香港などアジアでも基本料金1000円はすでに存在する。HK$63=約950円。

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ソフトバンクモバイルに引き続き大手2社も1,000円台となる新しい基本料金を提供することになった。端末購入価格が引きあがるとはいえ、これまでは基本料金引き下げに否定的だったシェア上位2社が追従した意義は大きいだろう。

■基本料金1,000円は実現できた
割高と言われ続けてきた日本の携帯電話料金も、NTTドコモとauが最低1,000円台の新料金体系を打ち出し、これまでより大幅に安い料金が提供されることとなった。総務省の報告では日本の携帯料金は海外と同レベルと言われているが、現実的にはアジア各国と比較するとそうとは言えないだろう。シンガポールや香港などアジアでも物価が日本に近い国でも基本料金1,000円はめずらしくない。もちろんサービス内容や端末販売方法が違うため、一概に料金だけを比較・議論してはならないだろうが、日本の料金が海外と同レベル、とも言い切れないわけだ。

日本の携帯基本料金はこれまで複雑な割引や長年利用により半額程度までしか値引きされなかったが、980円という明快でわかりやすい料金を大々的に打ち出したソフトバンクが新規加入者数を伸ばしたことで、今回、NTTドコモとauもそれへの対抗を余儀なくされた形でもあろう。便利なサービスや高機能な端末を提供するために現状の料金維持は必須と言われることもあったが、市場の競争原理が働けば料金引き下げは実現できたというわけだ。

ただしNTTドコモもauも、割引のある基本料金(以下割引プラン)では端末の購入価格が上がるという。これは裏返せば従来の基本料金には携帯使用料金以外の料金が含まれており、それを消費者が均等に払っていたということを通信キャリアが初めて認めた、ということにもなるだろう。そして両社は従来の基本料金プランを選べば今まで通り端末購入時には割引を受けられ、初期導入費用を抑えることができるという。では割引プランのメリットとはランニングコストが安いだけなのだろうか?

■基本料金と端末料金分離のメリットと可能性
割引プランでは端末購入時に割引を受けることができない。すなわち基本料金には端末の割引分が含まれず、基本料金と端末料金が分離されているわけだ。このため割引プランに加入しようとすると、最初に初期費用として数万円の端末代がかかり、購入時の敷居がこれまでより高くなってしまう。しかし端末代金の支払いは分割払いが可能だ。これにより、たとえば6万円の端末でも24回払いを行えば月々2500円程度の負担となり、1,000円程度の安価な基本料金と加えれば毎月の支払額は従来の基本料金レベルとなる。ただし従来の基本料金に各種割引を付与したほうが毎月の支払額が低くなるといったケースも出てくるだろう。

とはいえ、基本料金と端末が分離された意義は大きい。端末を分割払いした場合ならば、分割払いが完了したあとは安価な基本料金だけで維持ができるからだ。上記のような買い方ならば24ヶ月の支払い後にかかるコストは毎月の携帯料金だけとなるからだ。もっとも細かいところでは利用できない割引などもあり、従来の基本料金と割引プランでの毎月の利用額が同一とはならないケースもあるだろうが、それでも端末を頻繁に買い換えない利用者にはメリットが大きい。

この基本料金と端末代金の分離は、利用者に"端末を買わない"という選択肢を与えることもできる。端末を買わずにどうやって携帯電話サービスを利用するのか? たとえば人からの譲渡やオークションなどによる入手などがあるだろう。新規契約時に欲しい端末がなかったり価格が高すぎるといった場合に、回線契約だけを行い端末は別途入手する、ということも増加していくかもしれない。また新規契約しながらも端末は自分の使っているものをそのまま使い続けていく利用者も出てくるだろう。現在の日本には中古端末市場は細々としか存在していないが、将来はより広がっていくかもしれない。通信キャリアも店頭展示品の工場リフレッシュ品や旧モデルの在庫品をを安価な基本料金を選択した利用者に低価格で提供する、という展開も今後広がるかもしれないだろう。

安価な基本料金は個人の複数回線所有を促す効果もある。自宅で余っている端末を2台目として利用するとか、新機種に買い替えつつも今まで使っていた機種も使い続けたい、と考える利用者も今後出てくるだろう。実際にソフトバンクの980円プランも"2台目ケータイ"という売り方もしており、これにより携帯電話の利用者数は今後まだまだ増加する可能性もありうるのだ。通信キャリアにしてみれば利用者には常に新機種を提供し、新しいサービスを使ってくれることで収益を上げたいのが本音だろう。しかし安価な基本料金の提供は複数所有者を増やすこととなり、たとえ2台目端末が旧機種であろうとも結果として加入者増や収入増を生み出す可能性を秘めているのではないだろうか。

さらに今後はメーカーブランド端末が市場参入しやすくなるメリットも見逃せない。現時点ではNokiaやHTCなどごく一部のメーカーブランド端末しか日本では発売されていないが、今後は他のメーカーも日本で売れそうな端末を単体で販売する可能性も出てくるわけだ。これまではメーカーが独自に販売しようにも割高な基本料金や販売ルートの確保など難点が多かったが、今後は回線だけを契約した消費者が端末だけを別途独自に入手することがより容易になる。もちろん海外の端末は日本独自の規格、たとえばワンセグやおサイフケータイ機能には対応していないが、ブランド携帯やラグジュアリー携帯など、自己主張や見せびらかし用として海外携帯を2台目に持つ、と言ったことが可能になるかもしれないのだ。

Bang & OlufsenとSamsungがコラボした高級携帯、Serenata。W-CDMAに対応しており日本で発売することが可能だ。中国のODMメーカーによるHSDPAモデム。単体で携帯電話にもなる。こんなユニークな製品が日本で単体登場する可能性もあるかもしれない。


海外では多くの国で基本料金と端末料金は分離されている。このため料金が安く、端末の価格はメーカーや小売店が決めた"定価"であり、日本と比較すると高めである。しかし通信キャリアはSIMロックをかけたり契約固定期間を設けることで端末を大幅に割引販売している国も多い。日本ではこれまで"端末は安く料金は高め"という選択肢しかなかったが、海外と同様に"料金は安く端末は端末本来の価格"という選択も選べることになったわけだ。

この2つはどちらが優れているというものではなく、重要なのは消費者に選択肢を与えることである。どちらの販売方式が今後主流になるかは、最後は消費者が決めることになる。仮に割引プランが主流となっていけば、将来はこれをベースとした新しい料金プランや端末割引プランも登場する可能性もあるだろう。それが結果として消費者にメリットのあるものであれば、各通信キャリアには今後技術革新だけではなく料金の面でも大いに競い合って欲しいものである。

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山根康宏
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