ホットスポットから屋外に出て無線LANの電波が切れると自動的に携帯電話回線に再接続される。

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3Gを提供する全キャリアがHSDPAサービスを提供している香港。主力サービスはスマートフォンやノートPCからの高速データ通信だ。各社とも料金やサービス内容に差をつけた差別化を図ってシェア競争を行っているが、HSDPA参入最後発のPCCWでは同社の無線LANサービスを組み合わせた利便性の高いサービスを提供している。

■HSDPAと無線LANをシームレスに提供するということ

香港のPCCWが提供する"Netvigator Everywhere"は無線LAN内蔵ノートPCにUSBタイプのHSDPAモデムを接続し、専用ソフトを利用することによりHSDPA、無線LAN、両方の通信方式をシームレスに提供するサービスだ。利用する回線は同社の提供する無線LANサービス"Netvigator Wireless"と、同社傘下の携帯キャリア"PCCW Mobile"のHSDPA(またはW-CDMA)である。専用ソフトを立ち上げると画面には携帯回線と無線LAN、両方の電波強度が表示される。右下の緑の矢印ボタン=接続ボタンを押すと、電波強度の強い回線に自動で接続されるのだ。すなわち利用者は携帯回線を使うか、無線LAN回線を使うか、といったことを意識することなく、常に最適な回線に接続することが可能になるのだ。
Netvigator Everywhereサービスの案内とHSDPAモデム。


また接続中に移動した場合、電波強度がゼロになり接続が切断されると、もう1つの回線のほうに自動で接続される。たとえばコーヒーショップなどホットスポットで無線LANに接続し、そのまま店を出て無線LANの電波が切れた場合、自動でHSDPA回線へ再接続してくれるのだ。再接続には数十秒程度の時間がかかるが、利用者が手動で回線を繋ぎなおす必要はない。

もちろん無線LANと携帯電話のパケット通信とでは回線の品質の差や速度の差がある。同社の無線LANサービスはIEEE 802.11 b/gであり、HSDPAは下り最大7.2Mbpsである。しかしよほど大量のデータをダウンロードでもしないかぎり、極端に両者の差をデメリットとして感じることはないだろう。メールのチェックや通常のWEBブラウジングを行う程度であれば、むしろどちらの回線を使って接続するかを考えるよりも、その場でソフトウェアが最適な回線を自動で接続してくれるほうが利便性は高い。なおソフトの機能として手動で無線LAN、携帯回線、どちらかだけを選択して利用することもできるので、高速なアップロードが必要な場合は無線LANに固定にする、といった使い方も可能なのだ。

このようにNetvigator Everywhereサービスは利用者がいつでもインターネットへ接続できる環境を提供するサービスである。どの回線を利用するかを意識する必要はなく、移動中でもどこにいようとも、常時インターネットに接続した状態をキープしてくれるサービスなのだ。

無線LANホットスポットにて。専用ソフトの画面(右下)を見ると携帯回線より無線LANの電波強度が強いので、この状態で接続ボタンを押すと無線LANに接続される。ホットスポットから屋外に出て無線LANの電波が切れると自動的に携帯電話回線に再接続される。


■オールラウンドプレーヤーならではのサービスと課金方式

PCCWは香港の固定キャリア市場ではNo.1である。以前は香港の固定電話をほぼ独占していたが、固定電話の自由化により現在はシェア60-70%程度と苦戦しており、年々シェアを下げている。このため同社は"脱・固定電話"ビジネス化を図り、ADSLサービスやインターネットテレビ事業に力を注いでいる。また非・有線サービスとして無線LAN事業を開始したのに加えて、シェア最下位だった携帯キャリアを買収した。こうした事業展開により通信サービスにおけるオールラウンドプレーヤーとなり、複合的な通信サービスの提供が可能になったのだ。特に同社の無線LANサービスは香港内のホットスポット設置箇所が3000以上と同業他社を引き離しダントツであり、ファーストフードや鉄道駅のほぼすべてをカバーするなど使い勝手が高い。

オールラウンドプレーヤーである同社ならではの料金体系も特徴だ。Netvigator Everywhereの基本料金はHK$538/月(約8100円)であるが、同社のADSLサービスに加入している場合で18ヶ月の固定契約を結ぶとHK$328/月(約5000円)と約40%引きの料金で利用できる。またUSBタイプのHSDPAモデムもHK$2480(約3万8000円)がやはりADSL加入で最大無料となる。

このような割引は日本でもイーアクセスがHSDPAとADSLの複合割引のような形で行っているが、イーアクセスの両サービスの加入者増を目標としているのに比べ、PCCWは加入者増に加え顧客流出防止効果も視野に入れている。PCCWが、顧客確保までしたたかに行う背景には、香港では携帯電話のみならず固定電話も複数キャリアが参入しておりMNPにより容易に移転できだけでなく、ADSLやインターネットTV/ケーブルTVも同様に容易に変更できていまう環境がる。せっかく新規顧客を獲得しても、他社にいつでも奪われてしまう可能性があるのだ。

そのためPCCWは、提供する各サービスを複数組み合わせて割引し、さらに固定契約期間を設けることで顧客の流出防止を図っている。たとえば固定電話にADSLを同時に1年契約することで基本料金の減額などは標準的な割引サービスになっている。このような割引サービスを受けている顧客が、今回紹介したNetvigator Everywhereサービスを追加で申し込んだ場合、ADSLの固定契約期間が終了してもNetivgator Evierywhereサービスは引き続き固定契約期間が残っているため、ADSLを解約することができなくなる。もちろんADSLの解約は可能だが、解約することで違約金が発生するためほとんどの顧客は解約せずに、さらに契約を延長することになる。このように割引サービスを提供しながら自社の各サービスに顧客を取り込み、他社への流出を防ぐ料金体系にしているのがPCCWの戦略なのだ。

■携帯キャリアも複合サービス提供が必要になるか

海外ではすでにノートPCなどでのパケット定額制はHSDPAサービスを主力商品として各国で提供されている。一方日本では、まだ大手キャリアがようやく重い腰を上げだしたにすぎない状態だ。しかし今後より高速なデータ通信技術が提供されるようになれば、携帯電話のみならずスマートフォンやノートPCからも定額で利用できるパケット料金体系が求められるのは避けられないかもしれない。

またモバイルWiMAXの登場で携帯電話と無線LANといった垣根も無くなりつつある。日本でもWiMAXの事業免許がいずれ発行されるであろうが、既存の携帯キャリア単独では免許が発行されない予定なので、複合サービスへの展開は否応なく迫られているともいえる。

HSDPAもWiMAXも高速データ通信環境という点では同等のサービスである。利用者の利便性を高めるには、今回紹介したNetvigator Everywhereのように料金体系だけではなく使い勝手も複合化されたサービスが提供されることが望ましいのではないだろうか?


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山根康宏
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