西武・中村剛也【写真:編集部】

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通算1000安打&300本塁打に王手、6度目の本塁打王も射程

 14年目のシーズンを迎えた今季、西武の中村剛也が開幕から好調を維持している。ここ数シーズン怪我に悩まされることも多かった31歳は、21日時点で27本塁打・86打点をマーク、両部門ともランキングトップをひた走っている。

 中村はすでに5回の本塁打王に輝いている。これは落合博満、中西太、青田昇と並ぶ3位タイの記録で、6回目を記録すれば単独3位(※)となる。自他共に認めるホームランアーチストは、今季も変わらぬ打棒でアーチを量産している。(※1位は15回の王貞治、2位は9回の野村克也)

 なぜ中村は、ここまで安定して本塁打を打ち続けることができるのか。ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜と4球団で捕手として活躍した野球解説者の野口寿浩氏は今季の中村についてこう語る。

「抜群にいいですよね。特に今季は得点圏打率も高いですし、それで打点も伸びています。追い込まれたカウントでは軽打も目立ちますし、そこだけは今までの中村とちょっと違うかなと感じています。ただ、もととなる部分はまったく変わっていませんが。

 中村のいいところは、まず大前提としてナチュラルにパワーを持っています。そこに、意外なほどの柔軟性があって、バットコントロールが柔らかいので、ミート力が高い。自分のスイングの軌道以外は弱い選手も多くいますが、中村はそうではありません。

 パワーと柔軟性という裏付けがある上に、ボールのどこをどのタイミングで打てば理想的な打球が飛ぶのか、そして良いスピンがかかって飛距離が出るのか、ということをよく知っています。自分のポイントで打つ、その場所と感覚、非常に抽象的ですが“コツ”を知っている選手ですね」

本塁打生み出す「バットコントロールの柔らかさ」

 実際に中村の打撃を見ていると、想像しているよりもフルスイングする場面は少ない。軽く打っているように見えて、打球は軽々とフェンスを越えていく。それは“コツを知っている”からだと野口氏は指摘する。

 さらに中村の打撃で特徴的なのが、インコースの球を引っ張っても、打球が切れずにレフトポールの内側に入り、本塁打になる場面が多いことだ。野口氏は続ける。

「ボールを横の位置で考えてください。右打者のインコースにボールが来た時、外からかぶせるように叩くと、左への回転が掛かって打球は大きく切れてしまいます。しかし中村は、インコースのボールに対しても逆回転をかけるように打つんです。本当に微妙なんですが、打球にスライス回転をかけるような打ち方をしています。

 以前、古田(敦也)さんがヤクルト時代、まだ神宮球場が狭かった頃に、ライトスタンドへたくさん本塁打を打っていました。その時に古田さんに聞いたんですが、彼も同じようにアウトコースのボールを少しだけ外側から叩いて、打球にドロー回転をかけて打っていたそうです。だから流し打ちでも切れずにスタンドへ入る。中村のレフトへの打球が切れないのも、同様の理論だと思います。

 ピッチャーはインコースを攻めなければなりませんが、中村の場合、少しでもコースを間違えるとファールにならずスタンドに運ばれてしまいます。これは彼の持つ長所、バットコントロールの柔らかさが生み出したものだと言えますね」

 他を圧倒するパワーに、繊細なバットコントロール。中村は相手から見れば怖い打者なのは間違いないが、パ・リーグの投手たちも手をこまねいている訳ではない。野口氏は、オールスター中断前に行われた、日本ハムとの3連戦にそのヒントがあると指摘する。

前半戦最後に日本ハムが仕掛けた中村対策は…、それでも「怪我さえなければ、本塁打王獲る」

「日本ハムとの3連戦で、中村はノーヒットに終わりました。この連戦で、日本ハムは中村に対して、徹底的に外角を攻めています。3試合目のメンドーサがいくつかツーシームをインコースに投げただけで、あとは外角一辺倒。投げミスでいくつか中に入ることはありましたけど、本当に徹底していました。

 日本ハムが対中村の攻め方としてミーティングで話した内容は、ここにあるのは間違いないと思います。インコースの厳しいところにしっかりコントロールできれば抑えられますが、先ほど言った通り、少しでも甘くなるとスタンドまで運ばれてしまう。

 あと目立ったのは、変化球の多さです。大谷ですら、半分くらい変化球を使っていました。アウトコースの低いところに変化球を集めなさい、という指示だと思いますね。。少なくとも、この3連戦はこの徹底した攻め方で完璧に抑えることができた。今後はこういう機会が増えていくと思います」

 日本ハムは、2位を争う直接対決で西武の4番中村をノーヒットに封じ込め、連戦を3連勝で締めくくった。もちろん、中村は実績のある選手であり、これまでも対策を講じられてきたはずで、それでも数字を残してきている。野口氏は続ける。

「ノーヒットには終わりましたが、中村はこの3連戦、12回打席に立って4四死球を選び出塁しています。結果としてチームは3連敗してしまいましたが、しっかり出塁することでチームに貢献しています。これからも厳しい攻めは続くと思いますが、我慢を続けられるかがカギになるでしょうね。打てないボールが続いて我慢できなくなると、とんでもないボール球に手を出すようになりますし、そうなるとバッティングを崩すことになります。

 ただ、中村は技術も実績もある選手ですし、それほど心配はいらないと思います。ソフトバンク勢も本塁打を増やしていますが、怪我さえなければ、そのまま今季も本塁打王を獲ると思います。そのくらい、力としては抜けた選手です」

 21日のオリックス戦で通算999安打、299本塁打とし、300本塁打&1000安打にダブル王手をかけた中村。通算6回目の本塁打王も視界に入ってきている。チームが熾烈な上位争いを繰り広げている中、主砲がどんなバッティングを見せてくれるのか、目が離せない。