伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

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 ホテルのバーで彼女が泣きわめいてから1か月後。ミュージカルを見てから3ヵ月後。

 日曜日の夕方。南大沢のミートレアで待ち合わせということになった。なぜ、南大沢・・・。なぜ、ミートレア・・・。肉でも食べたいのだろうか?

「こんにちはー。」 彼女は大きな袋をいくつも抱えて現れた。いつにも増して上機嫌だ。

「で、それは何?」

「アウトレットですよー。契約が全然取れないから衝動買いしちゃいました。」恐ろしいことをさらっと言う。取れてないんだ・・・。まあ、そうだよな・・・。

「そ、そうか。契約、取れないのか。」

「ええ。2度目のアポまでは行ったんですが、『やっぱり興味ない』って言われちゃって、ダメでした。」

「それは何件そう言われたの?」

「3件です。」

「2回会ってもらって?」

「はい。2回目のアポが取れたのが3件で、3件ともそうなりました。」

「そうか。」

 もしそうだとすると、たまたまではないと考えたほうがいいか・・・。

「もう本当にイライラして、服ばっかり買っちゃうんですよねー。」

「そう。でも、大企業でよかったね。」

「どうしてですか?」

「契約がそこまで取れなきゃ、普通、居づらくなるとか、クビとか。そうなるだろ。呑気にショッピングなんてしていられないよ。」腐っても大企業。クビにはならない。それは大事なことだ。1年でクビになるような会社では、育成はできない。

「う、確かに。」

「でも、営業の基本的なことがわからないと、こうやって、いろいろ教わってもピンと来ないから、教育は3年ぐらいは必要だと思うけどね。営業マンを半年ぐらいで使い潰す会社は本当は自分の首を絞めている面があると思うよ。」

「ですよね!私をちゃんと雇ってくれている会社に恩返しをできるように頑張ります!」

 彼女はやる気は満々といった感じだ。だが、いろいろ自分で考えようとするようになって欲しい。そう簡単には行ったら苦労しないか・・・。

 なぜか、台湾料理の店に案内され、なぜかタピオカ入りシークワサーのジュースとからあげというお昼になった。当然、俺持ちだ・・・。まあそれはいいが、なぜだろう・・・。ミートレアってもっと『お肉お肉』って感じじゃないのか・・・。せっかくだからステーキでも食べればいいのに。

「さあ、先生。なんで契約が取れないか教えてください。」彼女はさわやかに言った。いや、教えてもらうのが当たり前という感じなのも困るのだが・・・。

「たまには自分で考えろよ。」

「相変わらず意地悪ですね。教えてください!」またもさわやかだ。俺には真似ができない。

「あのね、なんでも答えを教えてもらって、その通りにやればできるようになるっていう考え方自体をやめたほうがいいよ。この先、少し取れるようになっても、その先に行けないじゃん。」

「いいです。そのたびに先生に教えてもらいます。」

「いや、それはあなたのためにならないからやらない。教えない。とりあえず、それなりに取れるようになるまでだよ。そこから先は自分でやりなさい。」

「えー。嫌ですー。」

「あのさあ。自分で問題を解く面白さとか、そういうものを考えたことないの?」

「自分で問題が解けたらこんなに悩んでいません。受験の時とは違います。」そうか。彼女は受験ではそれなりに成功している。しかし、受験勉強も真面目にやれば考えられるようになると思うけど・・・。

「まあ、そうだけどさ。」

「でしょう。」

 彼女は勝ち誇った表情をした。いや、そういうのを開き直りと言うのではないか・・・。

「でもね、正しいことを固定したうえで、そこからは自分で仮説を立てて、正しさを保留しながら考えられるようにならないと、企画系の業務なんて絶対できないよ。この場合は、『お客さんは必要なものを買う』っていう原則をベースに全ての行為を考えられるよね?」

「私は営業マンです。企画じゃないです。」

 うーん。向上心はないのか・・・。考えることが企画だけではなく、営業にも意味があることはわかってくれていないようだ。

「そりゃあ、そうだけどさ・・・。営業本を鵜呑みにしたり、自分がわからないことを価値がないと決めつけたり、自分ができないことを悪いことだからだと考えたり、これ、すごく似てない?」

「うー。私をディスってますね。」

 ディスる・・・。現代語すぎてわからないが、非難するとかそういうことかな・・・。

「理解が早いな。そうだ。お前の根本的な考え方で間違っているところを直したほうがいいと言っている。」

「なんか、聞いてて耳が痛いです・・・。そりゃ、直せるなら直したいですよ・・・。」

「だよな・・・。『営業はお客さんに悪いことをしているのだから、それはできないほうがいい』って考えてたぐらいだからな。」

 これもディスりなんだろうけど、事実だ。これまでの自分を否定してくれないと先には進めない。

「・・・。そうかもしれないですね・・・。確かに。」

「だから、相手を思うがままコントロールするとかいう大嘘な本に騙されるんじゃない?『○○話法』とか言ってさ・・・。」

「・・・。そうかもしれないです・・・。」

「相手の言っていることを判断を保留しながら理解する、その上で、自分がどう生かせるかを考える。自分がわからない、できないのは、まわりのせいじゃない。自分に経験量が足りていないし、そもそも自分で考えることを放棄しているから。そこに至れないと、この先厳しいんじゃないかな。」

「・・・。はい・・・。」

「と、俺が言うことも鵜呑みにしないで、自分なりに考えたら?全く経験がなくてできないことは、人の言うことをとりあえずやってみるのは大事なんだけどさ。アポも取れるようになって、ヒアリングの二回目もできるようになった。次の段階は自分でやってみてもいいんじゃない?」

「・・・。はい・・・。」

 ようやく素直になった。素直なことはいいことだ。素直というよりは、これまでいろいろ成果が出ているから、言うことを聞けるレベルになったのかな・・・。それとも面倒だから受け流しているだけなのか・・・。

「じゃあ聞こう、なぜやっぱり興味がないと言われるんだ?」

 彼女は考えるそぶりを見せて言った。

「提案が悪いんですかね?」

「いや、おそらく提案自体は悪くない。」

「提案書を持ってきたんですけど、見てくれませんか?」

「いや、見なくてもわかる。上司は承認してくれているんだろう?」

「あ、はい。一応、上司に提案書は目を通してもらっています。」

「じゃあ、問題はないよ。提案営業ってことで、提案書を3年も作り続けてきたんだろう?それ自体は無駄じゃないよ。」

「はい。じゃあ、話し方なんですかね?ヒアリング項目が悪いとか?」

「ひょっとしたらそうかもしれない。」

「えー。それじゃわかりません。」

「自分で考えよう。俺はトイレだ。」

 席を立つ。ミートレアには本当にいろいろな肉屋が入っている。ステーキから、焼きそばから、ラーメンからハンバーグから、本当にいろいろとある。なぜこの中から台湾料理なんだろう・・・。

 トイレから戻ると、彼女は机の上にあった台湾旅行ガイドを楽しそうに読んでいた・・・。帰ろうかな、俺・・・。

 目が合うと彼女は「台湾、いいですよね。行きたいです。」と自然に言った。こういうところは営業適正が高いのか、低いのか。不思議と怒る気にならない・・・。

「契約取って、インセンティブもらってそのお金で行ってくれ。」

「うー。そんなに簡単に取れたら苦労しません。」

「簡単だよ。代わりにとってやりたいぐらいだ。」

「そりゃあ、先生は取れますよ。」

「なぜ?」

「経験があるからです。」

「あのさあ。俺だって、取れなかったことがあるんだよ。」

「本当ですか?」

「ああ、例えば独立当初は仕事がなかった。だから、下請けで頑張った。ブログとメルマガの読者が増えて、セミナーとか地道にやって、本も出して、知っている社長さんが増えて、取れるようになった。誰でも初めからうまくいくわけじゃない。自分で考えて試行錯誤を繰り返すんだ。」

「誰かに教えてもらえなかったんですか?」

「そうだね、教えてくれた人がいないわけじゃないけどさ。強いて言えばお客さんに育てていただいたんだよ。お客さんとのやり取りの中にヒントがある。お客さんの反応から自分で学ぶんだ。それが一番大事なことだ。」

「お客さんですか・・・。」

「ああ、そうだ。お客さんの反応、お客さんの言っていること。そこから自分の行動を変えていく。それで、うまく行ったり、行かなかったり。それを繰り返していくと、少しずつお客さんのことがわかるようになって、取れるようになる。それを『お客さんに育てていただく』と言うのよ。」

「お客さんですか。今回はお客さんは『やっぱり興味がない』って言っています。」

「そう。その発言に至るプロセスに何かヒントがあるんじゃないか?」

 彼女は黙ってテーブルの1点を見据えている。少し、考えているんだろうか・・・。

「普通に訪問して、提案書をお渡しして、提案を始めて。プレゼンが終わって。それで初めて口を開いたと思ったら『やっぱり興味がない』でした。」

「初めて?」

「あ、はい。挨拶ぐらいはしますけど、せっかく提案をお作りしたので、一生懸命プレゼンします。でも、不思議なんですが、前回ほど興味がなさそうな感じがして。10分ぐらいプレゼンして、どうもダメな感じがどんどんしてきて。」

「なるほどねー。」

 なるほど・・・。その感じだと、関心が下がるのも不思議ではない。理由はほぼわかったがどうしよう?今日は自分で気づいて欲しいのだが・・・。

「どうしてこうなっちゃうんでしょう?」彼女はいかにも困り果てた表情をした。悩むのは悪いことではない。それに耐えながら試行錯誤する時間も重要ではある。

「どうしてだと思う?」

「うーん。お客さんが真面目に商品について考えていると仮定すると、やっぱり必要がなくなったってことですかね?」

「まあ、そうかもしれないけどさ。」

「えー。」

「じゃあ、例えばね、俺が君に日曜日にデートに行こうと言ったとする。」

「どこに行きますか?」

「例えばディズニーランドだとしよう。」

「はい。行きたいです!」妙な食いつきだ。ディズニーネタが好きなのだろうか。

「それでね、君は営業がすさまじく忙しくなったとする。毎日毎日深夜まで提案書を作ったとする。約束は土曜日の朝だけど、金曜日もほとんど寝れていない。どうなると思う?」

「目にクマができて、ブスになると嫌なので、サングラスをしていきます。」

「いや、そうかもしれんけど。違うとしたら?」

「仕事は日曜日にやることにして、金曜日は早く寝ます。」

「いや、そうかもしれんけど、そうじゃなくて。」

「そうじゃないですか?」

「うん。じゃあ、君がネイルサロンを予約したとしよう。」

「はい。デートに備えるんですね。」

「そう。女子力を高めるためにネイルサロンを土曜日の午前に予約した。ところが、君は仕事が激烈に忙しくて、金曜日も夜中まで仕事をしていた。月曜日のアポは仕事がとれそうだ。これは頑張らねば!どうなると思う?」

「メイクもせずにネイルサロンに行って、ネイルを作ってもらっている間は寝ているでしょうね。」

「そうか・・・。まあいいが。じゃあ、この2つの話から考えて、俺が期待する答えはなんだ?この2つのたとえ話が君が『やっぱり興味がない』と言われることと関係があるとしたら?」

「ええ、あるんですか!」彼女はさも意外そうに言う。

「あるから言っているんだよ・・・。」いちいち疲れる・・・。『人の意図が全くわからない若者』『空気が読めない今時の若者』とか言われるけど、まさにそうだよな・・・。すごいよな、これは・・・。

「うーん。」

 彼女うなっている。一応、考えてくれているようだが、どんな答えが出るんだろう・・・。まあ、どんな答えでも出ないよりはいい。少しずつ近づいてくれればいいが・・・。

「わかりません。」

 彼女はにっこり笑って言った。いや、にっこり笑って言うことではない。

「わかるとしたら?」

「うーん。」

 彼女はもう一度、考えるそぶりをした。

「わかりません。」

 また、彼女はにっこりとした。

「本当に考えてる?」

「考えるって何ですか?」

「はあ・・・。考えるっていうのは、『事態を想定』すれば考えるってことになるけどさ。」

「事態?」

「そう。事態と言うのは『起こりうる可能性』だよ。この場合は、お客さんがやっぱり興味がないって言っている理由の可能性を1つでも想定できれば、考えたことになる。」

「眠かったとか?」

「ああ、それでもいい。眠そうだったか?」

「はい。」

「それはなぜだろう?」

「私のプレゼンがつまらなかったから?」

「まあ、それもある。」

「でも、必要な商品を真剣に検討しているなら、多少の眠気ぐらいなんとかなりませんか?」

 彼女は語気を強めて言った。まあ、そりゃそうなんだが。

「なる場合とならない場合があるんじゃないか。さっきの俺の例え話と結びつけると?」

「あれ、どんなたとえ話でしたっけ?」

 また、彼女はにっこりとした。おいおい・・・。

「真剣にやってる?真剣じゃないなら帰るよ?」

「わー。ダメです。真剣です。」

「はい、じゃあ久しぶりにやりましょう。」

 彼女の頬を柔らかくぷにっと掴んだ。彼女は固まった。そして、恐れの表情を浮かべている。いや、この前ほど痛くないだろ・・・。まあいいか。

「なぜ、興味がないと言われるのか?それは、お客さんは忙しいからお前のアポのことだけ考えているわけじゃないからだ。」

「は、はひ。(は、はい)」

「だから、二回目のアポで提案をいきなりしてはいけない。提案の前提条件の確認をしっかりして頂くんだ。これはこうでしたよね?と一問一答形式で、確認をしていただく。そして、前回のことを思い出して頂く。その上で提案を聞いて頂くんだ。」

「は、はひー。(は、はいー)」

「お客さんも人間だ。忙しいし、能力の限界もある。だから、前に思っていた必要性なんて忘れてしまうんだ。それはそれで仕方がない。その上、お前の眠いプレゼン。そりゃあ、興味はないって言われるわ!」

「は、はひ。(は、はい)」

「ということだ。わかった?」

 彼女は頬を抑えてピクピクしている。この前みたいに大きな声を出すのもなんなので、だいぶ手加減をして。さして痛くないはずだが・・・。

「痛いじゃないですか!公衆の面前で変なことしないで下さい!」

 正論だ。だが、お昼だからなのか、店は空いている・・・。ほとんど人はいない。それほど公衆の面前ではないぞ・・・。

「珍しくまともな言い分だな。」

「ディズニーランドに行けなくなったらどうするんですか?」

「ディズニー?別にいいだろ、行けなくても。」

「むー。」

 彼女は俺をにらみつけている・・・。なんかいつもより迫力がある・・・。ちょっと怖い。

「せっかくストレス解消したのに、またストレスが溜まりました!どうしてくれるんですか!」

「いいじゃん。2回目のアポでどう言えばいいかわかっただろ。これでインセンティブが貰えて旅行に行ける。」

「旅行!行きたいです!台湾行きたいです!」

「インセンティブ貰ったら行けばいいじゃん。温泉もあるらしいから。」

「ですねー。楽しみです。これができれば契約取れますか?」

「うーん。多分、このステップを越えれば、なんとか取れるんじゃないかな。あといくつか壁はあるにせよ、たまたまうまく行くこともあるし。」

「そうですか!インセンティブが楽しみです。」

「でも、3年間全然売れてないやつがインセンティブもらっていいのかな?」

「ええ、いいんです!3年間昇給ありませんでしたから・・・。」これには俺の方がびっくりしてしまった。

「え!昇給がないの?」

「はい。売れない人は給料が上がらないんです・・・。」

「ということは、新卒並みの給与で働いているということ?」

「はい。」

 さすがベンチャースピリットのある企業だと言うべきなのか、なんなのか。確かに合理的ではある。独立志向で離職率も高いと聞くので、人件費負担は低い。そりゃあ、利益が出るよな・・・。ここ数年で社債のプレミアムもほとんどなくなったみたいだし・・・。すごい会社だ・・・。

「そうか。もしこの話が本になってベストセラーになったら、台湾の旅行費用ぐらい出してあげるよ。」

「本当ですか?」

「まあ、まずベストセラーにはならないけどね。ビジネス書なんて1万部も売れないもんだから。」

「それしか売れないんですか?」

「それ以下だよ。たいてい数千部だろう。」

「そしたら、なんで本を出すんですか?」

「本業はコンサルタントだから、プロモーションだよ。数千部売れたとして、感動する人が5人いて仕事をくれれば万々歳なんだよ。これが本になって、営業改善の仕事が取れるだけで元が取れるんだ。だから、さして売れる必要もない。数千部でいいんだ。出版社側は当然『10万部売るぞ!』っていう気合いを持って売るんだけどね。」

「そうですか・・・。って、よくないです。旅行費用出してくださいね。」

「ベストセラーになったらね・・・。」

 彼女は嬉しそうにタピオカ入りのシークワサーを飲んでいた。ここまで来れば、運でも取れるレベルだ。たまたま取れて自信がついて、いろいろ自分で気づいて、取れるようになることもある。

 あと少し。あと少しだ。3年売れなかったやつを売れるようにできたら、それはそれですごいことだと思う。このノウハウは今時の売れない新人向けにも使えるということだ。それが証明できればいい。

 この考え方は、売れないおじさんたちを立ち直らせるのに使っていたが、新人相手にやったことはなかった。本当にできるようになるかは少し不安だった。しかし、それほど心配することもなさそうだ。ここまで順調に来ている。

「さて、絶対行きましょうね!台湾。」

 そう言って席を立つ彼女が少し頼もしく見えた。

解説:

 さて、いかがでしょうか。提案のプロセスで、何度か訪問することもあるでしょう。何度か訪問するうちに、相手の熱気というか、買う気が萎んでいくというケースはあります。本当は買う気が最高潮になっているその時にクロージングしてしまうのが理想ですが、すぐには提案できない商材もあります。

 仮の発注書をお客さんに書いて頂くようなやり方もありますが、確認した要望を1つ1つ、ノートに書いたうえで読み上げるレベルで通常は構わないと思います。あまりに強引に仮発注書を書かせようとすると、怪しさが再燃することもあるので、私はお勧めしません。

 関心は最高潮になってから時間が経過すると低下するものです。要望の確認は、そのご関心を思い出して頂くということです。お客さんは忙しく、その案件だけをやっているわけではありません。営業マンは自分の商品を売ることばかり考えているのですが、お客さんは何かを買う時にそこまでの関心を保持することは難しいのです。

 これは自然ですよね。四六時中、その商品を買うことばかりを考えているお客さんは確かに理想的ですが、そんな人はほとんどいません。何かの広告を見て「買おうかな」とその時は思っても、売り場に行く機会がなければそんなことは忘れてしまうでしょう。人は日々忙しいのです。

・お客さんは必要なものを買う。

・しかし、その商品を買うことばかりを考えているわけではない。

・他にもやることがあり、忙しい。

・ちゃんと思い出して頂かないと買う気だったことを忘れてしまう。

 思い出して頂くために、ちゃんとメモは取り、必要に応じて、要望を紙にして提示することもありえます。やり方はそれぞれの商材で工夫して考えてみても面白いでしょう。提案書の1枚目は『先日のご要望の確認』という紙にしてもいいかもしれません。

 この記事では基本線は提示しますが、それをそのままやることをお勧めするものではありません。基本を踏まえて、自分に当てはめて頂くことを意図していますので、ご自身でいろいろ考えて工夫をしてみましょう。結局、どの段階に行っても、壁はあります。その壁を超える参考書が常にあるとは限りません。そんな時に頼れるのは、自分しかいないのですから。

 蛇足ですが、もう1つだけ付け加えます。関心が下がる理由を、『信頼関係の構築』ができていないから、ということに帰する人もいます。そういう人が主張することとして、雑談をして、子供の頃の話をすれば仲良くなるとかそういう主張をされることがあります。しかし、私はその主張に懐疑的です。よく営業マンから聞くのは、子供の頃の話をしたほうがいいと言われるが、いきなり子供の頃の話をしても不自然で、切り出し方が難しい、と。

 確かに、これを越えるための工夫もいろいろあることは確かです。名刺に出身地を記載しておくと、ご当地ネタで子供の頃のことを話して仲良くなるという小ネタもあります。ただ、不自然に子供の頃の話をしても、大抵の人は『営業マンは売るためにいる』というコンテクストで営業マンの言動を理解します。怪しい技法として子供の頃の話をするといいというのはもはや有名になっているので、怪しさを払拭したはずが再燃してしまうリスクもあります。

 こういったコントロールをしようとするよりは、素直に『お客さんは必要なものを買う』という文脈で『お買い上げいただくにはどうすればいいか?』を真剣に考え、接しているだけで十分です。

 もし、この前提に従うとすると、雑談をするとして、その内容も結局は仕事がらみのお話になります。業界や経済のニュースなど、仕事に関係のあるお話をするぐらいになるでしょう。常に仕事のことを考える真剣な姿勢を営業マンが示すことは安心につながります。妙に雑談で信頼関係を作るということをやるのであれば、ちゃんとした商談をすることが信頼関係の構築につながることは少し考えればわかることでしょう。

 さて、次は契約がようやく取れそうだと思ったのに、というお話です。どんなことになるのでしょう。果たして契約は取れるのでしょうか?それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。