事前期待とは(2) 【連載サービスサイエンス:第4回】/松井 拓己
お客様の事前期待に応えなければ、いくら頑張っても「サービス」とすら呼んでいただけない。このポイントを踏まえて今回は、事前期待に応えるための努力のポイントを明らかにしたいと思います。前回、評価の高いサービスを実現するためには、「事前期待」の中でも「事前期待の持ち方」の4つの種類に着目する必要があると分かりました。その4つとは、「共通的な事前期待」、「個別的な事前期待」、「状況で変化する事前期待」、「潜在的な事前期待」です。これらについて、順に見ていきたいと思います。
全てのお客様が共通的に持っている事前期待に応える意味
1つ目は、「共通的な事前期待」です。これは、すべてのお客様が共通的に持っている事前期待です。例えば、ホテルや旅館であれば、「宿泊するお部屋や水回りが清潔であってほしい」というのは、全てのお客様に共通的な事前期待だと思います。他にも、小売店や飲食店で「感じの良い接客をしてほしい」、ITサービスで「要求通りのシステムを納期までに納品してほしい」など。こういった「共通的な事前期待」には、抜かりなく確実に応えなければなりません。そこで、我々がすべき努力のポイントとしては、「マニュアル化」や「チェックリスト化」をして、拠点や時間帯、スタッフなどによってバラつかない均質なサービスを組織的に提供できるようにしておく必要があります。
しかし実は、この共通的な事前期待に応えるだけではお客様に喜んで頂くことはできません。なぜなら、共通的な事前期待に応えてもらったところで、お客様にとっては「当たり前」だからです。今の時代、失点しないサービスというだけで、お客様は喜んでくれません。お客様に喜んで頂き、選び続けて頂くためには、失点をしない努力だけでなく、得点を増やす努力をしなければならないのです。そこでカギを握るのが、残りの3つ(個別的な事前期待・状況で変化する事前期待・潜在的な事前期待)ということです。
そこで次に、「個別的な事前期待」の中身と、それに応えるための努力のポイントに触れてみたいと思います。
お客様ごとに期待が色々なのは当たり前
「個別的な事前期待」とは、お客様1人1人で異なる事前期待のことです。先ほどと同じくホテルを例にしてみると、「枕はそば殻で厚手のものでないと寝苦しい」「枕は羽毛で薄いものが好き」という様に、お客様ごとに異なる事前期待が該当します。
さて、この個別的な事前期待に応えるために有効な努力のポイントは何でしょうか?
ここで、共通的な事前期待に応えるための努力のポイントで挙げた「マニュアルやチェックリスト」をいくら整備しても、実はあまり効果的ではありません。一律サービスでは、1人1人で異なる個別的な事前期待には応えることはできないからです。
そこで有効なのが「顧客カード」や「顧客データベース」を整備して、現場で活用することです。既に顧客データベースを持っていても、顧客との接点で活用されていなかったり、顧客データの内容が年齢や住所などの属性情報しかなくて事前期待に関する情報が共有されていない場合は要注意です。「サービスはお客様と一緒につくるもの。」サービスの現場で顧客情報が役に立たっていなければ意味がないですよね。
実はこの「個別的な事前期待」に応えると、我々が思っている以上にお客様に感激して頂けます。自分のことを覚えてくれている。自分の好みを知ってくれている。他のお客さんとは違う要望に快く対応してくれた。個別的な事前期待に応えるだけでも、十分に感動サービスは実現できるのです。是非、明日からでも、実際にお客様の個別的な事前期待にアンテナを高く張って、それを掴んで応えてみてください。きっとお客様からの評価がグッと高まるのではと思います。