次の大地震は房総沖で発生する? 前兆「ゆっくり滑り」が起きていた
千葉県沖で気になる現象が起きている。年明けから「通常とは異なる地殻変動」が見られたというのだ。
陸側のプレートと海側のフィリピン海プレートの間で引き起こされる「ゆっくり滑り(スロースリップ)」と呼ばれるもの。専門家によると東日本大震災直前にも発生しており、因果関係について研究が進められている。
地盤が通常とは異なる南東へ6センチ動いた
国土地理院は2014年1月10日、房総半島の観測データに1月2日ごろから地殻変動が検出されたと発表した。ゆっくり滑りによるものと推定する。
通常、地震のメカニズムはこうなっている。海側のプレートがずれて陸側のプレートを引きずり込みながら沈むが、限界に達すると陸側プレートが反発して跳ね上げられるようになる。この時に揺れが起きるのだ。ゆっくり滑りの場合、プレートがずれ動くのがゆっくりであるため陸上で大きな地震につながらない。房総半島沖で起きたものは、地盤が通常とは異なる南東の方向へ最大約6センチ動いたという。1月2日以降で千葉県東方沖を震源とする地震を調べると、1月2日22時過ぎにマグニチュード(M)5.1で千葉県東金市などが震度3、また1月7日22時過ぎにはM4.1で千葉県長南町が震度3となっていた。いずれも大きな被害は報告されていない。
東京大学地震研究所の小原一成教授らが発表した「東北地方太平洋沖地震発生前に見られたゆっくりすべりの伝播」という論文がある。米国の権威ある学術誌「サイエンス」に2012年1月20日付で掲載されたものだ。ここには、ゆっくり滑った場所の周辺には「力が集中します」との説明がある。その例が、2011年3月11日の東日本大震災というのだ。
本震発生前の約1か月間に起きた地震活動を解析した結果、「破壊開始点」へ向かうゆっくり滑りの伝播が、ほぼ同じ領域で2回起きていたそうだ。1度目は2011年2月中旬〜末、2度目はM7.3の「前震」が発生した3月9日だ。特に2度目の滑りは伝播速度、滑り量、滑り速度いずれもが増加しており、「より効果的に、本震の破壊開始点へ力を集中させていた」とみる。震源が、ゆっくり滑りによって本震の破壊開始点へと移動すると同時に、移動した先の場所にエネルギーが蓄積されていたことからM9.0の大地震につながったというわけだ。
ゆっくり滑りの発生間隔は過去最も短い
論文によると、ゆっくり滑りにより必ず巨大地震が発生するとは限らない。ずれ動いた先に、地震を引き起こすのに十分な弾性ひずみエネルギーが蓄えられている必要がある。この論理なら、今回房総沖でゆっくり滑りが起きているからといって、蓄積されたエネルギーが少なければ大地震にはつながらない。
小原教授は、「週刊女性」2月4日号のインタビューにこたえている。東日本大震災では地盤が40センチ動いたといい、房総沖のずれと比べて格段に大きい。ただ、この数値だけで地震の規模は推定できないそうだ。プレートの間でどのくらいの負荷をためこんでいるか、それ次第なのだという。また「時期は予想できません」と前置きしつつ、場所については「東北や南海トラフではなく、千葉県沖で間違いない」と明言していた。首都地震が現実味を帯びてきたというのか。
国の中央防災会議の作業部会は2013年12月19日、M7級の首都直下地震が発生した場合の被害想定をまとめた。死者は最悪で2万3000人、経済被害は95兆3000億円、全壊・焼失する建物は最大61万棟に上るとの推計だ。M7級地震は「30年以内に70%」の確率で起こるとされている。これだけでも相当な損害だが、「週刊現代」1月18日号では「想定が小さすぎる」という専門家の主張を掲載している。
例えば東京ドームのような「大規模集客施設」や、東京・新宿駅をはじめとする「ターミナル駅」、加えて「地下街」では、利用者が大勢滞留した状態で停電や火災などが起きてパニックが発生すると想定しつつも、数字上の死者や負傷者は「ゼロ」となっている。あまりに楽観的な見通しというわけだ。被害額も、巨大地震が発生すれば古いコンビナートが打撃を受けたり、都心部で液状化現象が起きたりすれば大幅に膨らむ。インフラが壊滅すれば天文学的な数字になる恐れがあるだろう。
房総沖のゆっくり滑りは1996年以降、今回が5回目だ。前回が2011年10月だったので27か月ぶりとなるが、実はこの期間は過去の発生間隔と比べて最も短い。いつ、どれほどの規模の地震が起きるかは分からないが、これを予兆ととらえるならば十分な備えをしておいて損はない。