音楽データの「オンラインストレージ」サービスについて、サービス運営者は著作権侵害にあたるとの判決が下された。音楽データを個人が保存し、ネット上にアップして携帯電話にダウンロードする。こんな個人的な行為に対しても「私的複製」が認められないという驚きの判決だ。単にデータを「仲介」しているだけのサービス運営者もとんだとばっちりだ。

   「オンラインストレージ」サービスとは、特定の人を対象に、ネット上にデータを保存するサービス。

   東京地裁(高部眞規子裁判長)は2007年5月25日、携帯向けサービスなどをてがけるイメージシティが運営していた携帯電話向けのストレージサービス「MYUTA(ミュータ)」について違法だとする判決を下した。このサービスは、利用者が同社のサーバーに音楽データを保存し、携帯電話にダウンロードするというもの。日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権侵害を指摘し、イメージシティが著作権侵害に当たるのかを確認するために訴訟を起こした。

サーバがファイルデータを送信している、というだけで「違法」

   判決文によると、イメージシティは、利用者は自分でアップロードした曲しか携帯電話にダウンロードできないことから、「私的複製」であると主張していた。しかし、音楽ファイルが同社のサーバーに置かれた上で、そのサーバーから各利用者の携帯電話に送信されていることなどから、このサービスでの複製及び送信の主体は同社であり、不特定の者に対して送信していると判断された。このため、JASRACの許諾を受けない限り、著作権侵害に当たるとの見方を示した。

   イメージシティは「判決の内容を確認している最中で、今後の対応を検討している」としている。

   一方のJASRACは判決日の07年5月25日、

「今回の判決は、ユーザーに対し著作物をアップロードさせるシステムを提供するというサービスについて、そのサービス提供者に著作物の利用主体としての責任が及ぶことを明確に示したものであり、高く評価されます」

と、東京地裁の判決を評する声明を発表している。

   そもそも、今回のサービスはPCのデータを利用者が聴くという、極めて「私的」と思われるケース。判決文では、同社のサーバがファイルデータを送信している、というだけで著作権を侵害している、としている。これが著作権侵害となるようでは、著作物をアップロードさせることができるストレージサービス全般についても、著作権侵害が指摘されることになってしまう。

   JASRAC送信部有線放送課はJ-CASTニュースに対し、今回のケースは専用のアプリケーションを使ってイメージシティ社のサーバ内のデータを送信していたことから著作権侵害が発生するとの見方を示した上で、「(ストレージサービス全般に)どういう権利が発生するのかは、個別に判断しなければわからない」と、ストレージサービスがどういった場合に著作権侵害を問われるのかについては明確に示していない。

ヤフーは「今後、対策を検討する」

   しかし、大手企業が運営するストレージサービスについても今回の判決の影響が広がっている。

   ストレージサービス「Yahoo!ブリーフケース」を運営するヤフーはJ-CASTニュースに対し、「今回の判決を受けて、今後、対策を検討することになる」と答えた。「Yahoo!ブリーフケース」について、同社は現在までに、ガイドラインで他人の著作物のアップロードを禁じるなどの対策を講じているが、あくまでそれは自己申告のかたちをとっている。同社も、公開されているファイルについてはパトロールをするなどの対策を取ることは可能だが、個別のストレージサービスをチェックすることはプライバシーなどの問題でできず、「異常にIDを取得する、ファイルを大量にアップロードする場合」を除いて、チェックは不可能だという。

   ストレージサービスに詳しいある弁護士は、今回の判決について次のように話す。

「これでは他のストレージサービスはすべてアウトになってしまう気がする。今回のケースは厳密な1対1対応で、公衆送信しているわけではない。ほかのストレージサービスの方がよっぽど危ういんじゃないでしょうか」

   ネット上の掲示板でも、判決に批判的なこんな書き込みが相次いでいる。

「これ、インターネット終わるって」「日本のネットはもはや恐怖政治だな」「データーの一時預かりを禁止にしたら経済的にすんごい大損失になるんじゃねーの」