試合後、遠藤(右)と話し合う稲本。(photo by Kiminori SAWADA)

写真拡大

 08年の始動となった1月の指宿合宿で、岡田監督は「6月が重要だ」と話していた。コートジボワール、パラグアイとのキリンカップを経て、6月にはW杯3次予選が4試合行なわれる。9月開幕の最終予選を見据えると、このタイミングでしっかりとした土台を築いておく必要があった。

 5月24日のコートジボワール戦で、岡田監督はインパクトのあるメッセージを発信する。川口能活、中村憲剛、鈴木啓太、巻誠一郎ら、3月のバーレーン戦に先発したプレーヤーがスタメンから外れたのである。彼らはみな、オシム前監督が重用してきた選手たちだった。

 1−0でコートジボワールを退けたこの試合では、長友佑都が左サイドバックで代表デビューを飾った。75分に投入された香川真司も、代表初キャップを記した。高原直泰の調子があがらないFW陣では、玉田圭司がドイツW杯のブラジル戦以来となる先発に指名されている。

 3日後のパラグアイ戦では、鈴木、中村(憲)、巻らの“オシム・チルドレン”が先発に名を連ねた。岡田色の強いコートジボワール戦か、それともオシム色の残るパラグアイ戦が、指揮官の理想とする11人なのか。答えは6月2日のW杯3次予選、対オマーン戦で明らかになった。

 中村俊輔、松井、長谷部の海外組が揃って先発で起用され、前線では玉田と大久保がタテの関係を築く。現代表のひな型となる4−2−3−1の登場である。自らの志向するサッカーを、岡田監督ははっきりと意思表示したのだった。

 松井と中村(俊)を中盤でワイドに開かせるのは、所属クラブでの役割と共通するので無理なく当てはまる。また、それまで攻撃的なポジションで使われてきた遠藤のボランチ起用には、中村(俊)よりひとつ低い位置にボールの落ち着きどころを持つ、という意図があった。

 しかしながら、中盤の人選に限って言えば、岡田監督の独自性が反映されたものではなかっただろう。違う誰かが監督をやったとしても、おそらくはこの4人の組み合わせを考えるはずだ。

 興味深かったのは前線である。

 アジリティ(敏捷性)豊かでドリブル突破が鋭いという意味で、玉田と大久保は同タイプのストライカーに分類できる。それだけに、彼らが同時に起用されることはほとんどなかった。高さがあってポストプレーに長けた選手と、アジリティのある選手を組み合わせることで、両者の足りない部分を補いながら長所も引き出す。日本代表でもJリーグでも、2トップの組み合わせはそうした考え方が一般的だ。

 岡田監督は違った。「高さ+敏捷性」ではなく、「アジリティ+アジリティ」で相手のゴールをこじ開けようとしたのである。

 大久保が出場停止となった6月14日のタイ戦では、玉田のパートナーに香川を指名した。22日のバーレーン戦では、佐藤寿人が玉田とコンビを組んだ。高さが必要な場合に備えて巻や矢野貴章をベンチに置きつつも、岡田監督は俊敏なストライカーの起用にこだわった。

 「人もボールも動くサッカー」というコンセプトで世界へ飛び出していくのであれば、日本人が持つアジリティを最大限に生かそうと考えたのだろう。

 もっとも、FW陣の得点が少なかったこともあって、岡田監督のキャスティングが話題にのぼることは少なかった。バーレーン戦(ホーム)の決勝ゴールをあげたのが右サイドバックの内田で、しかも相手GKとDFの連携ミスによるものだったことも、締めくくりとしては物足りなかったはずだ。

 FWのキャスティングが分かりやすい形で評価されるのは、もう少し先のことになる。

■関連リンク
第1回 「オシム流の継続と、封印された岡田色」
第2回 「加速する岡田流と、チームを去った黄金世代」

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖