「障害者に付き添っていることが私の仕事です」と障害者ヘルパーの若い女性が話す。家族でも親友でもない障害者のそばに付き添い、手足の代わりになる。料理、洗濯、掃除など障害者が望むように行う。そこには、単に介護サービスという言葉では言い表せない苦労がある。

 手足の自由を奪われた重度の障害者は車いすから、自分の希望をヘルパーに伝える。排泄が自分でできない障害者の場合、おしめを替えることも大事な仕事の一つだ。ヘルパーとして2年目を迎える彼女は「慣れるまでは気が重い作業の一つですが、本当に大変なのは障害者のそばに常にいることからくるストレスです」と話す。

 料理の好きな障害者からは、「野菜の切り方が大き過ぎる」など、包丁の使い方、調味料、火加減に至るまで細かい注文が飛んでくる。この障害者にとっては、あくまで自分が料理人という意識なのだ。一方、彼女に料理を一切任せる高齢者から肉じゃがをリクエストされ、母親に携帯電話で連絡して作り方を教わり、その場をなんとか切り抜けたというエピソードもある。「作れません」と言うものなら、厳しい言葉を浴びさせそうな気難しい障害者だったからだ。

 洗濯や干し物のやり方にも障害者それぞれで好みが違うという。「初めて洗濯する、干し物を体験するという気持ちで、利用者さん(障害者)に尋ねます」と彼女は言う。靴下など干し物の裏表や洗濯バサミで挟む場所など、障害者に一つひとつ尋ねるという気配りを欠かさない。

 「それをテーブルの上において」という言葉だけで、高齢者の指し示すモノや希望を的確に理解するには、その人の性格や考え方まで知る必要がある。家族、配偶者、恋人であれば、理解しようという気持ちも自然と湧き上がり、なんとかやっていけるが、第3者の他人となるとそうはいかないのが現実だ。

 「味が合わない、焼き加減が違う」などと言ってなかなか口にしてもらえなかった料理を、ある日初めて口にしてもらい、「『おいしい』と言ってすべて召し上がって頂けた時、とてもうれしかったです」と彼女は笑う。いつも小言を言って、怒ってばかりいた人が笑顔を見せるようになったり、反対に、障害者ヘルパーとして付き添った当初はいつでも明るかった人が苛立ちをぶつけてきたりした時に、障害者から「信頼されている」と実感するという。

 「私たちの仕事は、医師や看護士のように医療を施すことではありません。障害者の人たちにとっては、単に生活を送るためのほんの一部に過ぎないのです」と黒子のように淡々とこなしていくことが重要になる。そんな中で、些細ではあるが、ふと起こる障害者との心の触れ合いが、彼女の仕事での喜びだ。【了】