働く現場でのウェアラブル−その可能性と問題点
作業員にウェアラブルを装着させるのはいいアイデアに思えるが、そう簡単な事ではない
ゲスト執筆者Alberto TorresはAtheer LabsのCEOであり、ReadWriteが5月19日-20日にサンフランシスコで開催した年次カンファレンス Wearable World Congressの講演者である。このイベントではウェアラブルテクノロジおよびモノのインターネットの行く末を担う人物に焦点を当てられた。
かつては草の根の趣味レベルだったウェアラブル業界が、今や大衆の関心を集めるまでになっている。イノベーターや投資家たちは群れを成して新しい方面へウェアラブルデバイス市場を広げようとしており、その拡張先には作業現場も含まれる。
スマートウォッチやスマートグラスなどの技術は企業に大きな利益をもたらし、コンサル企業のAccentureによれば何十億ドルもの費用を節約を実現させるかもしれないとの事だ。しかしその可能性は大きな注意点と裏表の関係にある。ビジネスにウェアラブルを導入するという試み、そして作業員と追跡・モニタリングするためのデバイスの装着は大きなプライバシーの問題を抱えることもあるということだ。
問題を回避するため、企業はこれらの点に十分な事前の配慮が必要となる。
時計を身につけさせる
Forrester Researchの最新のレポートによると、世界中のテクノロジーおよびビジネスをリードする企業の内、68%はウェアラブルを企業の優先順として高いものと考えているという。方や、米国の消費者の45%はこれらに何の興味もないということだ。
ウェアラブルというカテゴリーはFitbitやJawboneなどのフィットネストラッカーが主なものとみられるかもしれないが、企業においてはスマートグラスやスマートウォッチのほうがメインになる。 作業現場におけるこれらのデバイスは、数十年前に出てきて以来、固定電話を駆逐した携帯電話と同じ様な道をたどる事になるかもしれない。
ウェアラブルデバイスはオフィスや作業現場に入り込んでいき、やがては経営幹部連から現場作業員にいたるまであらゆる人たちがそれらを用いるようになるだろう。スマートフォンは企業内のコミュニケーションに革新をもたらした。スマートウォッチも同様の可能性を秘めている。アップルやグーグル、マイクロソフトなどがウェアラブルに投資することで、そこで起こる試みはモバイルコンピューティングの次の動きを作ることだろう。
Apple Watchの登場は、スマートウォッチに大きなスポットライトを当てることとなった。他にもAndroid WearやPebbleの類似品によって、雇用者はこれまで携帯を使って行っていたカレンダーのチェックや会議の予約、アラームの設定といった様な基本的な作業を腕時計から行うことが出来る。加えてスマートウォッチではさっと見るだけで重要な情報の確認も出来る事から、雇用者はスマートフォンでそうしたのと同じようにスマートウォッチを使わせる事に前向きだ。
個人の生産性の向上以上に利点となりえることもある。ネットへの接続性やGPS、センサーのおかげで、ヘルスケア・石油ガス・製造・倉庫物流などの業界においてスマートウォッチは業務プロセスの詳細をより明らかにすることになるかもしれない。例えば、従業員が倉庫やその外でどのように働いているかを追跡したり、パイプラインで問題が起こっている箇所を特定、対策を行うことで効率の向上を図るといった具合だ。
だからと言って幅広い企業がこのような移行を易々と受け入れるという事にはならない。IT部門がクラウドを受け入れるようになるまでどれほどかかっているかを考えてみるといい。未だ100%には至っていない。課題は他にもある。企業が考えるスマートウォッチの存在価値そのものが、導入への最大の障害でもある。トラッキング機能についてだ。
企業から提供されるウェアラブルにより、プライバシーの問題を抱える可能性はある事を雇用者は念頭においておく必要がある。またどんなデータがトラッキングされるのか、データはどの様に保存されるのか、会社の誰がそれらのデータにアクセスできるのか、データはどの様に使われるのかなどの一連の質問に対して答えられるよう準備できていなければならない。
スマートウォッチを提供することを考えている企業は、これらの問題に対してよく考えられた仕組みを作り上げる必要がある。
現場におけるスマートグラス
企業にとってのスマートグラス類の価値は、ロケーションのトラッキングやコンピュータとしての基本的な機能以上のものがある。
まず情報をユーザーの視界に表示でき、何かを見ながら直接重要な情報の確認も出来る。この「拡張現実(AR)」は作業員をより安全かつ効率的に働かせ、これまでのデバイスでは成し得なかったコンピューティングやコミュニケーションの実現に役立つことだろう。
これがグーグルがオリジナルのGoogle Glassを発表した際にビジネスにもたらすものだと公約した事であり、バージョン2が登場すれば事はいよいよ現実になるかもしれない。
医療機関はこれまでもタブレットなどの技術をいち早く取り入れてきたが、スマートグラスやEpsonのMoverioなどのガジェットの受け入れは殊更早いものだった。これらのデバイスにより、医者が患者を処置する際に重要な情報や手術中にややこしい手順を表示しておくことが出来る。
ARが提供するハンドフリー体験は、私が勤めているAtheerのほか、HoloLensのマイクロソフトなど多くの者をインスパイアし、ジェスチャーによる操作環境の開発に駆り立てている。
ドキュメンテーションや記録取りもスマートグラスによって効率を大きく向上できるものだ。「腫れあがった」「肥大化した」などの主観的な記述によるのではなく、患者の状態をリアルタイムかつ完全な正確性をもって記録できる。
作業員は医療記録を参照するためにキャビネットやデータベースを探す必要はなくなり、代わりに医師が診察を進める中で、そのデータはリアルタイムで転送され、必要なときは1タップか音声操作、ジェスチャーなどで呼び出せる様になる。スマートグラスは患者の治療に非常に大きな影響を及ぼし得るが、これはまだ皮切りに過ぎない。
しかし繰り返しになるが、これらについてもプライバシーの問題は付いて回る。健康に関する履歴となれば尚更だ。例えば患者と応対するに当たって、医師は情報の取捨選択をどう判断するのか?患者は記録が残ることについて説明を受けたのか?記録媒体は誰がどの様に管理するのかといった問題がある。
どの様なものであれ、新しい技術にはこれまでなかった一連の問題がつき物だ。企業で使用されるウェアラブルについては、プライバシーに関することが問題の筆頭に挙げられるだろう。しかし企業が問題を正しく捉え、十分な対策をすることで乗り越えられる問題だ。ウェアラブルの使用により得られる利点は、その対策に十分見合うものと思えることだろう。
画像提供:
トップ画像およびスマートウォッチと技術者の画像:Intel Free Press
医者とスマートグラスの画像:Atheer Labs
Alberto Torres
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