オマーン戦の日本が序盤から圧力をかけていったのは、前回のコラムに書いたとおりである。意欲的な姿勢は奏功し、11分の本田の先制ゴールにつながったわけだが、オマーンも無抵抗だったわけではない。

 GKアリ・アルハブシは、リスタートにたっぷりと時間をかけていた。プレーが止まったところで慌ただしくメモを取り、視線をピッチへ戻す。アルハブシはまだ、ボールを蹴っていない。そんなシーンが何度となくあった。

 開始4分には、香川との接触プレーで痛んだアハメド・ムバラクが、ピッチ上に倒れ込んだ。ゲームが中断される。オマーンのドクターがピッチ内に呼び寄せられ、しばらくしてからタンカが入っていった。

 キックオフからパワーを注いでいた日本からすれば、勢いを削がれかねない。できるだけ早く再開したいところだ。

 ここで、長谷部がイルマトフ主審のもとへ駆け寄った。一刻も早くゲームを再開したいという意思表示だった。

 時計の針は進んでいる。このシーンを巻き戻して、4分から試合を始めることはできない。大切なのは、同じような時間を繰り返させないことにある。

 0対0のままで、終盤を迎えたとしよう。オマーンは露骨なまでに時間稼ぎをしてくる。そこで、「何分にも同じことがあったじゃないか。あの選手は何度も時間稼ぎをしているじゃないか」とアピールするために、主審に印象づけておくのは大切なことだ。些細なことではあるが、これもまた勝敗に影響を及ぼすゲームのディティールである。

 書き留めておきたい場面が、もうひとつある。58分、途中出場の酒井が右サイドからクロスをあげた。キャッチしたGKアルハブシは、右サイドへ開いたイブラヒム・サレハへフィードしようとした。

 対面する長友が、すかさず間合いを詰めた。

 カウンターのきっかけを摘み取ったのだ。フィードを断念したアルハブシは前線へボールを蹴り上げ、今野が競り勝つ。セカンドボールは遠藤が収め、日本のボールでゲームが進行していった。

「最終予選は難しい」とか「一瞬のスキが命取りになる」言われるが、「難しさ」はこうした細部に宿る。個人技術や個人戦術はもちろん、勝敗を左右する小さな兆しにも敏感だからこそ、長谷部や長友はザックの信頼を得ている。前回予選の経験者としてだけでなく、経験を通して戦術眼や危機察知能力を磨いてきた彼らの存在が、チームを引き締めているのは間違いない。