロジックを組み込み、1000ものテストケースを作って検証をして、本番稼働にこぎつけます。このように作られた事務システムは、本番稼働を迎えたらよほどイレギュラーなデータが出てこない限り、処理を間違えることはありえません。
それでも、このタイプのユーザさんは、システムの判断結果が正しいかどうかを、毎回手作業で確かめる仕事を日常業務に追加してしまうのです。もともとの目的であった「効率化」はいつの間にかどこかにいってしまいます。そろばんで電卓の検算をする人と、まったく同じ行動パターンです。
【成功体験が大きいほど、変わることが難しくなる】
過去の成功事例にしがみつくタイプの人も、同種の行動パターンを持っています。
ビジネスパーソンにとって成功体験というのは、案外やっかいなものです。仕事に自信を付けるために成功体験は不可欠なものとされていますし、何かをやり遂げたという経験がビジネスパーソンとしての成長につながることも確かです。けれど、成功体験によって得られた成功事例を先々のプロジェクトでそのまま使おうとすると必ずといっていいほど失敗します。
保守的な企業でよく使われる「ノウハウの横展開」という手法で失敗するのは、この成功体験に固執しているケースがほとんどです。成功体験が大きければ大きいほど、それが正しいと信じてしまいがちですが、物事は常に内外の環境変化にさらされています。たとえ同業他社であっても、経営戦略も、人材の構成や予算規模も何もかもが異なっていて当たり前です。
確かに、同業他社なら似たような課題が発生し、似たような手段で対応できるように見えることも多くあります。特に部分最適であれば、手っ取り早く先行事例を導入すれば解決しそうに見えたりするものです。けれど、実際にその先行事例を導入しようとすると、あちらこちらにひずみができ、うまくはまらず、結局は膨大な時間とお金をかけて大幅にカスタマイズをすることになります。
【強いものではなく、変化できるのもが生き残る】
新しい技術やシステムを適切に受け入れること、自分の信じる方法を時に手放すこと。いずれも環境の変化に適応するといういわば生存競争に勝つために必要な行動パターンです。
「激しい環境変化の中で競争力を保つには、企業変革の重要性を認識し、大胆な戦略を打ち出し、スピーディに行動しなくてはならない。現状を見極め、迅速に意思決定を下せる、過去の成功体験にとらわれずに変化を受け入れる度量の広さを持つリーダーの存在が不可欠。」(MBAマネジメントブックより)
これは「リーダーの資質」という項の記述なのですが、リーダーに限って必要なものではなく、どんなビジネスパーソンにも必要なスタンスではないでしょうか。
いわゆる自然淘汰・適者生存という法則は、必ずしも強いものが勝つのではなく、環境の変化に適応して、変化できるものが生き残るようにできています。ビジネスの世界でも間違いなく当てはまる法則です。